第553話 48日目 エルヴィス邸の人達と第3皇子一家の政策素案とエリカの成果。
「「「・・・」」」
エルヴィス爺さん達が難しい顔で考え込んでいる。
「お爺さま、これって・・・」
「現状のアズパール王国の貴族の中でこの考えは異質じゃの。
普通ならこの考えは出て来ないはずなのじゃが・・・まぁタケオじゃろうの。
それに川を使っての流通は採算が取れないのだがの・・・」
「そうですね・・・昔試算しましたね。」
「え?」
スミスは驚きながら2人を見る。
「川幅も広く川底も深い。
これなら船の流通が出来るだろうと考えたんじゃよ。
もう随分と前だったか。」
「そうですね・・・確か主が当主になったばかりの頃でしたか。」
「フレデリックが来て少し経っていたかの?」
「はい。
確か物は試しに検討してみようと言ってやりましたよね。
ですが・・・あまあまな試算段階ですら採算が合わなかったですね。」
「そうなのですか?」
「うむ、人件費がの・・・
陸路の幌馬車の方が断然安いのじゃ。」
「そうなのですか?」
「うむ。
結局はどうやって船を動かすかというところが問題になってくるのじゃが。
ロバートの所からわしらの街まで物資輸送を想定した場合に川を遡上出来るくらいの底の浅い帆船をまず作り、遡上する為に必要な風系の魔法師を数名乗せる必要があったの。
底の浅い船とはつまりは積載量が少ないのじゃ。さらに魔法師を数名も乗せるからの輸送量に対して採算が全くと言って良いほど合わないのじゃよ・・・海に面している港だと底の深い大型船が使えるから積載量と魔法師の人件費の採算が合うのじゃがの。」
「主、第3皇子一家がそれを採用したという事は・・・」
「うむ、何かしらメリットが向こうにはあるの。
それに昔の想定ではこっちからは買いに行く事が主だったのだが、ウォルトウィスキーがあるから今度は売りに行く事を想定すれば・・・それでも採算は合わぬかもしれぬの。」
「それにタケオ様が動いていますからね。
港を作らせるだけでは終わりそうもありませんし、ウォルトウィスキー以外も考えていそうです。」
「うむ、この間送って来た魚醤だったかの?
あれも売りに行けるだろうが・・・まだまだ足らぬの。
物を売るにはうちの領地でしか出来ない商品か、他の地域よりも特色がある商品しか売れぬ。
うちは只でさえ作物は出来辛いからの・・・」
「レイラお姉様は軍事面も利点があると書いていましたね。」
「確かに書いてあるの。
だが、軍事の為に使えようともそれは非常時のみじゃ。
平時は物流で少しでも利益が出ないと維持は出来ないの。」
「ですが主、これは決定事項で殿下方は街作りに着手しているようです。」
「うむ、体制を整えなくてはならぬの。」
「売れる商品かぁ~。」
スミスが思案する。
「何か考えが浮かんだら皆で検討するかの。」
「はい。」
スミスが頷くのだった。
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王城の小会議室にて。
「つ・・・疲れた・・・」
「はい、お疲れ様。
堂々と説明出来ていたわよ。」
アルマが机に突っ伏しているエリカの肩をポンポン叩きながら労う。
今は小会議室には第3皇子一家とエリカが会議の余韻に浸っていた。
「それにしても凄い反応でしたね。」
「まぁ、王都では使われていないやり方だしね。
うちの漁港は近い感じでの取引はしていたかな?
それでも皆が自由に売買していたのに近かったはずだけど。
エリカさん、さっきの説明で私は成功だと思うわよ。」
「ですね。」
レイラとアルマは楽しそうに語っていた。
「2日前の説明から随分、具体的になっていたね。
現段階では内容も十分だと思うね。」
ウィリアムが感心する。
武雄達が王都を出立した日の夕方にエリカはレイラ達に自分なりに理解した卸売市場の考えを説明をしたのだが、「大規模すぎるから試算前に文官達の前で説明しよう」となり、今、昼前に会議をしていた。
エリカは武雄から聞いた卸売市場の概要に具体的な参加費用の取り方、つまりは税の徴収方法を考えて説明に追加したのだ。
エリカは用意すべき取引場の広さや荷捌き場等には言及しないで週に1回開場した場合に想定される取引規模を説明をし、あくまで政策立案として文官に訴えた。
「それにしても税の取り方が上手いわね。
買う側は参加前に銀貨5枚、売る側は売上高から5%。
そして売る側は最低取引金額を事前に設定しておけるというのも良いわね。
これなら売る側の費用は回収できそうだし。」
「でも価値がなければそもそも買ってはもらえない・・・農家や漁業者は頭を捻るでしょうね。」
レイラがアルマの言葉に難しい顔をさせながら言う。
「そこはおいおいわかって来るのではないかな?
まずはこの卸売市場という概念を他の3伯爵領に通知して参加を促さないといけないね。
うちの文官達も随分乗り気みたいだし。」
ウィリアムが頷く。
「そうね。まさか専売局長がやる気になるとは思わなかったわ。」
アルマが苦笑する。
この説明会で一番エリカに賛同したのは鉄鋼や塩を扱う専売局長で「うちも参加しても良いですか?」とまで言い出した。
次に経済局長と財政局長が「上手く参加者が集まれば財政収支も良くなるし、物が動いて街が発展しますね。」と割と乗り気。
整備局長と環境局長は難しい顔をさせて「革新的な考えなのも街の発展に寄与するのも十分にわかりますが・・・まずは今は現状の街造りを最優先させて欲しい。」と現状での実施に難色を示していた。
局長達はエリカを否定はしなかった。
むしろ政策の有効性は認めるが自分の担当部署で今出来るのかどうかで賛否で分かれる形になり、その様子を見ていたレイラ達は密かに胸を撫で下ろすのだった。
「はぁ、これで私達の相談役の見識の高さをうちの文官達にも教えられたから良かったわ。」
「エリカさん、これからよろしく。」
「うんうん、こんな感じの提案を次回もしてほしいね。
よろしくお願いします。」
第3皇子一家が頭を下げる。
「いえいえ!私はタケオさんの案に付け足しただけで・・・」
エリカが焦るが。
「違うわ、そのコネも含めて実力よ。
これからも他者から見聞きした物を自分なりに精査して提案してくれれば良いわ。」
アルマが朗らかに言うとレイラもウィリアムも頷く。
「・・・次ですか?」
「ふふ、エリカさん、高給に見合う仕事でしょう?
期待しているわ。」
「わ・・・わかりました。」
エリカは3人の笑顔を見ながら「初回からでかいのを当てちゃったよ」と心の中で焦るのだった。
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