第639話 グレンヴィル家(料理長)の家族会議。
「帰ったぞ。」
「はいはい。アナタ、おかえりなさい。」
料理長は帰宅すると玄関で料理長の妻が出迎えた。
「お父さんおかえり~。」
ヒルダが食卓に座りリンゴを見ながら言ってくる。
「アナタ、今日は早いわね。
どうしたの?」
「ん?・・・んん。
実はな2人に相談があってな・・・」
「ま・・・まさか!アナタすぐに伯爵様に謝りに行きましょう!」
「お父さん!何したの!」
妻と娘が凄い剣幕で言ってくる。
「え?・・・いや、何も不祥事はしておらんぞ???
というより何だ?俺が相談があるという時は何か問題事がある時なのか?」
「「違うの!?」」
「・・・いや、そもそも問題事を家族に相談なんかするかよ。自分で解決するさ。」
料理長がため息を付く。
「で?何したのよ。」
「何もしてないって。」
「お父さん、本当に大丈夫なの?」
「おいおい、ヒルダまで。
大丈夫だ、何も問題はない。」
「ふ~ん・・・
じゃあ少し待っていて。もうすぐ夕飯だから。」
「あぁ。」
料理長が寝間着に着替え始めるのだった。
・・
・
家族皆での夕飯後、片付けも終わり皆で食卓に集合している。
「はぁ、片付けも終わったわね。
今日は3人がかりだから早かったわ。」
料理長の妻は嬉しそうに言う。
「そうだね~。」
「あぁ。」
「で、アナタ、何を相談があるの?
とうとう独立するの?」
料理長の妻が聞いてくる。
「前から言っているが、俺は独立する気はない。
それはお前も十分了解しているだろう?」
「まぁね。」
「お父さん、私も居て良いの?」
「うむ、家族会議だしな。
・・・タケオ関連なんだが。」
「「キタミザト様?」」
料理長の妻とヒルダが首を傾げる。
「あぁ。
今度タケオは貴族になって研究所という物を王都から任されるんだが。」
「「貴族!?」」
「あぁ、その建物が・・・庁舎街の所に出来る予定だ。」
「へぇ~。
まぁキタミザト様を野放しにはしないってことかな?」
ヒルダが核心を突いた発言をする。
「ヒルダ、その通りだ。
でだ、研究所自体は俺らには全く関係がない。
問題なのはなぁ・・・研究所の建物の1階に喫茶店を作る運びになっているんだ。」
「喫茶店?良いんじゃない?
あの辺食べ物屋さんないし。」
料理長の妻が答える。
「あぁ・・・で・・・だが。
まぁ、その辺の話もするか。」
料理長は研究所の1階の喫茶店の概要と大まかな間取りを説明するのだった。
・・
・
「「・・・」」
説明を聞き終えた料理長の妻とヒルダが考え込んでいる。
料理長は黙ってお茶を飲みながら2人の反応を待っている。
「ねぇ・・・それって料理人としてではないのよね?」
「あぁ。あくまで料理はエルヴィス家から派遣する2名がする。
そのほかの給仕、清掃、会計・・・接客がメインだろう。
だが、夜の営業がないとなると実質の料理人がすることは昼のランチがメインだな。」
「ん~・・・キタミザト様の考えが斜め上過ぎて付いて行けないわ・・・
実質の仕事時間は1時課の鐘を過ぎてから9時課の鐘を過ぎてぐらいかぁ。」
「それは料理人達だな。
接客係なら3時課の鐘の前に出社して、9時課の鐘前に終わるだろう。」
「ん~・・・私は小遣い稼ぎが出来て良いんだけど・・・
ヒルダ、どうする?」
「お父さん、料理は出来ないの?」
「んー・・・
一番忙しい昼時だと・・・たぶん戦争状態だな。
ヒルダの作業量では料理人の邪魔でしかない。
それに150食分の配膳と片付け、皿洗いだぞ?そんな簡単な物じゃないだろう。」
「そうね。
昼時は配膳や会計に追われるわね。
ヒルダが料理をするならその後の次の日の朝食の準備の時かな。
でも朝食は毎日同じ料理を出すのでしょう?
短時間で作る事は覚えるだろうけど・・・料理の基礎はまた別よね。」
「そうなんだ。
だから料理人としての修行にはならないんだ。
料理が出来るとしたら・・・そうだな昼過ぎから閉店までの通常メニューの料理は出来るかもしれんな。」
「どうすれば良いの?」
ヒルダが両親に困り顔を向ける。
「すぐに答えを出さないといけないの?
それに接客係が2人だと少ないわよ。最低でもあと1人・・・いや出勤の日程の調整もするならあと2人は必要ね。
誰に声をかけるの?」
「まだ、何とも決まっていないんだ。
むしろ必要経費がいくら必要か調べるためにいろんな意見が必要だな。」
「わかったわ。
2人必要だとして受けてくれそうな元仲間を当たるわ。」
「あぁ、元エルヴィス家の料理人なら問題ないだろうが・・・皆店を持っているからな。」
「そうなんだよね。
主婦になっているのは少ないか・・・でも居ない訳じゃないし、聞いてみるわよ。」
「あぁ、すまんが頼む。
と、そうだ、エルヴィス家の料理人を新たに1、2名募集するぞ。」
「そう・・・ヒルダ、受けてみる?」
「え?だってどこにも所属していないから受けられないでしょう?」
「それもそうか。
ねぇ、アナタ、研究所の喫茶店だと将来受ける資格は手に入るかな?」
「んー・・・午後の短時間での料理でちゃんとした基礎が出来たなら・・・だろうな。」
「そうかぁ・・・お父さん、少し考える。」
ヒルダが回答を保留する。
「あぁ、じっくり悩んでくれ。
あくまで一番最初に声がかかっただけだから断る事も出来る。」
「お父さんの立場は悪くならない?」
「働きたくない者が働いても意味はないさ。
その辺はタケオもわかっているだろう。だからヒルダも自分でしっかりと考えれば良い。」
「わかった。」
ヒルダが頷くのだった。
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