第593話 さっきまでの報告と万年筆と鉛筆。
一旦エルヴィス邸に戻ってきた武雄は昼食の準備中とのことで客間でエルヴィス爺さんとアリス、スミス、フレデリックと歓談しており、午前中のテイラーの店での出来事や工房の人達との話を報告していた。
「ふむ・・・なるほどの。」
説明を一通り聞いたエルヴィス爺さんが頬に手を当てながら呟く。
「その黒板という物は使えそうかの?」
武雄は簡単に黒板の事を説明していた。
「人に教える場とか会議での殴り書き等に使えますね。
この産業は黒板の製造需要というよりもそのチョークという書く物の需要が定期的に発生する仕組みになります。」
「「ふ~ん・・・」」
エルヴィス爺さんとスミスは興味なさそうに返事をする。
「タケオ様。
向こうに行っている執事が総監部としてもスズネ様の取りまとめを補助すると言ったのですね?」
フレデリックが武雄に聞いてくる。
「はい、ヴィクターとジーナの練習になりそうだと言っていました。
問題はありますか?」
「いえ、何もありません。
そうですか・・・最近の総監部に居る若手は自ら手を上げて契約等の後ろ盾に乗り出すことはないのですが、うちの若手も頑張っていますね。」
フレデリックが嬉しそうに頷く。
「若手がやる気になっている組織は発展するからの。
まぁ失敗もするかもしれんが、良い経験となれば良いの。
フレデリック、チェックはしっかりとしないといけないな。」
「はい、その通りです、主。」
「うむ。その黒板の直接的な発想料の受け取りはスズネで死去等した場合の納付先は研究所の方が良いだろうの。
エルヴィス家でスズネを雇用はしておらん。あくまでスズネは研究所に所属しておるのだろう?」
「まぁそうですね。
と、そうだ。この後、青果屋のおやじさんにウスターソースの契約の話をしに行くのですけど。
私の死去等の後の納付先はどうしましょうか?」
「タケオの好きにして構わんよ。」
エルヴィス爺さんが躊躇もせずに言ってくる。
他の面々も頷いている。
「そうですか・・・
長期的な利益が見込める場合はエルヴィス家で他は研究所が良いのでしょうかね・・・」
「タケオは今後どんな物を作っていく気かの?」
「そうですね。
・・・まずは万年筆と鉛筆が良いでしょうね。」
「それはどういった物なのじゃ?」
「今はペンの先をインクに付けて書いて、薄くなったらまたインクに付けてといった事をしていますよね。」
「うむ。それが当たり前だと思うのじゃがの?」
エルヴィス爺さんの言葉に武雄以外の面々が頷く。
「それをですね。
例えば万年筆なら紙5枚程度なら途中でインクを付けなくても良いという物を考えています。」
「それは画期的じゃの!
毎回インクを付けて書いての作業は面倒なのは確かじゃ。」
「まぁ全ての構造を知っているわけでは無いのですぐにはできませんが、何とか物にしてみたいですね。」
「うむ。あともう一つはなんじゃ?」
「鉛筆は確か炭と粘土を練った物を焼き固め、木の中に入れて書けるようにする物ですが、落書きに便利です。
ただし、インクと違うので擦ると滲んでしまうので公文書とかには向かないですね。」
「そっちは割りとすぐに出来そうじゃの。」
「早い段階でお見せしたいですね。」
「タケオ、相変わらず面白い事を考えるの。
筆記具は新しい発想は出てこないからこれはこれで上手く行けば世の中を変えるかも知れん。」
エルヴィス爺さんが楽しそうに言うのだった。
「タケオ様、今度は筆記具を作るのですか?
