第622話 56日目 武雄と鈴音の思考の時間。
夕飯後のティータイムを終え、いつもの通りエルヴィス爺さんが「さて、寝るか」との号令で皆が部屋に戻って来ていた。
武雄は風呂の用意をし終わり、書斎でマッタリとしていた。
「タケオ様、準備出来ましたから行ってきます。」
「行ってきますー」
「きゅ。」
「ニャ。」
「・・・チュン。」
「はい、行ってらっしゃい。」
支度を終えたアリスが寝室側の扉を開けて、武雄に挨拶をしながら通路側の扉から出ていく。
チビッ子達もアリスとお風呂に向かうのだが、若干1名が落ち込んでいたりする。
「あ~・・・スー、要望通り、水桶も作りましたからね。」
「チュン!?チュン♪」
スーが嬉しそうに風呂場に向かう。
そんな皆を見ながら「火の鳥なのにお湯を嫌がるのも何だか変だよね?」と思うのだった。
「さて、いろいろと書きましょうかね。」
武雄はメモを取りだし、落書きを始めるのだった。
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武雄はさっきから試験小隊の訓練場の概略図を何枚も書いていた。
今日の午前中にアーキン達に「資料を渡す」と言っていたのを思い出していた。
「とりあえずハワード商会には全部買い取りをお願いしたからその内綺麗になるよね。
コラ達の小屋をこの辺に作るとして・・・あとは簡易的な休憩所と射撃開始場所に屋根も欲しいよね・・・
ん~・・・簡単な物はいくらするんだろう・・・木材の買い取り費用で建物の建設費用は捻出出来ないかなぁ。」
武雄は試験小隊の訓練場に必要と思われる建物を図に書いていたのだが、欲しいものはいくらでも出てくるので最低限の物を見繕っていた。
「広場と小道と射撃開始場と森との境界は石を敷いて水捌けを良くさせて・・・周囲はアニータ達にお願いして敷地境界を作って貰うから良いとして・・・周囲の壁はやはり試験小隊が全員揃ってからかなぁ。
でもなぁ、射撃の練習はしたいしなぁ・・・朝の散策時なら人通りもないし、当初の考えの通りに立ち入り禁止のワイヤーか紐を張れば問題ないかな?
でも万が一があるしなぁ・・・今は1000mの射撃はしないで置いた方が無難なのかな?
となると・・・500mくらいで的が必要か。
あ、でも試験小隊用の近距離の的も必要なのか・・・んー・・・」
武雄は皆の前ではしていないが一人で居る時は口に出しながら思案をしている・・少なくとも武雄はそう思っているが、結構口に出していたりする。
「・・・タバコでも吸うか。」
武雄は小窓を少し開けてキセルを取り出してリラックス体勢でボーッとし始めるのだった。
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「ん~・・・」
鈴音が作業場の図面台の前に座りながら腕を組んで悩んでいた。
「スズネ、ご飯だよ~。」
サリタが呼びに来る。
「あ、はい、わかりました。」
「ん?さっきから図面台の前に居るけど一つも書いてないじゃない。」
「んー・・・イメージが固まっていないんですよ。
まだ朧気で。」
「ふ~ん。キタミザト様関係?」
「はい。小銃を改造するように言われているのですけど・・・
近々にイメージ図をテイラーさんに見せないといけないんですが、どこから書いたものか・・・」
「そぉ。それも納期がなければ楽しそうね。
修正液は・・・あるわね。」
サリタが鈴音の手元を覗き込んでくる。
「はい。」
図面をインクで書く為、間違った場合には紙色と同系色で塗り潰すのが基本なのだが、職人達は修正液を使うのは半人前の証として使用を嫌っていた。
鈴音もそうした教えを受けており、イメージを完璧に近いくらい想像してから書くようにしていた。
もし武雄がこの場に居たら「悩む前に書けば良いのに」と言うだろう。
武雄がしていた製図はCAD製図が主流であり、手書きの製図は基本的にはせず、昔の図面を直す時くらいしかしたことがなかった。
CAD製図と手書き製図の一番の違いは同一の物を描く際にかかる作図時間だ。
線を書いたり消したりする手間が段違いに違う。
武雄的には同一の図面をどんどん書きながら思考及び改良をする事に慣れている為、熟慮してから書くという考え方は今の所ない。
なので今の鈴音を見たら首を傾げるだろう。
「・・・ベインズさん達が書いた図面を見ているのですけど・・・
これをまずは書き写すのが良いのかなぁ?」
鈴音は資料を見ながら再び考え始めてしまう。
「はぁ・・・スズネ、とりあえずご飯を食べてから考えなよ。」
サリタが強引に鈴音の思考をご飯に向ける。
サリタも製図をする際は長時間連続でさせておくべきだとは思うが、今はまずはお腹を満たさせてからと判断したようだ。
「そうですね・・・まずはご飯を食べます。」
鈴音が席を立ってサリタと食堂に向かうのだった。
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「あぁ・・・そうだ、消しゴムを考えなきゃなぁ。」
武雄がアーキンに渡す試験小隊の訓練場の整備図を書き終えた所でふと思い出す。
「鉛筆の原理は鉛・・・炭が紙に付着するんだよね。
だから紙同士が擦れると滲むんだけど。
消しゴムは付着した炭を剥がし取る事なんだよね。
だからボールペンやサインペンのような染み込む物は消せないんだけど・・・
剥がし取る・・・か。」
武雄は手の平を合わせたり離したりしながら思案を始める。
と、寝室側の扉がノックされ「タケオ様、います?」とアリスが入ってくる。
「いますよ。お風呂は終わりましたか?」
「はい。」
アリスが嬉しそうに頷く。
「主、私達は寝ます♪」
ミアの言葉にチビッ子達が頷く。
「はい、わかりました。
それと皆の小部屋はどうですか?」
「きゅ?」
「ニャ?・・・ニャ♪」
「チュン!」
チビッ子達が顔を見合わせて何やら言っている。
「ん~・・・主、その・・・良いですか?」
ミアが代表してオズオズと言ってくる。
「はいはい、何ですか?」
「その小部屋も良いのですが、部屋の真ん中に皆で寝れる大きいソファが欲しいのですが・・・」
「ん?・・・ふふ、わかりました。
明日買いに行きますからそれで良いですか?」
「きゅ♪」
「ニャ♪」
「チュン♪」
「はい♪」
チビッ子達が嬉しそうに呟くのだった。
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