第587話 次はアニータとミルコの適性を見よう。
「「「・・・」」」
武雄は黙ってアニータとミルコを見ていた。
鈴音の時と同じで適性と魔力量を計ったのだが・・・
アニータの適性は風、ミルコの適性は土と両者とも汎用性が高そうな魔法適性だった。
適性の時点では皆が「良かったね」と祝福していたのだが、魔力量を計ってみると皆が黙ってしまった。
「やはり、アニータさんとミルコさんは共に魔力量5000以上ですね・・・」
テイラーは再度計り直していたが結果は変わらなかった。
「そうですか。
アーキンさん、ブルックさん、上手く使ってください。」
「魔力量は別として初歩の魔法からでよろしいのですよね?」
「はい。兵士としても魔法師としても初歩からみっちりと。」
「「えぇ・・・」」
アニータとミルコがガックリとする。
「魔力量が多かろうが、適性が良かろうが、それを扱うのは個人です。
基礎を疎かにする人は大成出来ませんよ?
アニータとミルコは確かに素質はダントツかもしれませんが、それを頼りに行動したら私のような素質が皆無の人間に遅れをとりますからね。
今は地道に学びなさい。」
「「は~い。」」
2人は渋々了承する。
「じゃあ、キタミザト様の魔力量も計っておきますか。」
「はい、1か月検診ですね。」
武雄が席に座る。
と、アリスが横に来て手をかざすと水位が上昇し、丸フラスコの細い部分まで上昇したのを見てアリスが手を離す。
「さて、しますか。」
武雄が手をかざすと水位がゆっくりと上がり始める。
「「・・・」」
アリスとテイラーが真剣に見ている後ろでアーキンとブルックが「本当に魔力がないんだ!」と内心驚いている。
「やはり少ししか上昇しませんね。」
武雄が苦笑する。
「ええ。ですが、前より上がっていますね。」
テイラーが呟く。
「「え!?」」
アリスと武雄が驚いてテイラーの顔を見る。
「キタミザト様の場合、魔力量が元々最大25程度だったのが今では最大30程度まで上がっていますね。」
「おぉ!何か新たに出来るようになりますかね?」
武雄が嬉しそうな顔をさせてテイラー店長に聞く。
「そうですね・・・1つか2つは出来るようになると思いますね。
アクアの上位でアクアウォールかフロストの上位のフロストウォールは出来るかもしれませんね。」
「その2つはどんな魔法なのですか?」
「アクアウォールは2、3人相手に使う水の魔法ですね。
・・・この桶の水を横に振って水をかけるようなイメージですね。
フロストウォールは氷の壁です。
ですが、キタミザト様の場合は発動出来るというだけなので威力は・・・」
「あぁ、それは他のもそうですし気にしていませんよ。
氷の壁かぁ、面白そうですね。」
「タケオ様、何か考え付きましたか?」
「いえ、特にはないですね。
そうですか、魔力量は増えるのですね。」
「少しずつですけどね。」
「十分ですよ。
とりあえず、3人の特性と魔力量は計りましたね。
じゃあ、アーキンさん達はアニータとミルコの魔法師の初心者用具を探してください。」
「はい、わかりました。」
アーキンとブルックが頷く。
「えーっと、発動用のスティックはどちらにありますか?」
「はい。今、お持ちします。」
とテイラーが店内の棚に向かう。
「じゃあ私達は少しお茶ですかね。」
アリスの言葉に武雄も頷くのだった。
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「じゃあ、テトはあの部屋で100年も誰かを待っていたのですか?
それは暇ですね。」
「そうなの・・・暇だったのよ。
掃除で誰か来ても会話も出来ないし、動けないし・・・
まだ外に居たスー助の方がマシかもしれないわ。」
いつの間にか仁王様達の話にミアも加わりマッタリとしていた。
「・・・チュン?」
スーが首を傾げる。
「剣の中も退屈なのはわかるがな・・・だが!あの部屋は気が滅入るな!」
「ニオもそう思うのですか?」
ミアが聞いてくる。
「うむ。
いくら我らが精霊と言えど・・・こう・・・誰も来ない、代わり映えがしない部屋に動かずに何十、何百年もいると飽きるのだよ。」
「・・・確かに出歩けないのは嫌ですね。」
ミアが顎に手を当てながら少し考えて、そう呟く。
「ミアもそう思うだろう?
まぁ、我々は世界に飽きてはいないんだが・・・
あの部屋は特別だ。せめて1年に2回程度日当たりの良い所に行ければ気持ちも違うだろうがな。」
仁王が苦笑する。
「それにしてもこの世界は緩いわよね。
他の世界なら私達が呼び出されるのは荒れ果てていたりして苦難の真っ只中で、適応者に相応の対価を求めるけど。
ここはかなり私達の自由にして良いみたい・・・対価なんて私達の好きで良いとすらされているし。
ニオ、本当に何もしていないの?」
「うむ。
世界征服とか国の王になるとか・・・うちのテイラーは考えていないな。
だから我も何もしない。
テトの所はどうだ?」
「まだわからない。
でも、良くも悪くも普通の民だと思う。そういう意味では私も積極的に何かをしなくても良いと思うなぁ。」
「うむ、そうか。」
「ニオ、それにしてもあの2人はなんなの?」
テトが武雄とアリスを見て呟く。
「主とアリス様ですか?」
ミアが聞いてくる。
「ん?アリスは魔眼持ちだし、タケオは日本人だろう?
確かにアリスは人間の最高峰にいるかも知れんが我らからすれば範囲内だろうし、タケオは知識があるだけだし・・・テトが訝しむ程か?」
「能力ではなくて素行よ。
人間は誰しも他人より能力があると自慢し、上に立ちたがるじゃない?」
「アリスは元々貴族だし、タケオは日本人だしなぁ・・・
それにタケオは研究所を貰ったのだろ?2人とも十分に上に立っているな。」
「2人とも私が知る中では謙虚過ぎで・・・本当に人間?
もっと欲にまみれる物じゃないの?」
「タケオ様、私達は人間じゃないらしいですよ?」
「そうらしいですね。」
アリスと武雄が向こうの話が終わったのでチビッ子達の所に来た。
「検査は終わったのか?」
仁王が聞いてくる。
「はい。
問題ないそうです。」
「うむ、そうか。
で、タケオはテトの考えをどう思う。」
「個人差かと。」
「うむ。」
「それはわかるけど・・・もっと壮大な暗躍をしても良いんじゃないの?
2人ならこの国だけじゃなくて周辺国家との併合も出来ると思うわよ?」
「で、統一したら後継者争いやら側近の謀反ですか?」
武雄が普通に返す。
「・・・そういった前例は多いけど・・・
じゃあタケオは何が望みなの?」
「エルヴィス家の安定と領内の発展ですね。」
「アリスも?」
「領民が笑顔で過ごして欲しいですね。
あとは家族が仲良くあれば良いです。」
「・・・ん~・・・」
テトが腕を組んで悩む。
「西洋の物語はそういった事が題材なのが多いのは確かだな。」
仁王が呆れながら言う。
「ああいった寓話や神話は教訓じみた物ばかりですしね。
それに私の望みも随分と大それたものだと思っていますよ。
『領内の発展をさせたい』なんて普通の人間では考えないでしょう?
普通の人間は自分の事で精一杯なんですから。」
武雄は苦笑するのだった。
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