第638話 ハワース商会との打ち合わせ。
武雄とアリスは昼食後も武雄の書斎でのんびりと本を読んだりして過ごしていると。
執事がやって来て「ハワース商会の方々がお見えになりました」と教えてくれたので呼びに来た執事と一緒に客間に移動をするのだった。
「失礼します。」
執事に先導され武雄とアリスが客間に入る。
客間にはエルヴィス爺さんが座っており、その斜め後ろにフレデリック、エルヴィス爺さんの向かいにハワース商会のモニカとモニカの旦那さんとモニカの父親の3名が立って待っていた。
「お待たせしてすみません。」
武雄がそう言いながらエルヴィス爺さんの横、ハワース商会の面々の前に来て立つ。
「いえ。」
「そうですか。
お座りになってください。」
武雄が皆に着席を求め自身も座る。
すると、全員分のお茶とバターサンドを配膳しメイドが退出していく。
「さてと。
見積もりは出来上がりましたか?」
「はい。
ですが、見積りをご提出する前に見積り用にリバーシと将棋の試作をしてみましたのでご確認をお願いします。」
「早いですね。
では、まずは現物を見ましょうか。」
武雄が楽しそうに頷く。
・・
・
「なるほどね・・・」
武雄がメガネをかけて盤上にコマを並べてからメガネを外して盤や駒を見ていた。
ハワース商会の面々はお茶も飲まずに固唾を飲んで見守る。
アリス達は「どうやって遊ぶの?」と興味津々で見ている。
「全体的に色が薄いのは試作品だからですか?」
「はい。手持ちの塗料がそれしかなかったので。
製作段階では全体的に色を濃くしてワニスで上塗り加工をして色飛びを防ぎます。」
「そうですか・・・」
「キタミザト様、どうでしょうか。」
「リバーシは問題はありません。
この六角形は作るのが難しいですか?
円形には出来ますか?」
「そうですね・・・
円形の駒は正直に言えば加工費が上がります。
たぶん六角形の倍はかかるでしょう。
キタミザト様、六角形にこだわりはありますでしょうか?」
「いえ、製作するのに楽そうだから六角形にしたので特に今の段階ではありません。」
「そうですか。
なら八角形で駒を製作させて頂けないでしょうか?」
「八角形?」
「はい。
リバーシの駒は1本の角材から作り出すので六角形より八角形の方が楽なのです。」
「なるほど。」
武雄の頭の中では1枚板から切り出すと考えたが、ハワース商会では先に角材を縁取りしておき輪切りにすると考えたようだ。
武雄は「やっぱり製作する人達の意見は大事だね」と自分では考え付かなかった生産方法を見つけて貰い改めて感心していた。
「では、駒の形についてはそれで結構です。」
武雄が頷くとハワース商会の面々も安どのため息を漏らす。
「将棋についてはどうでしょうか?」
モニカの旦那さんが聞いてくる。
「形は私の要求通りの形ですね。
文字も表が黒で裏が赤。こちらもワニスをするのですか?」
「はい。ワニスで上塗り加工を最終工程に入れています。」
「ふむ・・・」
武雄はそう言いながら「銀」の駒を持って目の高さまで持って来る。
「・・・文字が小さいか。」
武雄がそう呟きながら「あぁ、チェスが人形の形をしている意味って分かりやすさなのかな?」とも思う。
「え?・・・ご要望通りなのですが・・・」
モニカの旦那さんが若干慌てる。
「あ・・・いえいえ、要求通りですよ。
ただ現物を見ると単語全部では駒に対して文字が小さくなるなぁと。
・・・例えば・・・単語の最初の2文字だけにすれば大きく書けますか?」
「えーっと・・・少々お待ちを・・・」
モニカの旦那がその場でメモに各駒の単語の頭2文字を書いていく。
「・・・重なる単語はありませんので問題はないと思います。」
「では、この後の試作品は頭2文字で統一をしてください。」
「はい。」
「説明書は書かれましたか?」
「はい。殴り書きになりますが・・・」
モニカの旦那がリバーシと将棋の説明書を出してくる。
武雄は内容を確かめる。
「・・・はい、こちらに訂正箇所はありません。
この内容でお作り下さい。」
