第536話 第二研究所の初顔合わせ。(研究所の職務。)
「えーっと・・・研究所の実態というかやることは大きく分けて3つですね。
あ、皆さん、座って結構ですよ。」
武雄が言うと皆が席に着く。
「1.武具の開発、改良。
2.戦術の考察。
3.工業製品の開発。
以上です。」
「所長、その3つ目は何でしょうか?」
「現状では直接的に軍に関係がないがもしかしたら将来的に軍関係で使えるかも知れない技術の確立ですね。」
「例えば何でしょうか?」
「今考えているのは小型もしくは中型の輸送船ですね。」
「船ですか・・・確かエルヴィス領は海はなかったと思いますが?」
「これはエルヴィス伯爵領だけでなく、ゴドウィン伯爵領、テンプル伯爵領の魔王国に面している3伯爵領とウィリアム殿下領の物流網の整備事業なのですが、この4領地を貫く川があり、上流から下流まで同型の船の行き来をして現状の幌馬車よりも1日、2日早く物を届けようという考えですね。」
「・・・船での物流ですか・・・上手く行くのでしょうか?」
「さて・・・上手く行かせるしかないですけどね。
ただ、問題は船を用意するだけではないのです。」
「そうなのですか?」
「ええ、4領地を行き来するので保障や警備の問題が発生するのです。
そこも詰めていかないといけないでしょうね。
まぁそれは各領主や文官達を中心に考える必要があるでしょう。
と、ちょっと脱線しましたが、うちの研究所としてはこの輸送船の機関部の試作をしたいと思っています。」
「機関部ですか?」
「ええ、帆船ではなくて速度を一定に出させるための機関を造りたいのですよ。
それにこれは有事の際に各地の兵士を短期間で迅速に輸送し集結出来る利点があります。」
「なるほど・・・その機関の目途は出来ているのですか?」
「いえ全く。構想段階ですからまだまだでしょうね。
それを考えるのが研究所の仕事です。」
「では、試験小隊は基本的には開発、改良された武具の試験と戦術の考察、有事は強行偵察で良いのでしょうか?」
「はい、その認識で構いません。
それに新人の魔法師が2名と兵士というか・・・人間社会が初めての子供が2名いますのでそちらの教育もお願いします。
アンダーセンさん、その辺はどうなりますか?」
「はい。
基本的には皆で教育はしないといけないですが、アーキンを指導教官、補佐にブルックで行おうかと考えています。」
「はい、わかりました。
アーキンさん、ブルックさん、すみませんが、子育てをお願いします。」
武雄が頭を下げる。
「結婚する前に子育てですか。」
ブルックが苦笑する。
「私がするよりも真っ当な人材に育てられそうでしょう?」
「まぁ、そこは否定はしませんが。」
アーキンがそう呟くと皆が苦笑する。
「・・・そこは大丈夫ですとか違いますよとかの言葉を期待しましたよ?
まぁ教育方法は試験小隊に任せます。」
「はい、わかりました。」
武雄の言葉にアーキンが答える。
「トレーシーさんには以前より頼んでいる盾の開発、改良を主に、鈴音は駆動部の開発を主にして貰いますが・・・まずは黒板を作って貰えますか?」
「あ・・・わかりました。
確かにこういった会議ではあると便利ですよね。
大きさはどうしますか?」
「移動式にしたいから2m×1mぐらいでお願いします。」
「武・・・所長。」
「鈴音、別に言いやすい方で構いませんよ。」
「はい。
武雄さん、チョークは何で出来てましたか?
すっかり忘れてしまいました。」
「確か、カルシウムだったと思いますから貝殻か卵の殻を粉砕して代用するしかないのではないですか?
ただ固める方法がいまいちわかりませんね・・・学校にあったくらいですからたぶん口に入れても平気な物を使用していると思いますね。」
「わかりました。
とりあえず、白い物というなら小麦粉とか片栗粉とかだと思いますからそれから試作します。」
鈴音が頷く。
「・・・キタミザト殿、今のやり取りは何ですか?」
トレーシーが不思議そうに聞いてくる。
他の面々も武雄と鈴音の会話がわからずポカンとする
「ん?いや、黒板を作って欲しかっただけです。
もちろん私費で作って貰いますよ。」
「いえ、別に費用云々ではなくてですね・・・黒板とはなんですか?」
「「・・・」」
改めて聞かれると武雄も鈴音もすぐに説明できず考え込んでしまう。
「武雄さん、なんて説明をすれば良いのでしょうか?」
「濃い緑色の板に文字や絵を書けて布で拭けば消せる・・・落書き板でしょうか・・・」
「「「わかりません!」」」
「ん~・・・ちなみにですが、こういった会議ではどうやって参加者に議事の内容を見せるのですか?」
「え?事前に冊子を作っておきますが。」
「会議の中で追加の発言や疑問点があった場合はどうするのですか?」
「?発言して皆で話し合うのですけど。」
「話合いの中身はどうするのですか?」
「書記がいるのでその者が書いている物が後日清書されて出席者に配られるかと。」
「・・・そうですか。」
武雄は既存の常識を覆せずに困り果てる。
対してその場の面々も武雄の言いたい事わからずに不思議そうな顔をする。
「んー・・・んー・・・
ではですね、黒板を疑似的に体験してみましょう。
オルコット宰相、すみませんが大き目の紙は用意出来ますか?」
「はい、可能です。
どのくらいがよろしいですか?」
「1m×1m程度を数枚あれば。
あとは筆記具として絵画用の筆と絵具を貸していただけますか?」
「すぐに用意しましょう。」
オルコットが退出して行くのだった。
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