第633話 スライムとの交渉。2
「・・・説明をしにきたのですか?」
エルダームーンスライムが聞いてくる。
「はい。
遅かれ早かれこの森に広場を作る事は決めていました。
ですが、この森にスライムが住んでいると認識をしていなかったのは確かです。」
「存在を知っていれば作りませんでしたか?」
「事前に説明をさせて頂き、作る場所をある程度移動させるぐらいしか出来なかったと考えます。
全くの白紙には出来なかったでしょう。
それと前の状態まで回帰させる事は現実的に不可能かと考えます。」
「そうですか。」
「と、これが事前説明をし忘れた事へのお詫びの品です。」
武雄はそう言いながら立ち上がり、生ゴミの桶の蓋を開ける。
エルダームーンスライムが手を樽の中の生ゴミの上に置くとみるみる体内に吸収していく。
「・・・栄養価が高いですね。
これをあと2樽・・・出来れば毎日頂けますか?」
「そうですね・・・
条件付きで可能ではありますね。」
「条件付き?」
「はい。
正直な所、これは生ゴミ・・・私達人間が食事をするために野菜や肉を使って料理した余り物になるのです。
廃棄物であり捨てる物ではあるのですが、一方でこの生ゴミを集めて肥料にしています。
そしてその肥料を販売し収入にしたり、野菜を作っている方が待っていたりします。
なので2、3日とかであれば私が買い取ってくれば良いでしょうが、毎日であると私の収入で買い続けられるのかは不安が残ります。」
「どうすれば毎日貰えますか?」
「スライムは5種類いて必要以上の栄養を取ると体外に体液を捨てるというのは本当でしょうか?」
「ん、暮らすのに個体数は必要ではないので。
今は20体ずつ居ます。」
「・・・その体液を私に売って貰えますか?」
「スライムの体液を?」
「はい。
5種類別に樽を用意しますので少しずつで良いので貯めていただけないですか?」
「・・・貴方は何をしようと?」
「スライムの体液を使って商品を作り出したいのです。
1週間でこの樽の半分でも充たされる程度で良いのですが。
もちろん無理をさせるつもりはありません。
出来る量をください。」
「皆でやるとして・・・3樽あれば1週間で樽の半分は満たせるかと思います。」
「はい、わかりました。
そちらで結構です。
では今後の話をさせていただいても良いでしょうか。」
「はい。」
「現在、この辺の・・・いやエルダームーンスライム殿と私達との交渉は私に一任されています。
私の考えとしては、今後ともスライム殿達との体液を売って頂ける関係を築くために努力したいと思っています。」
「はい。」
「その一つが先ほども説明した通り、スライム殿達の体液を私に売って頂き、代わりに肥料になる生ゴミ3樽の買い付けをここでお約束しました。
ですが、これだけではまだ不安が残ります。
ですので、私の配下にラジコチカという魔物が居ます。
その魔物がこの街の周辺の魔物の統括をする予定になっています。
貴方方にもこれに組み込まれていただきたいと思います。」
「・・・私達には攻撃する力はありません。」
「力を欲してエルダームーンスライム殿にお願いをするわけではありません。
私達の街への侵攻をしないという確約をしていただきたいのと街の北側の森の管理をしていただけますでしょうか。」
「管理?」
「はい。
森の状態を健康に保たせて頂けたらと思っております。
それに街の北側であるこの森に生息する魔物の分布状況の把握。
他地域から他の魔物が侵入した際の監視をしていただきたいのです。」
「それは人間もですか?」
「人間が侵入した際も同じになります。
攻撃をされる必要はありません。あくまで監視だけをしていただければ結構です。
私どもからのご提供出来るのは貴方方の生息地域・・・この森全部とはいきませんが、この演習場を起点として西に数百m、北に数百mの完全立入禁止地域を設けさせていただき、今後の開発や木々の伐採を禁止し、人間が立ち入らないようにします。
また万が一、立入禁止地域に人間が入った場合には命を取らないで身包みだけ剥がしていただけますでしょうか。」
「人間に対しての殺生は禁止なのですね?」
「はい。
これは人間という社会の考え方になるのですが、どうしても同胞が殺されると相手を根絶やしにするという論調になり易いのです。
ですので、万が一戦闘になっても裸にして頂ければ結構です。
その後の対応はご連絡頂いたラジコチカもしくは私共人間が引き取らせていただきます。」
「わかりました。」
エルダームーンスライムが頷く。
「これが今居る訓練場の概要図になります。
今いる場所がここです。」
武雄はその場に概略図を広げ説明する。
「ここから・・・どのくらいを立入禁止地区に欲しいでしょうか・・・」
「・・・人間の単位がわからないのですが・・・
ここから奥に行ったくらいと同じ長さは欲しいです。」
エルダームーンスライムが射撃場を見ながら言ってくる。
「500m四方ですか。
わかりました、少し他の方々に説明して許可を得て来ましょう。
周囲にロープを張るか杭を打ち込んで・・・何かしらの方法で境界を作りますが、それでよろしいでしょうか。」
「はい、構いません。」
「わかりました。
ではそれで他の方達に了承を取り付けてきます。
・・・さて、私はお暇します。
エルダームーンスライム殿、本日はありがとうございました。」
と武雄は深々と頭を下げてから立ち上がる。
「うむ、ご苦労だったな。
火は我が消しておこう。とりあえず今は屋敷に帰って寝てくれ。」
「仁王様、ありがとうございます。
それとエルダームーンスライム殿、樽は食べないで綺麗にしておいて貰えますでしょうか。」
「どうしてでしょう?」
「そう毎回新しい樽は手に入りませんので、明日はまた新しい樽を持ってきますが、それと入れ替えて古いのを回収してそれに生ゴミを入れたいと思います。」
「わかりました。」
「それと生ゴミなのですが、とりあえずあと数日は樽1個で良いでしょうか。
樽3個分を用意するには相談する方々が多いのです。」
「わかりました。」
「すみませんが、とりあえず今日はここまででお願いします。
また後日来ますので、その際にまた話し合いましょう。」
「はい。」
エルダームーンスライムが頷く。
武雄はその場を後にするのだった。
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