「はい、わかりました。」
モニカの旦那さんが頷く。
「ではリバーシと将棋、黒板とチョークと鉛筆の見積もりを見せて頂きましょうか。」
武雄が朗らかに言うとモニカが緊張した面持ちで見積書を5つ出し、武雄の前に提出する。
「・・・」
武雄は1枚1枚内容を確認する。
「「・・・」」
皆が緊張しながら見守る。
「ふむ・・・
質問があります。」
「はいっ!」
「リバーシと将棋がなんでこんなに安いのですか?」
「え・・・」
モニカが一瞬固まる。
モニカの想定問答では「現状より安くなるのか」の説明内容を用意していたからだ。
「キタミザト様の想定より安いのですか?」
モニカが固まったのを見て瞬時にモニカの父親が質問を返してくる。
「はい。
工程の数、仕入れの木材と塗装も含めての材料費ですか?・・・明らかに5個だけ作るには安いですよね?」
武雄が真面目な顔つきで聞いてくる。
「それは私共の今後の売れ行きを見越しています。
キタミザト様が王都にお持ちになるという事を聞いておりますので、将来に渡っての投資と考えております。」
「ふむ・・・責任重大ですね。
・・・わかりました。どれも見積り金額に異議はありません。
これで行きましょう。
王都でもこの金額を言って構いませんか?」
「はい。
注文は見積もりの通り5個ずつでお願いします。
鉛筆については20本単位でチョークについては50本単位でお願いします。
それと送料別にして頂ければその金額で構いません。」
「わかりました。
あとは鈴音とエルヴィス家の総監部とハワース商会の方で契約書を作ってきてください。」
「ハワース様。
明日、総監部より担当の者を行かせますので、契約内容についてはその時に相談をお願いします。
基本的にはラルフ様やロー様とキタミザト様が結んだ契約書に類似するとは思いますので、もし要望がございましたらその時にお願いします。」
「わかりました。」
ハワース商会の面々が頷く。
「この試作品は頂いても構わないのですか?」
「はい。」
「わかりました。
それと金額のお支払いは初回ですから事前支払が良いですか?」
「いえ、納入時で構いません。」
「わかりました。
納期は1週間とありましたので1週間後にお願いします。」
「はい。
では私共はこれにて失礼します。」
ハワース商会の面々が席を立ち執事に連れられて退出して行くのだった。
・・
・
客間にエルヴィス家のいつもの面々が残っていた。
「で?タケオ。
本当に安かったのかの?」
エルヴィス爺さんが目を細めて聞いてくる。
「さて?試作品の値段なんてわかりませんよ。
何だか緊張していたので思惑を外しただけです。
商売人は客からは『もっと安く』と言われるのが当たり前ですけど、『なんで安いのか』と聞かれたら素が出そうじゃないですか。」
武雄は楽しそうに言う。
「はぁ・・・可哀相に・・・」
アリスがため息をつくとスミスもフレデリックも苦笑をするのだった。
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エルヴィス邸を出たモニカ達3人は疲れ切った顔をさせて帰宅の途中だった。
「はぁ・・・疲れた。」
モニカが深いため息を付く。
「それにしてもキタミザト様は商売もわかるのか?
・・・俺らが見積りした価格は5個作成した時の通常の見積り価格の1割引き・・・50個作成した時の原価で考えたんだが・・・わかっていたように言われたな・・・
キタミザト様も貴族なんだろう?」
モニカの父親がため息をつく。
「はぁ・・・キタミザト様の商才は普通の貴族とは違うのでしょうかね?」
モニカの旦那さんがため息を付く。
「そんなのわからないわよ・・・」
3人が向かう先でラルフとローとベッドフォードとテイラーが店先で飲んでいるのを発見する。
「・・・ちょうど良い所に相談相手がいたわ。」
ハワース商会の面々が4人に向かって行くのだった。
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