第531話 エルヴィス家での打ち合わせ。
昼食前にエルヴィス爺さんとスミス、そしてフレデリックが机を囲んでため息をついていた。
「はぁ・・・このタケオから届いたのはまた難儀な物じゃの。」
「お爺さま、これは僕が見ても面白い政策なのですけど。
難しいのですか?」
「スミス様、傍から見れば面白いのはわかりますが、財政的に難しいですね。」
3人は研究所と工房とマイヤー達の部屋については「へぇー」としか考えていない。
研究所は整備局と軍務局に頼めばあとは勝手に動くし、工房はカーティス一家に教えて動かせば問題ない。
マイヤー達の部屋は武雄の意向通りに整備局とカーティス一家で対応させれば終了。
・・・問題は保育所だ。
「うむ、財政的な所が一番問題じゃの。
その次に管轄の問題かの・・・どの局の管轄で、予算はどのくらい必要で、誰が責任を持って子供を教育するのか・・・課題は多いの。」
「そうなのですか?
元文官や武官の女性を雇用させるというタケオ様の考えは雇用の方法として十分に実施できそうですが。」
「確かに、女性の雇用の拡大という所は十分に実施可能な考えです。
ですが、他人様の子供を預かるというのは万が一、何かあった場合に補償では済まない問題になります。
その辺をしっかりと出来れば良いのですが・・・これはちょっと時間を要しますね。」
「うむ。実際にタケオの意見も聞きながら、局長達にも知恵を出して貰わないといけない問題じゃの。」
「はい。
この書面だけでは何とも・・・」
「うむ、この件はタケオ達が帰って来てから話そうかの。」
「「はい。」」
「さてと・・・他は何かあるかの?」
「タケオ様は研究所の1階に喫茶店を作る気のようですね。」
フレデリックが研究所の図面と仕様を見ながら言ってくる。
「らしいの。
タケオの仕事場の1階の喫茶店・・・まともじゃないの。」
エルヴィス爺さんが明後日の方を見ながら言う。
「はは、タケオ様を満足させられる料理を出す店になるのですね?」
スミスは苦笑して言ってくる。
「そんな店はわしは知らんぞ?」
「僕だって知りません。フレデリックはどうですか?」
「今この国の最高峰の料理人というと・・・王城かこのエルヴィス邸の料理人を指すのではないですか?」
「ふむ・・・まぁタケオの料理を目の当たりにしてるからの。
・・・タケオはどうするつもりなのかの・・・」
「主、少し考えたのですが・・・これは文官や武官への福利厚生になりませんか?」
「ん?どういうことじゃ?」
「はい。
タケオ様はそこまで知ってはいないでしょうが、研究所が作られるあの一角にはあまり飲食店がありません。」
「まぁ、文官達の仕事場が多い庁舎街だからの。」
「はい。
で、なのですが・・・前に言っていた文官、武官の離職を押さえる為の方策なのですが、この喫茶店での昼食を取る場合は割引にしてみたらいかがでしょうか。」
「うむ・・・給金を上げるのではなく・・・いやある意味で給金が上がったように感じるのじゃな?」
「はい。
喫茶店自体は独立採算ではあるでしょうが、割引分はエルヴィス家から支払いをし、さらに料理人はエルヴィス邸から毎月2名を交代で派遣をすればタケオ様も皆も満足するのではないでしょうか。
また、料理人の中には独立をしたい者もいます。
ですので喫茶店での仕入れから調理、その他の雑務等々を学ぶ場としても良いかと。」
「なるほどの。
1か月を通してのメニューの作成や資金面のやり取り、素材の仕入れ方法を学ぶのは確かに良いの。
だが皆が独立してしまってはわし達の料理が・・・・はぁ・・・店を出したいと言っている者を無理に押し留めておくのも忍びないの。
店を持つ為に辞めたいのなら笑顔で送り出したいのはあるのじゃがな・・・」
エルヴィス爺さんが難しい顔をさせる。
「ふふ。主、タケオ様がいる内は誰も辞めたいとは言いださないのではないでしょうか?」
「そうかのぉ・・・自分の店を持ちたいというのは料理人の夢なのじゃろ?
まぁうちの料理長みたいに生涯エルヴィス家でと言ってくれる者も居てくれるがそれは珍しいからの。」
「確かにジョージのような者は珍しいでしょう。」
「それについても、タケオが帰って来てから詰めるとしよう。」
「はい。
最後に・・・タケオ様が採用された執事なのですが・・・」
「ファロン元伯爵とその娘じゃの。」
「どういたしましょう。」
「さてな・・・タケオ的には良い部下を雇ったとしか書いていないの。
それに本人達もとりあえず25年は働いてくれるとのことだが・・・執事も家令も初めてであろう。
フレデリック達に教育は任せる。」
「はい、畏まりました。
総監部にて教育をします。」
「うむ・・・まぁ見た目が人間だからの。大して混乱はないじゃろう。」
「そうですね。」
「お爺さま、見た目が問題なのですか?」
「うむ。人間は自身と違う事をあげて攻撃をする物だ。
それは外見から始まり、習慣、文化、思想という風に違いを探すのじゃ。
これは何も種族によってではなく、人間同士でもそうじゃ。」
「そういう物なのですか?」
「うむ。
我らエルヴィス領での常識は、もしかしたらカトランダ帝国に面している貴族領とは違うかもしれぬ。
そう言った場合に、王都で会ったら陰口を言われる可能性はあるの。
わしは気にしないが。」
「主、そこは気にして欲しいのですが・・・」
フレデリックが苦笑する。
「それはしょうがなかろう?
この常識、この生活がこの地に合っているのじゃから仕方あるまい。
むしろそれを攻撃の材料にしか出来ない許容が少ない者と話しても意味はないの。」
「はぁ・・・主は種族や人種の話になると違う意味で頑固になります。」
「フレデリック、すまぬの。
わしはこういう人間じゃ。」
エルヴィス爺さんが苦笑する。
「?フレデリック、お爺さまは頑固なのですか?
今の話でも異種族を認めるという寛大な考えを持っていると思うのですが?」
「ええ、頑固なんです。
主は異種族を認めるという事を絶対に曲げません。
なので、異種族反対派と話をしていた場合に相手に不快感を与える可能性があると、前々から進言はしているのですが・・・」
「する気はないの。
だが、スミスはわしの真似をする必要はないのじゃ。
特に来年からは寄宿舎じゃからの。
もちろん考えを改めろという事ではないが、相手によって話を合わせる事が必要じゃの。」
「はぁ・・・」
「そこまでわかっているのに・・・」
スミスは生返事を返し、フレデリックがため息をつく。
「ちなみにスミスは異種族をどう思っておるのじゃ?」
「あまり会った事はありませんが・・・隣人ですかね。
隣の国に住む者ですし、領内にも獣人がちらほらいますし・・・ですが、人間種も獣人も同じ領民です。
分け隔てなく接するのが領主という立場だと思うのです。」
「ふむ、ちゃんとした答えじゃの。
まぁ、この街に居ると獣人には滅多に会えぬからの。本質的な所はわからぬであろうが・・・
寄宿舎から戻った際には領内をくまなく見て回るのが良いじゃろう。
良い所も悪い所もわかるはずじゃ。」
「はい、わかりました。」
スミスは頷くのだった。
「さてと、フレデリック。
カーティスにタケオの提案を依頼するかの。」
「わかりました。
すぐに正式な形で連絡を取ります。」
「うむ。
カーティスの後は整備局長じゃの。」
「はい。」
フレデリックが各々を呼ぶ準備を始めるのだった。
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