第609話 ちょっと冒険者組合に寄り道。
武雄達はベッドフォードの青果店を後にして冒険者組合事務所に来ていた。
武雄はカトランダ帝国で買って来た物が届いている事を確認する事とエルヴィス邸までの輸送をお願いし、事務所内で確認と手配をする間、応接室に通されてマッタリしていた。
ちなみにチビッ子達はお昼寝です。
「お茶をお持ちいたしました。」
組合員の女性が皆のお茶を持って来て配膳すると皆の前に座る。
「お茶をありがとうございます。」
武雄が代表して礼をする。
「皆様申し訳ございません。当事務所の所長がアズパール王国内所長会議に出席の為、王都に行っており不在なのです。
今日は私がご対応させていただきます。
それにしても・・・キタミザト様、アリスお嬢様、王都では随分と名を上げられたそうで。」
組合員の女性が苦笑してくる。
「んー・・・どの件でしょうか?」
アリスが顎に指先を当てて考える。
「ふふ。
全て聞き及んでおります。
王都の事変からリザードドラゴンとエルフまで。
向こうの事務所からの報告書を見ましたが・・・はぁ・・・」
組合員の女性はそこでため息を漏らす。
「どうしましたか?」
「いえ・・・その・・・確認しないといけない事が・・・
実はですね、依頼の仲介料以外で素材の買い取りと業者への卸売りの差額も事務所の収入となるのですが。」
「まぁそうでしょうね。」
「キタミザト様。
リザードドラゴンを買い取る際に王都の冒険者組合事務所はいくらを提示しましたか?」
「ん?・・・組織内での統一価格ではないのですか?」
武雄が不思議そうに聞いてくる。
「あります。買い取り価格のリストが各事務所にはあるのですが・・・
一応、念のために聞いておきたいのです。」
組合員の女性が真剣な顔つきで聞いてくる。
「えーっと・・・確か、成功報酬が金貨1枚でオークが10体で銀貨30枚、ハイオークが2体で銀貨8枚、リザードドラゴンが皮が金貨3枚/㎏で計10㎏相当として金貨30枚を貰ったかと。
オークが9体、ハイオークが2体、リザードドラゴンが1体の解体費用込みです。」
武雄は正直に支払い内容を教える。
「・・・」
武雄の買取価格を聞いている組合員の女性が難しい顔をさせる。
「あれ?・・・アリスお嬢様、確かこの金額でしたよね?」
「はい、間違いないと思います。
フレデリック、この金額は安いのですか?」
「さて、私も買取価格を知ってはおりませんので何とも言えません。」
フレデリックが首を振って答える。
「・・・キタミザト様、その金額で終結されたのですね?」
「はい。即日振り込んで貰ったかと。」
「なるほど・・・だからあれほどの収入なのか・・・」
組合員の女性が難しい顔をさせながらそう呟き納得する。
武雄はその顔を見ながら「絶対納得してないよね?」と思うのだった。
「何か問題でも?」
「まぁ・・・組合の中の話になります。
キタミザト様、アリスお嬢様、今後討伐をされた際に素体がそのまま手に入るならうちの事務所で買い取りをさせていただけないでしょうか。」
組合員の女性が頭を下げてお願いしてくる。
「それは構いませんが・・・今回のように遠い場所だと腐りますがそれでもよろしいのですか?」
「それについては魔法具の『大袋 Ver.87』を今回の依頼の副賞としてうちの事務所から差し上げます。」
「「大袋?」」
「はい。
中に入れた物が腐らずにほぼ無限に近い量を入れられる優れた魔法具になります。
生産が極端に少なく希少価値が高いのでほとんど流通はしていない物になります。」
組合員の女性が説明する。
「それは便利ですね。
でもそれを私達に無料でくれる訳は何でしょうか?」
武雄がにこやかに質問をしてくる。
「・・・」
「・・・」
武雄と組合員の女性が無言で見つめ合う。
・・
・
「・・・その・・・他言しないと約束をして頂き、さらに問題事にしないとも約束して頂ければ・・・」
組合員の女性が根負けしてボソッと呟く。
「ええ、構いませんよ。
