第595話 青果屋でウスターソースをどうするか。
武雄はベッドフォードにウスターソースをクリフ殿下領で発見した所から先ほどのローへの説明も話し、さらにレシピを見せていた。
「ん~・・・
うちを選んだのはこの材料だから・・・ですか?」
「ええ。
野菜が多いですからね。
売れ残った野菜も含めて対応出来るのではないかと思いました。」
「確かに・・・ん~・・・
で、売り先はエルヴィス伯爵領内だけでなく、ゴドウィン伯爵領、テンプル伯爵領、そしてウィリアム殿下領に限定ですか。」
「今の所はウィリアム殿下達は買う気満々ですね。
あとの2つは今後の交渉次第だと思いますよ。」
「それでもかなりの量が必要ですね・・・」
「数年後には何百樽と作らないといけないかもしれませんね。
とりあえず、この街の分を作ってみませんか?
販路拡大はその後考えていけば良いですから。」
「キタミザト様、出来ましたがどうでしょうか。」
ベッドフォードの奥さんが武雄が持ってきたウスターソースを使い野菜炒めを作って持って来る。
「はい。
では皆さん、食べましょうか。」
武雄が皆に勧める。
「「「「!?」」」」
その場の4人が武雄を見る。
「美味しいでしょう?」
「ベッドフォード、これは作るべきだ!
お前が作らないなら私が作るぞ!」
「ベッドフォードさん、これは絶対売れますよ!」
ローとラルフがベッドフォードに詰め寄る。
「あぁ・・・これは売れる。
だが・・・なぁ?どうする?」
ベッドフォードが奥さんに聞く。
「そうねぇ・・・
これはあの子達を招集するしかないんじゃない?」
「おじさんの所にお子さんが?」
武雄が「会った事なかったよね」と思いながら聞いてくる。
「ん?キタミザト様とは会っていないか。
この街で青果屋をしている息子夫婦と娘夫婦がいるんだが・・・
そうだなぁ、家族会議が必要だな。」
ベッドフォードが頷く。
「あの・・・キタミザト様、実際にするとなった場合なのですが・・・
どのくらいの規模をすればよろしいのですか?」
奥さんが聞いてくる。
「あぁ、なるほど。初期投資費用ですね?」
「すみません・・・その・・・余裕があるという訳ではないので・・・」
「いえいえ、その辺は理解しているつもりです。
ですが、そうですね・・・少し待っていてくれますか?その辺はエルヴィス伯爵に聞いてきます。」
と武雄が席を立つ。
「「え!?」」
皆が驚く。
「キ・・・キタミザト様、今からですか?」
「はい、そうですよ。
早い方が良いでしょう?
あ、ミアはここに居てください。」
「わかりました、主。」
ミアが頷く。
「じゃ、行ってきます。」
と武雄が店を出て行ってしまう。
・・
・
「ローの爺さん、ラルフ・・・キタミザト様はいつもこうなのか?」
ベッドフォードが恐る恐る2人に聞く。
「うちもこんな感じでしたね。」
「私もこんな感じですよ、ほほほ。」
ローもラルフも苦笑を返してくる。
「皆もこんなに急だったのか・・・」
ベッドフォードが疲れた顔をさせる。
「何を疲れているのですかね?ベッドフォードは。」
ローが呆れながら言う。
「そうですね、キタミザト様が動いているんですよ。
これから過労死するぐらいに忙しくなりますよ?」
ラルフも呆れる。
「「え!?」」
ベッドフォードと奥さんが固まる。
「息子夫婦や娘夫婦を抱き込まないと大変な事になると思いますよ?ほほほ。」
「ローさんの所とうちは組合を動かして他の面々の協力も得ての今の忙しさですからね・・・
協力者をどうやって探すのか。
まぁ息子さん達なら問題ないでしょうけど。」
「は・・・早まったか?」
「んー・・・私が言うのもあれでしょうが、キタミザト様は最初からここを指定していましたよ?ほほほ。」
「はぁ・・・」
