第592話 直販店を作ろうと街北の整備事業について。
テイラーの魔法具商店を出た武雄達はアーキン達と別れてブラッドリー達の工房に来ていた。
執事2名と整備局2名そしてブラッドリー達5名に武雄とアリスと鈴音が一同に会していた。
そして先ほどのテイラーとの話を説明していた。
「キタミザト様、先ほどの説明によるとテイラー殿の魔法具商店をここに移転させた方が良いと考えるのですね?」
執事の1人が聞いてくる。
「はい。私としてもブラッドリーさん達は工房として仕入から製造、納品まで責任を持って行ってほしいですが、それはあくまで懐中時計や私の小銃など、既に決まっている生産品についてです。
例えば何か魔法の指輪や剣を作った際に一々販売店を訪ねるのは大変だと思うのです。
現在の工房は商店から要望を得て、品物を製作し納品するというのはわかっているのですが、それではかなり受け身の経営をしないといけません。
客の要望ではなく工房側が作りたい物が出来た場合に最初にどこに卸すか・・・卸先まで工房の人達に探させるのは時間の無駄です。
なら試作品や初期生産品はテイラー店長に売って貰った方が良いと思います。」
「確かにそこはわかります。
で、代わりにテイラー殿はこの工房から魔法刻印というのを習うというのですね。」
執事が頷きながら言ってくる。
「わしはキタミザト様の改造小銃を見ておるからの。
あの改造を施したという者が尋ねて来てくれるのはありがたいし、魔法刻印についても隠す気はないの。
好きなだけ学びにくれば良いと思っております。」
ボイドが嬉しそうに答える。
「利点としては、一つ目として工房が物作りに専念できる。
二つ目として製造と販売が違う店で行う事でしっかりと原価計算が出来る。
三つ目として製品の改造は魔法具商店で行う為、どういった商品が必要なのか工房は客観的に判断できる。
四つ目として双方の空き時間に売り側と製作側で打ち合わせを頻繁に行える事で品質の向上が見込める。
このぐらいですかね?
魔法刻印についてはテイラー店長が教えを請いたいとしていますから私は何とも言えません。
双方がちゃんと話し合って決めれば良いと思っています。」
「そうですか。
総監部は問題ないと思います。整備局はどうですか?」
「うちも問題ないと思います。」
文官達が武雄の案を肯定する。
「ブラッドリーさんはどう思いますか?」
「そうですね・・・キタミザト様の言う通り販売は我々が不得意な所なので販売をその店が行ってくれるのはありがたいとは思うのですが・・・
スズネ、会ってみた感じはどうだった?」
「好青年でした。
知識も発想も抜群ですね。」
「ん?スズネが好青年って・・・そのテイラーさんはいくつなのかしら?」
サリタが聞いてくる。
「さて・・・いくつでしたかね?」
武雄が執事を見る。
「確か・・・28、9歳だったかと。」
「ほぉ、その年で3年間店を維持しているのですか。
結構やり手かもしれないですね。」
ベインズが感心しながら頷く。
「そうだな。
堅実なのだろう。
カーティス殿への家賃はうちから一括で渡してしまった方が良いのですかね?」
「総監部としてはそれが好ましいと思います。
そして又貸しにはなりますが、テイラー店長から月々ブラッドリー殿に払って頂けたら問題にならないかと思います。」
「親方、月々いくらにするのですか?」
「んー・・・家賃は払った事はあっても貰った事がないからなぁ・・・」
ブラッドリーが腕を組んで悩む。
「ちなみにこの工房の家賃は金貨5枚という事でしたが、不備はありましたか?」
武雄が文官達に顔を向けて聞く。
「基本的な所に不備はありませんでした。過去の資料でも不慮の事故等もありません。
若干湯あみ場の排水関係で水漏れがありましたが、すぐに直せると思います。
不備の箇所はそのぐらいです。
周辺相場よりも3割低いのでカーティス一家の意気込みなのだとは思いますね。」
「ふむ・・・カーティス一家は何を狙っていますかね?」
「たぶんですが、この一帯を工房街にしようと思っているのではないかと。」
「なるほどね。ブラッドリーさん達は初期投資だから低くすると・・・
ですが、他の工房が移転してきて採算が取れ始めるのは早くても数年後だと思いますが・・・」
「私達もそう考えています。
数年後に家賃価格の高騰は認めない方向です。」
「需要と供給のバランスで家賃は決まりますから・・・
あまりきつく締めすぎるのも問題はあると思います。」
「そこは心得ています。
1.05から1.1倍くらいまでの上昇率が理想かと思っています。」
「そうですね。
まぁ将来の危惧は我々が何とか対応をしますが、今はブラッドリーさん達の工房が軌道に乗ることが先決です。
それの後に街の発展を考えれば良いでしょう。」
「そうですね。
まずはここから上手くまとめていくのが我々の仕事ですね。」
整備局の1人が頷く。
「整備局としては工房をここに置くのは良いと思いますか?」
「はい、問題ないかと。
実は来年に裏城門周りの道の舗装整備が実施され、3年後には裏通り全部の舗装が終わる見込みになっています。
馬車が多くなるであろう時期にこちらの整備が終わるので通行の便が少しは良くなるだろうとは考えています。」
「そうですか、順調そうですね。
では鈴音、ブラッドリーさんとテイラー店長の橋渡しはお願いします。」
「え!?私ですか?」
「ええ。どうせ拳銃の事でテイラー店長の所には行くでしょうし、ここに鈴音の部屋もありますからね。
ブラッドリーさんは問題ないですか?」
「はい、問題はありません。
スズネ、ここに移転させるには一度このメンバーで会う必要があるだろう。
その段取りをまずはしてくれ。」
「親方、わかりました。」
鈴音が頷く。
「それと鈴音、黒板ですがテイラー店長に言ってどこかの商店と話し合いをしてきなさい。
何も一から鈴音が作る必要はないですからね。
それとちゃんと発想料の契約はしてきた方が良いですよ?」
「はい・・・武雄さん、契約はどうやってするのですか?」
「あぁ・・・そうですね。」
「キタミザト様、そこは我々が補助します。
確か本日からキタミザト様の執事の研修がありましたよね?」
執事が聞いてくる。
「ヴィクター達の練習の場に?」
「はい。キタミザト様がロー殿やラルフ殿と交わした契約書を元にいろいろと教えられると思います。」
「契約内容については基本的に店と鈴音の契約で死後の方は研究所もしくはエルヴィス家という事にしておいた方が良いでしょうか。」
「その辺も考えながら作ってみようかと思います。」
「ふむ・・・総監部が後ろ盾になれば平気でしょう。
では、総監部からも誰か鈴音の相談が出来る者をお願いします。」
「はい。一度、総監部で打ち合わせをしてから行動します。
スズネ殿、それでよろしいでしょうか?」
「はい!よろしくお願いします!」
鈴音は「何だか大事になっていくよ~」と心の中で泣き言を言うのだった。
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