第539話 第二研究所の初顔合わせ。(玩具と今後の日程。)
「戦術はそんな感じですかね。」
「キタミザト殿。
試験小隊での戦術の書き留め方は模索するとして何か戦術を生み出す訓練のような物はありますか?」
アンダーセンが聞いてくる。
「それは・・・チェスや将棋でしょうが・・・どう説明すれば・・・チェスと将棋ついてはまたの機会でお願いします。
ちなみにアズパール王国にそういった玩具はあるのですか?」
「ゲームは多々ありますが戦術の参考になるような玩具は・・・特にはないかと。」
「ないのですね。
・・・鈴音、何か他にも使えそうな物があると思いますか?」
「私ですか?・・・チェスも将棋も私にはわからないです。
あ、リバーシとかはどうですか?あれも使えるのではないですか?」
「なるほどね、確かに良いかもしれませんね。
それにリバーシなら簡単に作れそうです。」
「リバーシとはなんですか?」
「8×8マスの盤上で白と黒の陣取りゲームでしょうか。
爵位授与式の1月半ばにまた王都に来ますからそれまでに作って持ってきます。」
「すぐに作れるのでしょうか?」
「たぶん雑貨屋で材料を揃えられれば2、3日で出来るでしょうね。」
「やり方は難しいのですか?」
「とっても簡単ですよ。
何と説明しましょうかね。見て貰うのが一番早いのですが、交互に白と黒を置いていき、例えば白、黒、白と挟めたら真ん中の黒を白にしていきます。
最終的にはどちらの色が多いかを競うのです。」
「?・・・白黒黒白で挟んだらどうなるのだ?」
アズパール王が首を傾げながら聞いてくる。
「白白白白になりますね。」
「なるほどな・・・タケオ、それはどのくらい作れそうか?」
「ん~・・・エルヴィス領で作って貰える所を探してみますが、今の所は私が作るから・・・2、3個が限度ですかね。」
「ふむ・・・我の手元には随分後になりそうだな。」
「大量に作るのだったら割りと早く動いてくれそうではありますが・・・その辺も確認します。」
「すまんが頼む。」
「いえ、少しお小遣いを頂きましたからそちらを使って試作してみます。」
「うむ、そうか。」
「陛下、そろそろ。」
オルコットがアズパール王に言う。
「もうそんな時間か。では、皆またな。」
アズパール王が席を立つと皆が立ち上がり最敬礼をして見送る。
アズパール王とオルコットとバビントンとアルダーソンが退出していく。
・・・
・・
・
「直れ。」
マイヤーが言うと皆が姿勢を直し、席に着く。
「皆さんすみませんでした。断れなくて。」
武雄が苦笑しながら言う。
「いえ、そこは断らなくて良いのではないでしょうか。
王立研究所は王都守備隊と同じ、陛下直属の研究機関ですから。
陛下が見学したいなら断れないでしょう。」
「初回から参加しなくても良いと思うんですけどね。
私も含めて皆が緊張しているのに・・・いや、それがわかっているから来たのでしょうかね?」
「陛下ならあり得ますが・・・まぁ8割方『唐突に行けば楽しそう』だからでしょう。」
マイヤーが疲れ切った顔をさせる。
「近衛の分隊長にそう言われるとは・・・絶大な信頼ですね。」
「ええ、陛下は良い君主です。
政務に対しても真面目に取り組みますし、部下の意見も無下にはしません。
ただ、たまに我々の斜め上の発想や行動をするだけですから。」
「まぁ、お忍び感覚で魔王国に面しているエルヴィス領まで遊びに来ちゃう方ですしね。」
武雄の呟きにその場の王都守備隊の面々が苦笑する。
「いやキタミザト殿、あの襲撃の一報を聞いた時は肝を冷やしました。
第二魔法分隊は念のために魔王国との国境付近に居たのですが、なんの前兆もなかったですから。」
「そうですか・・・では相当特殊な方法で集められたのでしょうね・・・
でももう一度同じ状況で同じ結果を求められても出来ないでしょう。
あの人員であの状況だからこその結果ですから。」