ベッドフォードが深いため息をつくのだった。
・・・
・・
・
「戻りましたよ。」
武雄は1時間半後に戻ってきた。
「「失礼します。」」
とフレデリックと武雄と同じくらいの年齢の男性も入って来る。
「「「「フレデリックさん!?」」」」
その場の面々が驚く。
「ん?タケオ様、皆さまが驚いておりますが?」
「はは、聞いてくるとしか言っていませんでした。」
武雄が苦笑を返す。
「なるほど。
では、最初から言いましょうか。」
「「「「はい!」」」」
全員が姿勢を正す。
「エルヴィス家では将来性がある物については融資をする事業を始めました。
現在、各町から公募を募っているのですが・・・このウスターソースも公募に応募してみてはいかがでしょうか。」
「融資ですか・・・」
奥さんが呟く。
「エルヴィス家としては経営に関しては何も言いませんが、売り上げの6~9%程度を返済割合としてエルヴィス家に納付することが融資条件となる見込みです。」
「きゅ・・・9%ですか?」
「はい。
タケオ様、利益的にはどう思いますか?」
フレデリックが武雄に聞いてくる。
「このウスターソースは一般向けなので薄利多売になると思います。
ですが、私的には9%の利率でも問題ないかと思います。」
「このレシピだと・・・
ワイン用の樽で仕込み・・・1割くらい減った状態で出来上がりがとあるのですが・・・」
「おじさん、さっき手に取った小瓶の容量だとどのくらい作れそうですか?」
「そうですね・・・750~800個でしょうか。」
「750!?」
ベッドフォードがあまりの数に驚く。
「そのぐらい売れれば9%も問題ないと思います。」
「ふむ、そうですか。
まぁ実際は査定をしてから決めさせていただきますので9%は最高利率になります。
そして公募されるのでしたら現在の収支報告書と設備投資したい金額の内訳を提出することになります。」
「設備投資したい金額・・・わかりません。」
ベッドフォードが悩む。
「はい。ですので、財政局の者を連れてきました。
この者が書類作成の補助をしますので何なりと相談してください。」
「よろしくお願いします。」
一緒に来た文官が頭を下げる。
「は・・・はぁ。」
ベッドフォードがぎこちなく頷く。
「で、おじさん、ラルフ店長、お2人にお願いがあります。」
武雄がローとラルフに向かって言う。
「「はい。」」
「おじさんは小瓶や樽の仕入れ原価等々、ラルフ店長は私との契約の内容で相談に乗って貰いたいのですが・・・いかがでしょう。」
「「わかりました。」」
2人が快諾する。
「ちなみにキタミザト様、契約内容は私共と同じで良いのでしょうか。」
「はい、それで構いません。
それとこのウスターソースの販売先の明記もしておいてください。
あくまで魔王国に面する3伯爵領とウィリアム殿下領のみと。」
「はい、わかりました。」
ラルフの質問に武雄が答える。
「ちなみに小瓶は先ほどの物で構いませんか?」
「はい、あのぐらいの物をお願いします。」
「わかりました。」
ローの質問に武雄が答える。
「ではタケオ様、ミア様、私達はこれでお暇しましょうか。」
「はい、わかりました。
ミア、帰りますよ。」
「は~い。」
フレデリックが武雄とミアに帰宅を促す。
「あとは任せました。」
「はっ、了解いたしました。」
文官が頭を下げて2人を見送るのだった。
・・
・
「ローの爺さん、ラルフ・・・これはなし崩し的に作ることになったのか?」
ベッドフォードが恐る恐る2人に聞く。
「うちもこんな感じでしたね。」
「私もこんな感じですよ、ほほほ。」
ローもラルフも同情をするのだった。
「じゃあいろいろ打ち合わせをしますか。
あ、こちらに座ってください。」
ラルフが場を仕切り始めるのだった。