あまり街の発展にはならなそうなのですが。」
スミスが不思議そうな顔をさせて「それは街の発展に寄与しますか?」と聞いてくる。
「スミス坊ちゃん、その通りだと思います。
鉛筆を作る為の木材や粘土とか万年筆の先端部分の金属の加工とか・・・
まぁいろいろと確保しないといけない物とかはありますが、筆記具はなかなか大儲けしたり、街の発展というところまでは行かないかもしれませんね。
ですが、生活の質という面では上がると思いますよ。」
「生活の質ですか・・・」
「今のペンは書くのに制約がありますから。」
「制約ですか?」
増々スミスは不思議そうな顔をする。
「ええ。インクを別に用意しないといけなかったり、書いたものは消せないので書き間違いが出来なかったり、旅の途中で何気に風景を書いたりできなかったりですね。」
「タケオ様、書いたものは消せないのは当たり前だと思うのですが?」
「そうですね。
今はインクしかないですからね。」
「その言い方だと・・・鉛筆は消せるのですか?」
スミスが驚きながら聞いてくる。
「ええ。まぁ・・・でも・・・とりあえず消せる物を探さないといけないですね。」
武雄は「消しゴムの作り方なんて知らないんだよなぁ」と壁にぶち当たる。
「タケオ様、消せるのを知っているのに消せる物をタケオ様は知らないというのはどういうことですか?」
アリスが聞いてくる。
「消す道具の完成品を購入出来たので、作り方や材料を知らないのですよ。
まぁでも消せなくても鉛筆は使いやすいので細々と作りますかね。
インクのいらないペンですので外出先でも紙と鉛筆さえあれば何かしら書くことは出来ますし。
・・・とりあえず言葉で説明しても意味がないので試作したら皆さんに見せます。」
「うむ、そうじゃの。
万年筆も鉛筆もわしらの頭では想像すら難しいからの。
やはり実物を見ない事には判断が出来ないだろうの。」
「はい。
まぁ追々作っていきます。
と、話が逸れましたが、先程言ったように鈴音に黒板というものも作って貰うよう依頼しているので、文房具としては第一段がそれですね。
次に鉛筆でその次が万年筆でしょうか。
とりあえず黒板と鉛筆は作ってみますかね。」
「タケオ、もう一度、黒板を詳しく説明してくれるかの。
さっきの説明だけだといまいち想像できんのじゃ。」
エルヴィス爺さんが聞いてくる。
「はい。
では、今度は王都での話を説明しますね。
王都で研究所の人員と打ち合わせをした時にですね。」
武雄が説明を始めるのだった。
・・
・
「なるほどのぉ。」
「面白いですね。」
「紙の消費が少なくなるのは良いですね。」
3人とも黒板に食い付きだす。
「そんなわけでとりあえず鈴音に作って貰おうと思っています。」
「うむ・・・
スズネもいきなり黒板とチョーク、そして拳銃や小銃の改造を手伝うのかの。
慌ただしいの。」
「優秀な人材には仕事が回って来るのですよ。」
武雄が苦笑する。
「・・・スズネさんが居なかったらそれら全てをタケオ様がしていたのですね。」
「はぁ・・・本当は鉛筆や万年筆も鈴音にさせたいですけど・・・
いきなり大量に渡したら怒りそうですからね。
徐々に増やしていきますよ。」
「・・・タケオ、まだ何か考えているのかの?」
「まだこれといって思いつかないですけど・・・その内何か欲しくなったら鈴音に言って作って貰おうとは思います。」
「ある意味でスズネはタケオに会って災難なのかもしれぬの。
過労で倒れなければ良いがの。」
「ふふ、良い人材が確保出来たのです。
活用しないと勿体ないです。
まぁ私の方もいろいろ動くので私が急激に楽になる訳ではないですけどね。」
武雄は物騒な事を言いながら苦笑する。
「まぁタケオもスズネもあまり無理はする事はないの。
もう少しゆっくりとして良いからの。
わしらはそんなに急激に変えようとも思っておらんからの?」
「はい、わかりました。」
武雄が頷くと丁度執事が入って来て「昼食の用意が出来ました」と伝えるのだった。
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