武雄は転移魔法の事は言わずにぼかす。
「そうでしょうね・・・
まぁ少なくとも今後は我々もその状況を作り出す側になるのですね?」
「ええ・・・私はこの研究所で考案された戦術が使用されない事を望みます。
ですが、いつの時代も先を見据えた研究は必要な物です。
それが私達です。よりよい未来を掴むためにね。
それに武器の試験ですけど・・・アンダーセンさん、盾の試験方法は出来ましたか?」
「・・・ええ、とりあえずなのですけど・・・」
アンダーセンが武雄に紙3枚程度のノートを見せる。
「んー・・・・」
武雄はパラパラ捲りながら流し読みをするが、眉間に皺が寄ってくる。
「これはアンダーセンさん1人で考えましたか?」
「はい。」
「じゃあ、ベテラン組4人も加えてもう一度考えてください。」
「どこがマズかったでしょうか。」
「マズいというか・・・私的には足らないという感じですね。」
「足りませんか・・・」
「はい。
盾の評価試験方法の所ですけど、随分と兵士の感覚に頼っています。
この部分にもう少し数値で評価出来るような方法も取り入れてください。
もちろん兵士の感覚というのは大事ではあるのですが、評価という物なので他の方・・・特に文官達を納得させるなら何かしらの数値が必要でしょう。」
「数値ですか・・・」
「例えば、兵士で剣での打ち合いをして評価をする前に貫通するまで剣を垂直に落とす試験をし、その高さを記録するとか・・・何かしらの盾の強度試験方法は考えないといけないでしょう。
他にも何個の盾を試験に使うかですかね。
試作品は何個用意して何個数値の為の試験に使い、何個兵士同士の打ち合い試験をするのかとか。
もっと具体的に考えてみましょうか。
次は私が王都に来る1月半ばまでにまとめておいてください。」
「はい、わかりました。」
アンダーセンが頷く。
「トレーシーさんに頼んだのはどうなっていますか?」
「本屋や古書を扱っている店に行きいろいろとリストアップはしていますが・・・
すみません、もう少しまとめに時間がかかりそうです。」
「そうですか。
お金が無尽蔵にあれば『全部買っちゃいなよ!』と豪快に後押ししてあげられるのですけどね・・・
私には無理です。
費用的にはどのくらい必要ですか?」
「そうですね・・・金貨13枚は必要かと思います。」
「わかりました。では金貨18枚の資金を与えますので第1弾として揃えてください。」
「わ・・・わかりました。」
「他にありますか?」
「・・・」
「では、なければこれまでです。
今後の予定については私達は一旦エルヴィス邸に帰ります。
先ほども少し言いましたが、次に王都に来るのは授与式の1月半ばです。
研究所の建設や皆さんの部屋の確保がありますので・・・実質稼働はトレーシーさんの学院長の任期がいつまででしたか?」
「3月末です。」
「では、研究所の開業予定は4月半ばにします。
そうすればケードさんとコーエンさんと一緒に来れるでしょう。」
「「はい!」」
「試験小隊の面々はいつでも構いません。
とりあえず、エルヴィス伯爵には皆さんの部屋候補を選定して貰っています。
それが届いてから異動する日付を考えて良いです。
どちらにしても4月までにはエルヴィス領に来て貰いますのでそれまでのんびりとしていてください。
まぁマイヤーさんとアンダーセンさんにその辺はお任せします。」
「「はい。」」
マイヤーとアンダーセンが頷く。
「とりあえず、そんなところですね。
では、今日はご苦労様でした。
次に会うのは・・・私が正式に爵位を貰って研究所の所長の辞令が出てからでしょうね。」
武雄が苦笑しながら立ち上がる。
「では皆さん、また会いましょう。」
「「「はっ!」」」
その場の全員が立ち上がり礼をする。
研究所の第1回の顔合わせが終わるのだった。
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