第548話 エリカの相談。(卸売市場の意義とは。)と第3皇子夫妻の画策。
「タケオさんならどんな市場でも問題ないのですか?」
「はい、一小売りとしてなら別に気にはしません。
ですが、施政者として見た場合は・・・現状の個人取引を進めるのであればウィリアム殿下の港の意味がなくなってしまうと思います。
ウィリアム殿下の街の港は3貴族の物流を仕切る事が重要なのです。
個別にするなら目利きが生産者の所に行って買ってくれば良いのです。
例えば、テンプル伯爵領で魚を買ってエルヴィス領まで運ぶ際にわざわざウィリアム殿下の所に寄る必要がなくなってしまいます。
ですが、さっきの卸売市場という考えは買い付けに行かなくてもウィリアム殿下の街の港に行けば買いたい物が揃っているという所が利点なのです。
そして個別の商談ではなくあくまで最高価格を提示した者が買っていくという単純な仕組みです。
まぁそれを仕切るのは相当に大変でしょうが・・・」
「どうやって仕切るのでしょうか?」
「そうですね・・・最初はあくまで現金一括払いとするのが良いでしょうね。
事後払いは相当信用がなければ出来ない事でしょう。
そしてリンゴの取引時間は例えば9時、シイタケの取引は10時、ジャガイモの取引は11時と時間を区切り、時間外の取引をさせないことで指定した時間に指定した物が集まって来るでしょう。」
「なるほど・・・・」
エリカが考えながら頷く。
「これをするには全品物が収められる倉庫、取引場、荷捌き場・・・広大な面積が必要になります。」
「あ・・・今の街の区割図だと・・・」
「まぁあの区割図では考えていないようですね。」
「その辺も説明しないといけないのかぁ・・・」
「そうですね。
知識としての概要は説明しました。
エリカさんはこの政策の可否、そして実施するにはどんな施設が必要でどんな人員を配置し、どんな仕組みが必要かまでを試算をしなくてはいけません。」
「やることが膨大です。」
「ええ。
政策とはそういう物でしょう。
それに動き出したら現場で不具合が多発します。
その処理もしないといけません。」
「うへぇ・・・」
エリカが渋い顔をする。
「はは、相談役は大変ですね。
ですが、基本的にはエリカさん一人でするわけではありません。文官を使い適切な人事配置をして対応をしていくのです。
まずは第3皇子一家への説明用の資料を作成して可否の判断をして貰う。実施に向かうなら人員と予算を考えて提案し了承を得る。そして各領主への説明をして実施にこぎつける。
この流れでしょう。」
「わかりました。
一度考えてみます。」
「はい。私とエリカさんは貴族の相談役という同輩ですからね。
相談があるなら聞きますよ。」
「はい・・・わかりました。」
エリカが頷くのだった。
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「エリカさん、タケオさんに会ったかなぁ?」
「ん?レイラはエリカの行方がわかっているのかい?」
レイラの呟きにウィリアムが反応する。
「ウィリアム、昨日も私達で言ったけど。
勝手にエリカさんを妃にすると決めたら怒るからね?」
「・・・それは・・・はぃ・・・わかっています。
あくまでエリカが僕の妃になっても良いと言ってくれたら・・・という事だったよね。」
「仕向けるのもダメ。エリカさんは大事な相談役なんだからね!」
「わかっています・・・自重はします。
で、レイラ、エリカとタケオさんがどうしたんだい?」
「ん?ウィリアム、そんなの決まっているでしょう?
エリカさんはいくら皇女でもそうポンポン政策が発案出来る訳ないです。
私達と同じ凡人ですからね。
なら奇才の持ち主に相談しに行くのが普通です。
身近にいますからね。」
「・・・アルマ、レイラ、これを見越していたのかい?」
「ええ。王家である第3皇子一家はいくら縁戚でも他貴族の相談役に政策を頻繁に聞きに行けないわ。
王家としての外聞もあるしね。王都から訝しがられるわよ。
文官を派遣するにも現在は王都の者だからね。どんな報告をされるかわかった物ではないわ。
それに貴族相手に文官が行っても話をしてくれるかわからないわよ。
なら貴族間を自由に動ける人材が必要。それもタケオさんと直で話し合えるぐらい面通しが出来ている者がね。
エリカさんが動くにはそこまで王都は気にもしないでしょう。」
「それでもうちの文官内では訝しがられるかもしれないね。」
ウィリアムが腕を組んで悩む。
「そこは平気じゃないかなぁ?」
レイラがにこやかに言ってのける。
「ん?どうしてだい?」
「うちの文官は今、街2つ分を一遍に造る事をしているから自分たちの事で精一杯でしょう。
エリカさんがタケオさんの所に通っても余り気にしないとは思うのよね。
それに文官や武官はタケオさんの政策立案能力知っているし。
『聞きに行ったなぁ』ぐらいにしか思わないと思うのよね。」
「ええ、レイラの言う通りだと思うわ。
私達が動くと王都がうるさそうだけど、エリカさんが動くなら『頑張って知識を引き出している』と捉えるかもね。
まぁ毎回タケオさんの案をそのまま持って来られても困るけど。
エリカさんなら多少は自分で考えてから持って来るだろうし、そのうち皆が認めてくれるでしょうね。」
アルマもレイラの言葉に頷く。
「そうか・・・なるほど。
どうなるかはわからないけど、僕たちの為にとりあえずエリカには自由に動いて貰うほかないね。
一応、父上にはその旨は言っておくよ。」
「たぶんお義父さまなら私達の動きを見ていればわかると思うけど・・・報告して貰っていた方が楽かなぁ。」
レイラが考えながら言う
「さてと・・帰りも遅いからタケオさんの所でしょう。
どんな政策を持ち帰るのか・・・あぁ、また文官達との会議の日々が始まるわ・・・」
アルマが苦笑する。
「ふぁ・・・
それにしても夕方から仕事が倍増したねぇ。」
ウィリアムは欠伸をしながら言う。
「まぁ原因は私達の異動だしね。」
「そうですよね~。ウィリアム頑張ってね。」
アルマとレイラが励ます。
「致し方ないかな。
それに今のうちにちょっと弄っておくのも悪くはないかもね。」
「わからないように仕込まなきゃ意味はないわよ?」
アルマが指摘する。
「そりゃそうだね。
クリフ兄上の時には弄れないだろうからなぁ。
少し王家派を散りばめておくかな。」
「反王派に取り込まれたらどうするの?」
「その時は・・・最終的には今回みたいに王都守備隊が動くんじゃないですかね。」
アルマの質問にレイラが答える。
「んー・・・どちらにしても幹部連中は入れ替わりだね。
クリフ兄上の為に少ーしばかり偏らせるかな。」
「「ふ~ん」」
「興味なさそうだね。」
「「ええ。」」
アルマとレイラが声を揃えて即答する。
「明日からまた資料との戦いだね。」
「そうね~。」
「会議イヤだなぁ~。」
第3皇子一家のゆったりした時間が過ぎて行くのだった。
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