第557話 52日目 エルヴィス領西町に到着。
武雄達一行は何事も無く順調に帰路の旅をしていた。
そしてこの日はエルヴィス領の西の町に泊る事になっている。
午後3時を過ぎた辺りで遠目に町が見える所まで来ていた。
「やっと西の町ですか。」
「遠いですね。
はぁ・・・王都まで行きは5日、帰りは8日ですか。長いですね。」
「いや、普通の旅では馬で6日、馬車で9日と言われましたから1日早めて進んでいますよ。」
「それはそうですけど・・・遠いですね。
あ、レイラお姉様達が来た時は馬車で4日で帰って来ましたよ?」
「なんで馬の旅よりも速いのでしょうか・・・」
アリスの言葉に武雄が呆れる。
「昼夜問わず走ったそうです。」
「それは王家だから出来る強行軍ですね。」
「いえ、ジェシーお姉様も通常馬車で6日の所を3日で来ましたね。」
「・・・どれだけ無理をしてきたのでしょうか?
ですが・・・昼夜問わずですか・・・」
武雄が思案する。
「何かありますか?」
「いえ、一度馬車を製作している所を見に行こうかと。」
「どれだけ頑丈に作っているのでしょうかね?」
アリスが苦笑いを武雄に向ける。
「そうですね。」
武雄は「車輪の軸受けを改良すればもっと速く動けるのではないの?」と思うのだった。
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「クゥ、大丈夫ですか?」
「きゅ?・・・きゅ?」
ミアが幌馬車の上でのんびりしているクゥの所まで行き話しかける。
クゥが「え?何が?問題ないよ?」と返す。
「そうですか、大丈夫なら良いのですが・・・
それにしてもこの間のクゥの皮剥がし大変でしたね。」
「きゅ・・・」
クゥの表情が曇る。
「まぁ、当面の資金は手に入るので問題ないでしょう?
それに剥がした場所はすぐに主が治しましたし。」
「きゅ!」
「そうですね、痛い思いをした甲斐がありましたね。
そんなに痛かったのですか?」
「きゅ!」
「え?『ちくっとしたの!』とは何ですか?
元の姿に戻ってボロボロ泣いていたから私はもっと痛いのかと思いました。
ちくっとしただけだったのですか。」
「きゅ!?きゅ!」
「え?そんなの数えられないくらい経験していますよ。
木の枝とか葉っぱとかちくちくするでしょう?」
「きゅ!」
「いや・・・初めての痛みだったと感想を言われても。
まぁ主も『この方法は止めましょう』と言っていましたし、もうされる事はないと思いますよ。」
「きゅ!」
「断固拒否するって宣言しなくても主はしないと言えばしないと思いますけどね。
それにしてもクゥの暴れっぷりはなんですか?
幌馬車に大事はなかったし、他の方々にも怪我がなかったから良かった物の。
ちくっとしただけで何で尻尾をぶんぶん回したり、大地を叩いて穴を作りますかね?」
「きゅ・・・」
クゥもやり過ぎた感があったのか申し訳なさそうにうな垂れる。
「あんなに暴れるなら誰だって脱皮まで待ちますよ。」
「きゅ?」
「ええ。
平気だと思いますよ。 」
「きゅ。」
クゥが頷くのだった。
ちなみにチビッ子達以外はクゥの暴れっぷりを見て「ドラゴンと戦うのは無意味だ」と思うのだった。
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エルヴィス領に入ってからこの町までの村々ではエルヴィス爺さん達が先に領内全域に通達を出していた事もあり大した問題にはならなかった。
村人達はコラ達の大きさに最初驚いていたが、アリスと武雄が普通に撫で回していたのを見て「じゃあ、自分達も」と村人全員が撫で回すという珍事が発生した。
コラ達も嫌がりもせずにされるがままだった。一通り撫でまわされた後は子供達が群がっていた。
そして西町に到着し、コラとモモは町の門辺りを本日の寝床にしたのだが、ここでも同様な事が発生するのだった。
「宿に着きましたね。
じゃあ、食材は皆で買いに行ってきてください。」
「え?キタミザト様は行かないのですか?」
サリタが聞いてくる。
「ええ、町の局長に挨拶にいってきます。」
「わかりました。」
武雄がクゥをアリスがタマを抱えながら一行から離れるのだった。
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「はぁ・・・」
西町局長は今回も緊張をしていた。
今回は北町局長も一緒に待っているのだが・・・
「整理整頓はしたし、皆で掃除も終わった・・・試作品は用意出来てるな。
あとは・・・」
「おい。」
「なんだ?」
「なんでそんなにソワソワしている?」
「あのキタミザト様だぞ!?アリス様だぞ!?」
「いや・・・まぁそうだが・・・
でも王都に行く時も寄ったのだろう?」
「あぁ、的確な助言を頂いた。
なので、この帰路で成果を見せないと。」
「キタミザト様が喜びそうな成果は出来ているのか?」
「・・・」
「おいおい・・・」
「わからないんだ・・・どれが正解なのか・・・」
「どんな助言を頂いたんだ?」
「野菜の塩漬けだな。」
「美味しいのか?」
「ここ2週間ほど毎日少しずついろいろと食べているが・・・段々美味しく感じて来てな。」
「ほぉ。」
と、執務室の扉がノックされる。
西町局長が入室の許可を出すと事務の女性が入って来る。
「失礼します。局長、来られました。」
「すぐにお通ししてください。」
「はい。」
女性はすぐに引き返す。2人の局長は起立し、覚悟を決めるのだった。
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