アリスお嬢様もスミス坊ちゃんもフレデリックさんもそれで良いですね?」
「まぁ、タケオ様が良いと言うなら。」
「僕も大丈夫です。」
「私もこの場限りにしましょう。」
皆が頷く。
「すみません。身内の恥なので・・・」
「構いませんよ。
それにあの金額はあの場で私が納得したので問題ないです。」
「すみません。今後は気を付けますので。」
組合員の女性が頭を下げて言ってくる。
武雄達はこの時点で「まぁ、この態度だと不正があったのかな?」と生優しい目をして組合員の女性を見ている。
「・・・そもそも冒険者組合では国内の各々の事務所の収支報告書が2週間に1回集約され、各事務所にリストが配布されます。
また同時に依頼達成の報告書が複写されて配布もされる仕組みになっています。」
「はい。」
「今回、所長が王都に向け出立する前日に報告書が来まして。
いつもならあまり気にもしないのですが、一番上の報告書がオークとリザードマンの報告書でキタミザト様の名義が見えたので皆で見たのです。」
「報告書では何と?」
「報告書は基本的に依頼内容と達成か不達成かとどのくらいの魔物が居たかぐらいしかないのですが、同じ日に来た収支報告書が問題でして、何故かこの2週間で収入の方が一気に上がっているのです。」
「収入と支出が合わないと?」
「はい。
この報告書が出てくる2週間の間にあった大きな事はキタミザト様の件だけなのです。
普通なら収入も支出も同じ割合で増加しないといけないのですが、収入の方が一方的に上がっているのが不自然なのです。」
「だが、報告書には私への支払い等々が書いてはいないと。
・・・ですが、どちらにしてもこの依頼は終結しています。今さら抗議をしても意味はないでしょう。」
「はい、その通りです。
当事者であるキタミザト様と王都西の事務所の間で合意され終結されています。
なのでこの事務所が口を出す事でもありません・・・が。」
「「「?」」」
組合員の女性が強めに否定の言葉を言うので武雄達は不思議に思う。
「この事務所がAランクの査定を出した方の最初の達成案件なのです。
万が一、支払いが意図的に少ないのであれば例え合意の上でも私達が許しません。
これはキタミザト様が私達に対し今後の信用を頂けるのか重要な事なのです。」
「えーっと・・・どのくらい少ないと見ているのですか?」
武雄が「別に私は怒っていませんよ?」と思い苦笑しながら聞く。
「・・・たぶんオーク11体の『肉』としての買取価格が入っていません。
丁度お渡しする『大袋』とほぼ同じ金額・・・すみません、ここまで来て隠す必要もないですよね。最大で金貨11枚が足りないと思います。
実際のオークの状態にも寄るのでしょうが・・・ですが、最低でも金貨6枚は増加されているべきだと思います。」
「確かに金貨6枚は見落とすにしては大きいですかね。
ですが、さっきも言いましたが頂いた金額はあの場で私が納得したので私は問題とする気はありません。
私の確認不足と言われたらそれまでですしね。まぁ次回があるならちゃんと確認させて貰います。」
「そう言って頂きありがとうございます。
何卒、次回以降はうちの事務所にて買取をさせて頂きたく思います。
ちゃんとした価格にて買取をさせていただきます。」
組合員の女性が席を立って礼をする。
「はい、わかりました。
今後はなるべくここに買取をお願いします。
で、この事務所的には王都西の事務所に何か言うのですか?」
「えーっと・・・聞き取りした買取価格をすぐに所長に送付します。
最速で送れば到着は明後日の朝には届くでしょうからそこで所長に判断をして貰おうかと。」
「ふむ。向こうの所長に嫌味を言うのかどうかですね。
まぁ私の中では終わっていますので、お好きにしてください。」
「はい。
この度は申し訳ありませんでした。
と、では大袋を持ってきますので確認をお願いいたします。」
と組合員の女性が席を立つのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




