第562話 エルヴィス伯爵に挨拶と米について。
フレデリックに連れられて武雄達は広間に到着した。
広間の扉をフレデリックがノックし、中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
「主、失礼いたします。
アリスお嬢様とタケオ様がご帰還されました。
また工房の方々や試験小隊の方々等ご挨拶に参っております。」
広間にはエルヴィス爺さんとスミスが待っており、皆の分の机と椅子がロの字の形に置かれていた。
「うむ。アリス、タケオ、おかえり。」
「おかえりなさい、お姉様、タケオ様。」
「お爺さま、スミス、ただいま戻りました。」
「エルヴィスさん、スミス坊ちゃん、ただいま戻りました。」
「うむ、とりあえず皆座ろうかの。
タケオの執事も今日は初めてじゃ、座ってくれるかの?
長旅であったろう、お茶でも飲もうかの。」
エルヴィス爺さんの言葉に各々が席に座る。
「タケオ、皆を紹介してくれるか?」
「はい。ではヴィクターとジーナからいきますか。」
「「はい。」」
ヴィクターとジーナが席を立つ。
・・・
・・
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「以上が今回連れてきた方々です。
あとは試験小隊の面々と研究所の研究室長が後日来ます。」
エルヴィス家の面々を含めて全員の自己紹介が終わった。
「ふむ、なるほどの。
皆、今後ともこの街をよろしく頼むの。」
「「はい。」」
皆が返事をする。
「主、この後は工房の方々は住居兼工房に向かい入居をされます。」
「フレデリックさん。
すみませんが、執事のどなたかを同行させて貰えないでしょうか。
初めての土地で相手が・・・」
「そうですね、わかりました。
3名ほど付けましょう。」
「ありがとうございます。
では皆さん。」
「はい。伯爵様、今後ともよろしくお願いいたします。」
ブラッドリーの言葉に工房の面々が立ち上がり礼をし、フレデリックに連れられて退出していく。
・・
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しばらくしてフレデリックが広間に戻ってくる。
「主、皆さま、戻りました。」
「うむ、ご苦労。
何を抱えておるのだ?」
「サリタ様からタケオ様が向こうを出立する際に預かったと言われましたので私が受け取って参りました。」
「フレデリックさん、すみません。」
「ふむ。タケオ、何を買ったのじゃ?」
「穀物です。」
「ほぉ、珍しい物が売っておったか?」
「はい。エルフの国で栽培されている米と言う穀物です。」
「米?・・・確か武雄が前に言っていたように思うの。」
「はい。
以前少しだけ話をしましたが、この国では食べられても栽培もされていない物ですね。
私の出身地の主食です。」
「ほぉ、という事は料理が増える予感じゃ。」
エルヴィス爺さんが嬉しそうに頷く。
「はい、倍増は出来るかと。
ただ米にもいろいろな種類がありますから実際には調理してみないと何が作れるかわからないですね。」
「そういう物かの?」
「はい。それにこの米は出来れば作付用にしたいのです。
まぁ未知の穀物を作付させてくれる農家がいるのかわからないのですが・・・」
「ふむ・・・手に入れるにはエルフの国との交渉か・・・
魔王国の東では、どうにも出来ぬの・・・」
「いえそれがヴィクターの話ではテンプル伯爵領と森を挟んだ対面に存在するそうです。」
「なぬ!?」
「「!?」」
エルヴィス爺さんもスミスもフレデリックも驚く。
「それは本当かの?」
「ヴィクター達の言葉を信用してあげれるならです。」
「そこは信用しても構わぬが・・・初めて聞いたのじゃ・・・」
「はい、王都でも知られていませんでした。」
「ふむ、確かあの森は魔物がいたの?」
エルヴィス爺さんがそう言いながらフレデリックに顔を向ける。
「はい。確か・・・蟲が居て森に入る事が出来ないとの話でした。
森の主と言った感じでしょうか?
我々はその森の主がいるから他の魔物が入って来ないのだろうと思っています。さらに向こう側が魔王国 ではなくエルフの国でしたか。」
「何とかしてそこと交渉をしたいのぉ。
ヴィクターと言ったの、難しいかの?」
「はい。蟲とスライムの群生地帯です。
生息域の拡大はしないのですが・・・侵入者を攻撃するかと・・・」
「ふむ・・・それは厄介じゃの。
・・・タケオ、済まぬがわしとしてはまずは小麦の作付面積の拡大を推し進めたい。
なので新な畑を作り出す人的余裕はないと考えるの。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが難しい顔をさせる。
「いえ、領内の自給率が低いので主食の小麦に力を注ぐのはわかります。
私的には前に言われていた小麦が12月に種蒔き~5月位に刈り入れと言っていたので、作付時期が違う米を作ってくれる農家もいるかなと思っただけです。
何とかしてエルフの国と切っ掛けが欲しいですよね。」
「ちょっと待ってください、タケオ様。
作付の時期が小麦とは違うのですか?」
「はい。米は3月か4月に蒔いて10月位に刈り入れだったはずです。」
「フレデリック!これは使えるの!?」
「はい。主、これは使えます。
農家の副生産物となり得ます。」
武雄の説明にエルヴィス爺さんが身を乗り出す。
「タケオ、畑を用意すれば栽培出来るのかの?」
「栽培は出来ると思うのですが。
ん~・・・どうでしょうか・・・」
武雄が悩む。
「ん?出来ないのか?」
「いえ、発芽率がどうなるか・・・
来年の4月に蒔いて食べれるぐらい収穫が出来るのかはわかりませんね。
私的には来年で栽培出来るかを見る段階です。
なので、協力してくれる農家を1件紹介してくれれば試験的に栽培を開始し、再来年の種蒔きの準備をしたいと思います。」
「ふむ・・・我々の口に入るのは再来年以降ということかの・・・」
「タケオ様の畑の成果だけに頼りきりではダメでしょう。
タケオ様も言っているエルフの国との交渉の場をどう設けるか・・・そこも考える必要があるかと思います。」
「ふむ・・・タケオの米の種蒔きまで時間はあるの。
これは少し考えようかの。」
「そうですね。
試験的な作付けをするにしても農家に聞いてみないといけませんし、経済局と話をしてみないといけませんね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが頷き合うのだった。
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