第616話 武雄の帰宅。
「ただいま戻りました。」
武雄が玄関を入って来るとフレデリックが丁度いた。
「おかえりなさいませ、タケオ様。」
「フレデリックさん、お疲れ様です。戻りました。」
「例の鉛筆や玩具を製作してくれる店は探せましたか?」
フレデリックが聞いてくる。
「はい。途中でテイラー店長と鈴音に会いまして一緒に商談をしてきました。」
「そうでしたか。
主を含め皆様が客間でのんびりとされていますのでタケオ様もそちらでのんびりとなってください。
また雑貨屋と冒険者組合からタマ様やクゥ様の家が届いております。
アリスお嬢様に聞いた所、タケオ様の向かい側の書斎に置くことが決まっているとの事で入れておきましたので後程、ご確認ください。」
「はい、わかりました。
とりあえず、客間に行きます。」
武雄はフレデリックと別れ客間へと向かう。
・・
・
「皆様、戻りました。」
「うむ。タケオ、おかえり。」
「「タケオ様、おかえりなさい。」」
客間にはエルヴィス家の面々とチビッ子達とメイドが居た。
武雄が席に座るとメイドがお茶を配膳し武雄は会釈をする。
ヴィクターとジーナはまだ戻って来てはいないようだ。
「整備局で面白い事を考えたそうじゃの。」
エルヴィス爺さんが言ってくる。
「エルヴィスさん的にはどう思いますか?」
「ふむ・・・司書を置いて文官や武官が過去の資料を見れる仕組みは面白いと思うの。
ゆくゆくは数年経った各部局の書類を一か所に集めてその司書を複数雇ってまとめて管理をする事も利便性があると思うの。
今は他部局の資料を見る機会はないような物だからの。
違う観点で見るとまた違う発想が出てくる可能性があるからの。」
エルヴィス爺さんは武雄達で言う所の「公文書館」の考えを披露していた。
「はい、それもよろしいと思います。
そうしたら一気に複数個の倉庫を潰して通りも含めて広大な土地を作って一大施設を作るのも良いかもしれませんね。」
武雄が嬉しそうに言う。
「んー・・・フレデリック。
全部局の書類を集めるとどのくらいの広さが必要かの?」
「そうですね・・・例えば5年間の資料は各部局で保管しておいて、それよりも前の物となると・・・
3階建ての施設を作るとしても騎士団の詰め所とグラウンドを合わせたぐらいの大きさが必要でしょうか。」
「・・・無理じゃ。」
エルヴィス爺さんがガックリとする。
武雄は「あのぐらいの大きさだと・・・金貨3000枚くらいなのかな?」と思っていたりする。
「主、実施するのは当分先ですね。」
「はぁ・・・どこからか金が湧いてこないかのぉ。」
「「ないでしょう。」」
エルヴィス爺さんの呟きに武雄とフレデリックが即答する。
「わかっておるわ。
はぁ・・・とりあえず研究所と倉庫については整備局と財政局がするのだったの?」
「はい。
あとは最終施工図面が出来上がった際に私やタケオ様が確認すれば良いかと。」
「ふむ、それで良いの。
で、タケオはそのあと雑貨屋に向かったそうだがどうであったかの?」
「はい。
雑貨屋に行く途中でテイラー店長と鈴音に会いましたので一緒に材木商・・・ハワース商会でしたか?
そこに行って商談をしてきました。」
「ふむ・・・モニカ・ハワースか。
癖があったじゃろう?」
エルヴィス爺さんが苦笑する。
「いえ?特には?
少し初対面で人をからかうくらいでしょうか?
別に害もなさそうでした。」
「ふむ・・・あの娘ももう45歳じゃろう・・・少しは落ち着けば良いのにの。
で、スズネも行ったのなら黒板の話にもなったのだろう?」
「はい。
黒板と貝や卵の殻を使ったチョークと筆記具としての鉛筆、そしてリバーシと将棋の試作の見積もりと製作をお願いしてきました。
明後日の夕方に見積もりをこちらに持って来て貰う事になっています。」
「ふむ・・・タケオ、どういう話になったのかの?」
「はい、では経緯を話しますね。」
武雄が先ほどのハワース商会でのやりとりを話すのだった。
・・
・
「なるほどの。
一括で頼んだ形にしたのじゃの?」
「はい。
私と鈴音の2人で別々にしてしまうと高くされてしまうと思いましたので。」
「ふむ、それも1つのやり方じゃの。
そして契約書は総監部が後ろ盾になるのだったの。」
「こちらもヴィクターとジーナの練習に使わせて頂きます。」
エルヴィス爺さんの言葉にフレデリックが答える。
「基本的にはトレンチコートと同じ契約内容が良いかと考えています。」
「ふむ。
最初は黒板とチョークがスズネ、鉛筆とリバーシがタケオだったであろう?
どうするのじゃ?」
「契約は私名義にして一括で利益を受け取り、鈴音の給料の支払い時に今回の利益の半額を追加するというのも手だと思っています。
長い目でみたらこちらの方が鈴音にとって大き目の小遣いになるでしょう。」
「ふむ・・・タケオが出れば契約に一方的に不利な条件は付けられんじゃろうから問題なさそうじゃの。」
「はい。
あとは総監部の方で双方に不利益が無いように見ていただけたらと思っています。」
「タケオ様、行く前の報告に無かった『ショウギ』というのがありましたが、なんですか?」
スミスが聞いてくる。
「リバーシは陣地取りのゲームですが、将棋は相手の大将を取るゲームになります。」
「より実践向けのゲームなのですね?」
「そうですね。
まぁ魔法がない所のゲームですのでどこまで実践に近いかと言われると困りますが、相手の先を読む練習にはなると思います。
ですが・・・」
「タケオ様、何か問題が?」
アリスが聞いてくる。
「リバーシの1回の対戦は懐中時計で言うと大体20分くらいなのですけど、将棋は1時間から2時間はかかるんですよ。」
「え?そんなに複雑なのですか?」
「いや、ルールは簡単ですよ。
各駒の動きを覚えて貰い、禁止事項を覚えれば誰でも出来ます。
ですが、相手とこちらの戦術の読み合いですからね・・・結構な時間がかかるのです。」
「それはよほどの時間の余裕を見ておかないといけないの。
だが、実物を見ながら講義を受けたいのぉ。」
「それは実際に試作を始めて貰ってからになりますからもう少し時間がかかると思います。」
「うむ。
楽しそうな物が出来上がってくるの。」
エルヴィス爺さんの言葉に皆が頷くのだった。
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