第542話 鈴音の部下1
武雄達は王城の地下に来て重厚な扉の前に来ていた。
「鈴音、本当に良いのですね?」
「はい!精霊というのにも会ってみたいです!」
武雄は鈴音に「その現象は精霊が呼んでいるそうですよ?会ってみますか?」と言い、他の面々とも話したが「会ってみよう」となったので王家専属魔法師に連れられて宝物庫に来ていた。
「タケオ様も覚悟は良いのですか?」
アリスが聞いてくる。
「私の覚悟ですか?」
「精霊魔法師を部下に持つとはさっきの説明では相当の覚悟が必要ですよ?」
「私からすれば鈴音は部下ですし、部下がやりたいならやらせたいでしょう?
それに相当の覚悟は研究所の所長で十分にありますよ。」
「そうですか、タケオ様がそう言うなら構いません。」
アリスが鞘から剣を抜く。
「・・・アリス様、剣が赤いですよ?」
ジーナがアリスを見ながら言う。
「え?・・・本当だ。魔眼使っていないんですけどね?
・・・火が出たらどうしましょうかね?」
「中の物に何かあった場合に私では補償が出来ないので炎は厳禁です。
アリスお嬢様、剣はしまってください。」
「はい。」
アリスは大人しく剣を鞘に納める。
「では、宝物庫に行きましょうか。」
王家専属魔法師が宝物庫の扉を開くのだった。
・・
・
中は本や木箱が整理されて置かれている一見物置にしか見えない。
「ん~・・・
何もおかしくはないですね。
前に入ってきた時と同じです。」
マイヤーが周囲を見ながら呟く。
「禁忌本は奥にあります。」
と王家専属魔法師が先導して先に進む。
鈴音は顔色が若干悪いが列の真ん中に位置して着いてくる。
・・
・
一行が奥に着くと1冊の本が本棚に収められながら淡い光を放っていた。
「これですね。」
王家専属魔法師が呟く。
「さて・・じゃ私が取りますか。」
と武雄が本棚から本を取り出す。
皆は何が起きても良いように身構えるが特段、何も起きない。
「タケオ様?何ともないのですか?」
「ええ、なんとも・・・」
武雄はそう言いながら本の埃を手の甲で払ったり、カバーを裏表見たりするが淡い光を放っているだけで何も変化がない。
「・・・武雄さん、本の表の上側を撫でてみてください。」
鈴音が難しい顔をさせながら武雄に言ってくる。
「はいはい。」
武雄は言われた通りに優しく撫でる。
「何も起きないですね?」
武雄は撫でながら鈴音に顔を向ける。
「いや・・・声が・・・撫でろと言っていたので。」
「今はなんと?」
「もうちょっと続けろと言っています。」
「・・・」
武雄は今度はゴシゴシと強めに撫でる。
「慌てています。『優しく!優しくでお願いします!』だそうです。」
鈴音の実況に武雄は苦笑しながら優しく撫で始める。
「・・・スズネさん、どうします?」
「・・・害は無さそうです、平気です!」
アリスの問いかけに鈴音は少し考えてから自身を納得させる。
「・・・どうすれば?」
武雄が王家専属魔法師に顔を向ける。
「適応者が本を持てば自然と始まります。」
武雄は頷き本を鈴音に向け差し出す。
鈴音が両手で受けとると眩い光が部屋を覆う。
光が晴れると皆の面前にドレス姿の凜凜しい顔付きの女性が礼をしていた。
前髪の一部が跳ねているのは愛嬌だろうか。
「適応者よ、私はティシュトリヤ。星と慈雨の神です。
私と契約し、この世界の遍く民に豊作を授けましょう。」
「私は鈴音と言います。貴女とのけいや」
「はい、ストップ。」
武雄が後ろから口を両手で塞ぐ。
「貴方は・・・私の前髪をこんなにした男ですね?
私と適応者との契約を邪魔する気ですか?」
「いえ、邪魔をする気はありません。
最終的にはこの娘と貴女で合意する事ではあります。
それと髪の事については謝ります。
それはそれで可愛いですよ?」
武雄は全然謝る気もなく言ってのける。
「なら」
「ですが、私はこの娘の上司であり、この契約の立会人です。
この子には、ちゃんとした契約を結んで欲しいのですよ。
契約が契約たるのは相互の合意が合ってこそでしょう。
こちらは現状では貴女の名前しか知りません。
そんな状態で契約が出来るはずがありません。
まずは貴女と契約するとどんな特典があるのですか?
そしてその代償はなんでしょうか?」
「・・・まず私との契約に代償はありません。」
「神を使役するのに代償がないのですか?」
「使役・・・まぁ近いでしょう。
この世界の精霊魔法師とは我々神が力を貸すことで成り立っています。
使役とは下僕になり主の意のままに力を振るうことだと感じています。
我々としてはあくまで力を貸すのが仕事なので使役という言葉は近いですが、不適切な言葉でしょう。
先に適応者を見つけた吽形やヴァーユ、トールやムンムはこの世界に関して言えば代償がありません。
ただし、バロールやロキ、ダハーカについては何かしらの代償はあるでしょう。」
ティシュトリヤの説明を皆は頭を捻りながら聞いている。
ただし、王家専属魔法師だけは体を震えさせながら聞いているのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
 




