第547話 エリカの相談。(卸売市場とは。)
夕飯も終え各々が自室に帰っていった。
武雄は明日の朝と昼の用意を終えてアリスとエリカとカサンドラ、そしてヴィクターとジーナでお茶をしていた。
護衛の兵士達はソファでチビッ子達と仮眠している。
「で、相談とは何ですか?」
アリスがエリカに聞いてくる。
「ええ、この度、第3皇子一家の相談役になったのですけど。
タケオさん、アリス殿、どうすれば良いのですか?」
「何を悩んでいるのですか?」
武雄が朗らかに聞いてくる。
「いえ、アルマ殿下やレイラ殿下からウィリアム殿下の側室になっても良いと言われたのです。」
「・・・そうですか。
実際にウィリアム殿下から言われましたか?」
「いえ、全く。
アルマ殿下やレイラ殿下からはウィリアム殿下と過ごして色々と知った上で私が好意を抱くならと。
あくまでウィリアム殿下からの要請ではなく私の意思の方を大事にすると言われています。」
「なるほど。
アルマ殿下もレイラ殿下もウィリアム殿下の好きにはさせないのですね。」
武雄が苦笑する。
「はい。
強制的な婚姻はさせないからと言ってくれていますが・・・私はどうすれば良いのでしょうか?」
「ん?エリカさんはどうしたいのですか?」
「そこがわからないの・・・アリス殿、私はこのまま第3皇子一家の所に居て良いのかしら?」
「さぁ・・・それは何とも言えませんが・・・
カサンドラさんは何をしているのですか?」
アリスがカサンドラに聞く。
「私は第3皇子一家の騎士団にご厄介になっています。
一応、あの者達が部下となっていますね。
エリカ様の護衛兼監視です。」
「まぁ監視はしょうがないでしょうけど。
アルマ殿下とレイラ殿下が護衛をさっさと付けてくれたのは楽でした。
それに行動の制限がほとんどありません。
タケオさん、アルマ殿下とレイラ殿下は本当に私を相談役としてしか見ていないのです。」
「良い事ではないですか。」
「ええ、良い事なのですけど・・・私が本当に皇女だったと思ってくれているのか・・・若干不安です。」
エリカは複雑な顔をさせる。
「なんというか・・・疑って欲しくないくせに疑って欲しいとは面倒ですね。」
「はい・・・自分でも不思議に思うのです・・・平民になって解放されたという思いと特別な待遇をされたいという思いがあるのです。」
「・・・十分に特別待遇ですけどね。」
アリスがため息を漏らす。
「?」
エリカがアリスに顔を向ける。
「王家の相談役なんてなりたい者は山ほどいるでしょうに。
それをカトランダ帝国から来た者にさせるって・・・第3皇子一家は相当エリカさん達を特別視しています。
領地異動の為に武官や文官達が集っていて反発もあるでしょうに・・・それを押し切って貴女達2人を採用したのです。
これを特別待遇と言わずに何を特別待遇と言うのですか?」
「あ、そうか・・・私達は敵国出身でしたね。」
エリカがそう呟く。
「アルマ殿下もレイラ殿下も現状ではエリカさんを妃候補としてではなくて相談役としての力量を望んでいるのでしょう。
ウィリアム殿下についてはあくまで補足扱いで。
妃の話はレイラ殿下達が言うようにすぐに答えを出す必要はないでしょう。
なので、まずは政策提案とかで成果を出さないとエリカさん達の居場所が作れませんね。」
「そうですね・・・わかりました。
街造りで頑張りたいと思います!」
「はい。まずは生活の基盤作りですよ。
ウィリアム殿下達はどういった街を造ろうとしているのですか?」
「えーっと、街の全容はタケオさんも見ましたけど。
街の専売局を中心とした工業地区はウィリアム殿下が考えていて、アルマ殿下とレイラ殿下は港を中心とした商業地区を考えていて行政地区と農業地区については文官達の意見を元に配置を作っています。
あとは各々で地区の構想を練って文官達との会議を重ねていると聞いています。」
「なるほど・・・では、まずはエリカさんは港や商業地区で何かを発案した方が良いでしょうね。
エリカさんをウィリアム殿下から守ってくれているのは両殿下ですから。」
「え・・・はぁ。」
「商業地区・・・ふむ・・・特産品は何か作る気になっていましたか?」
「いえ、そこは何とも言われてないです。
まずは川を利用した流通をするために中継地点としての機能が必要かなぁとアルマ殿下は言っていました。」
「なるほど・・・集荷場としての役割ですか。
卸売市場と言う形態が一番でしょうが、安定的に発展させるには必要な事があります。」
「は・・・はい!」
武雄は唐突に港を利用した集荷場の概要を説明を始め、エリカは慌ててメモを取り始めるのだった。
「1.確実な販路の提供。
2.安定的な食糧や物の提供。
3.取引の場の提供
この3つが必要条件になります。
これは生産者と青果店や魚屋等の各小売り店とをつなぐ場という中継地点の役割からどれもが安定的に提供する事が発展の重要な所だと思います。」
「つまりは何でしょうか?」
「つまりは安定的に各領地から品物が届けられる環境を作り、安定的に各領地へ品物が発送できる環境を作り、売りに来た者と買いに来た者が一方に不利にならないような価格で取引が出来る環境を作る事が重要なのです。」
「タケオ様、とっても難しい事のように思いますが?」
「ええ、この仕組みは難しいでしょう。
現状では売りたいなら売り込みたい店に行って説明をするという所でしょうが。
この卸売市場の考えは皆を一堂に集め、売りたい物を買いたい者達が皆で価格を決めてしまおうという行為なのですが・・・今日、似たような事をしたのを覚えていますか?」
「・・・あ、料理のレシピですね?」
「ええ。あの状態で言うなら私が生産者、つまりは売りたい側で各一家は買いたい側です。
そしてあの状態で一番高い値段を付けた所のみにしか渡さないという事をしたなら・・・ほらこの市場の仕組みに似ているでしょう?」
「と、いう事は全商品に対してあのやり方をすると?」
「ええ。価格は買い手が決める。
食材や物の種類、鮮度、希少価値、生産地、いろいろな条件を元に買い手が価格を考えるでしょうね。」
「安く買われてしまう事もあるのではないでしょうか?
もしくは売れないといった事も。」
「あるでしょうね。
ですが、安く買われてしまったり、売れなかった原因は何なのか。
元々売れない商品だったのか、鮮度に問題があったのか・・・生産者は高く売れる方法を考えて地元で物作りをするでしょう。
そして買いたい側もそれを街の人達が買うのかという観点から物の値段を決めていきます。
双方にとって目利きが必要ですね。
これが上手く行くなら物を作る側の品質、買う側の目利きが進歩して地域経済全体が上がるでしょう。」
「タケオさんはそれを私が殿下達に提案しろと?」
「さて・・・私は私が知っている形態をエリカさんに言ったまでです。
その形態が時期尚早なのか、はたまた既にしている事なのか。調べ、考え、そして殿下達に最終的に提案をするかを決めるのはエリカさんです。
私はどんな市場でも構いませんよ。
どちらにしても売ってみせますから。」
武雄が臆面もなく言ってのけるのだった。
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