第541話 鈴音の怪現象をどうするか。
王城内の広間にて王家と貴族会議議員、文官幹部による会議を開催中。
午後の会議内容は来年度の予算の確定らしい。
「んー・・・オルコット、来年はやはり人事的に費用がかさむのか。」
「はい。ウィリアム殿下の異動とクリフ殿下の異動、そして王立研究所が2か所ですので致し方ないかと。
文官代表としては来年度は他国との戦をする余裕はないと考えます。
と言っても向こうから仕掛けられたら対応せざるを得ませんが・・・あまり大規模には支援は出来ないかと。」
オルコットが難しい顔をさせる。
「そうだな。
クラークはどう思う。」
「そうですね・・・
貴族会議としてもこの予算では他国への戦費用の捻出が難しいのはわかります。
大々的には王都の兵を動かせないでしょうね。
2、3年はこの感じだとは思いますので、少し落ち着くまで地方貴族に防衛強化を依頼することぐらいしかできないでしょう。」
「そうだな。
費用が捻出出来なければ何も出来ないな。」
その場の幹部達がため息をつく。
「会議中失礼します。」
と、広間の扉がノックされマイヤーが入って来て、アズパール王に敬礼をする。
「うむ。その扉から入って来るという事は・・・緊急か?」
「はい、キタミザト殿からです。」
「・・・嘘だろう!?」
その場の面々が固まる。また何かあったのかと体を強張らせる。
「あ・・・その・・・そこまでの緊急性はないのですが・・・」
マイヤーが苦笑する。
「陛下、お耳を拝借します。」
とマイヤーがアズパール王に近づき耳打ちするとアズパール王が腕を組んで悩む。
「ふむ・・・爺を・・・王家専属魔術師を呼ぶか。」
とアズパール王は伝令を走らせる。
・・
・
広間の扉がノックされアズパール王が入室の許可を出すと一人の老人が入ってくる。
「失礼します。陛下、お呼びと伺いましたが?」
「爺、急がせてすまんな。マイヤーと一緒にタケオの所に行ってきてくれ。
判断は爺に任せる。
詳細は現地で聞いてくれ。」
「畏まりました。」
マイヤーと王家専属魔術師が武雄の元に向かうのだった。
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「鈴音、正体不明の声はさっきから同じことを言っているのですか?」
「はい、武雄さん。
暇だという事とここから出してと言っています。」
「相当暇なんですね。」
ジーナがため息をつく。
武雄達は廊下で車座になって座っていた。
通りすがりの者達は訝しがっていたが武雄達は部屋を取り忘れたのでここで律儀に待機している。
「お待たせしました。
キタミザト殿、こちらが王家専属魔術師殿になります。」
マイヤーと王家専属魔術師がやって来る。
「キタミザトです。
すみません、ご足労かけます。」
「いえいえ。こちらこそよろしく。
で、早速ですが、声が聞こえる者がいると第一近衛分隊長殿に聞きましたが?」
「はい。
私の部下が会議が終わってから声が聞こえると。
こっちにこいと言っているようなんです。
王家専属魔術師殿、これは怪現象なのでしょうか?」
「んー・・・テイラーの時と同じか・・・」
武雄の言葉に王家専属魔術師が悩む。
「「テイラー?」」
武雄とアリスが同時に反応する。
「ん?どうしましたかな?」
「いえ、私はエルヴィス家の者なのですが、街の魔法具商店の店長がその名前ですので。」
アリスが答える。
「エルヴィス家の街の魔法具商店!?・・・
キタミザト殿、エルヴィス殿・・・ちょっとこちらによろしいですかな?」
王家専属魔術師が武雄とアリスを皆から少し離れた所に連れていく。
「テイラーは私の元弟子なのですが、元気にやっているでしょうか?」
あっさりとテイラーが弟子であったのを暴露する。
「・・・ええ、私の武器を調整してくれています。」
武雄がそう答えながら「あぁ、威光を弟子の前で使った人か」と思う。
アリスも同じ感想なのか微妙な顔をさせる。
「そうですか、向こうに店を出したのは知っていたのですが・・・アヤツは全然近況を寄こさないのでどうなっているか・・・
商売っ気もなさそうでしたし、引きこもりでしたから上手く行っているのかと少し心配でしてな。」
王家専属魔術師が苦笑しながら言ってくる。
「で、王家専属魔術師殿、そのテイラー店長と同じとはどういうことでしょうか?」
武雄は薄々はわかってきたが知らない素振りをする。
「その・・・キタミザト殿、どこまで知っておいでですか?」
王家専属魔術師が恐る恐る聞いてくる。
「どこまで?・・・さて・・・ニオが居るくらいですか?」
「・・・十分過ぎですな・・・
そう言えばキタミザト殿は妖精をお連れでしたな。」
「私ですか?」
とミアが武雄の懐から顔を出す。
「おぉぉぉ、これが妖精ですか・・・ふむ、はぁ私も長年生きていましたが、初めて見ますな。
よろしく、妖精殿。
まぁ私個人としては良いのですが、妖精殿はあまり王都では自由に行動はされない方が良いでしょう。
妖精は珍しいですからな、何かある可能性もあります。
と、話が逸れましたが、ニオは精霊でしてな。
テイラーが王都の宝物庫の禁忌本を読めたことが契約の切っ掛けになりました。
そのきっかけが声なのです。」
「ふむ・・・では、今回も?」
「たぶん禁忌本でしょう。
・・・今回は私に権限がありますが・・・キタミザト殿、どうしますか?」
「禁忌本に触れても良いのですか?」
「普通はダメなのですけど・・・
キタミザト殿は陛下のお気に入りではありますし、それに精霊に呼ばれている者は特別待遇をするようにしています。
そうそう出会えませんので・・・それにテイラーやニオの事もわかっているなら無下にはしないでしょう。」
「ですが、あくまで私の部下ですよ?」
「ええ、わかっています。
ですが、精霊に呼ばれる事が珍しいのですよ。
なら機会を作るのが国家の為になります。」
「どんな精霊でも私は部下を王都には入れさせる気はありませんよ?」
「んー・・・決戦や防御に使えるならこちらで預からせて欲しいですが・・・基本はキタミザト殿に管理して頂ければよろしいかと。
それに精霊魔法師は王都や地方都市など自由に動いて良い事になっています。
王都で精霊と契約した者は王都か地方の貴族に所属し有事の際は地方貴族を助ける事というのが規則になりますので・・・テイラーの場合は事情がありましてな、除外です。」
「何故地方なのですか?」
「・・・何と言うか・・・我が国に居る精霊魔法師は兵士同士の戦では実戦向きではなくてですね・・・
王家専属魔術師隊では今2名が在籍していますが、集団での戦闘には不向きなのです。」
「集団戦闘向きでない?」
「はい、攻撃力や防御力という括りではなくてですね。
風系の魔法とか霧の魔法とか・・・威力も高めでして・・・戦場で使うと味方も含めて被害が出そうな物ばかりでして。
なので地方貴族にお願いして配下にして貰っています。」
「んー・・・それで良いのですか?」
「はい、王都としてはそれで構いません。
ただし王都に弓を引けば地方貴族ごと潰す事になるでしょうが・・・」
「任される貴族もちゃんと面倒をみないと大変な事になるということですか。」
「はい。ですのでキタミザト殿と部下の方が合意すれば禁忌本まで案内いたします。」
王家専属魔術師が武雄に提案するのだった。
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