第514話 王城での面談5(皇女の進路。)
武雄はエリカとカサンドラを連れて入室してくる。
ヴィクター達と同じようにエリカとカサンドラはアズパール王の対面の席に座り、壁際に第3皇子一家、扉側に武雄とアリスとオルコットとクラークが座っている。
「さてと、来たな。
タケオ、始めよう。」
「はい。
エリカさん、カサンドラさん、こちらが私の出資者のアランさんです。
そして向こうに居るのが息子のウィリアムさんとその正室のアルマさんと側室のレイラさんです。」
「初めまして、キタミザト殿に同行させて頂いてここまで来ました。
エリカ・キロスと申します。」
「カサンドラ・ラバルと言います。」
「うむ。
カトランダ帝国からわざわざ移住してきたとの事だが・・・何があったのか言えるか?」
「その・・・申し訳ありませんが・・・ちょっと訳ありでして・・・」
「ふむ、まだ言えぬか・・・」
「はい、申し訳ありません。」
「いや、構わない。無理に聞く事でもないだろう。
では少し質問を変えよう・・・タケオからお主は貴族だと聞いたのだが本当か?」
「え?・・・はい、確かに元貴族とお伝えしました。」
「そうか・・・ちなみにそれは我々のような王都勤めだったのか?
それとも何か地方の政策をしていたのか?」
「えーっと・・・それはどういった意味でしょうか?」
エリカはアズパール王が聞きたい事がわからなくて返答に困る。
「うむ、実はな。」
「お義父さま、その続きは私がします。」
レイラが立ち上がる。
「エリカさん。
実はウィリアムはこの度、領地を頂き異動をする事が決まったのです。
で、私達は王都勤めしかした事がないので領地運営の経験がありません。
文官も連れて行きますが、施政者として指揮や状況の判断が出来る者を探しています。」
「それを私にと?
領地運営という大事をカトランダ帝国から来たばかりの者にさせる気なのですか?
それに移住はしますが・・・出身国を相手にするのは抵抗があるのですが。」
「まず私達が異動する場所はカトランダ帝国、ウィリプ連合国に面している所ではありません。
魔王国に面している伯爵領の王都側の土地・・・つまりは他国と面してはいない場所になります。
それに参戦義務もあるのですが、あくまで魔王国相手に参戦をする事を想定しています。」
「そうですか。
確かにそれなら・・・出身国と対するわけでないなら抵抗はありませんが・・・
でも他国の者を上に置いてこの国の文官や武官はいう事を聞いてくれるのでしょうか?」
「直接エリカさんに指揮や判断をさせる気はありません。
その責任は私達が取るべきものです。
エリカさん達には私達夫婦の相談役になって欲しいのです。」
「相談役ですか?
ですが、私がした事があるのは少しの期間町の施政を行う事ぐらいです。
申し訳ありませんが、使える知識があるのかの判断が付きません。」
エリカが言ってくる。
「そうですか・・ですが、相談に乗ってくれるだけでも構わないと考えています。
その都度、思ったことを言ってくれて構いません。」
「・・・良い事だけしか言わないとは約束できませんが?」
「そのような約束をする気もありませんし、むしろ悪いことを言ってほしいと思っています。
どうしても領主になってしまえば領主の考えに沿う事を第一に文官や武官は動いてくれるでしょう。
ですが、それでは重大なミスを見逃してしまう恐れがあります。
ですからエリカさんに私達の政策が的外れでないか、もしくは誤った政策になっていないか確認をして欲しいと思っています。
もちろん、エリカさんの全ての意見を拾う事を約束するわけではありません。
あくまで見方の違う意見として私達の政策と見比べてどうすれば領内が発展するのか、どうすれば領民が幸せになってくれるのか、私達で吟味して決めさせて貰います。
ですからエリカさんに責を負わせる気はありません。
それにタケオさんから聞きましたが、エリカさん、アズパール王国に来てやりたい事を模索しているそうですね。
決まりましたか?」
「う・・・それは・・・まだです。」
「であるならそれが決まるまで私達の所に来てとりあえず働いてみませんか?
給金については・・・要相談という事でどうでしょうか?」
「確かに好待遇なのですが・・・どうして私に声をかけたのですか?
元貴族とはいえ私は平民です。
それも他国から来たばかりの女に何故でしょうか?」
「それはいくつか理由があります。
まぁ勿体ぶってもアレですのでハッキリ言ってしまえばタケオさんの存在ですね。」
「え?」
エリカが武雄を見る。
「魔王国に面している2つの内の1つの領内にエルヴィス伯爵家とキタミザト子爵家の2家が混在する状況が今後生まれます。
これは1つの領内の政策を2家が知恵を出し合えるという事に他なりません。
タケオさんは我々の常識にはない奇抜な考えを持っています。そしてエルヴィス伯爵家はそれを実施するだけの懐の深さを持っています。
その背後を私達が領地を拝領して街作りをするのですが・・・エルヴィス家の政策速度に私達アズパール王国の王都出身の貴族や文官程度では到底追いつけないと考えています。
これはこれから街づくりを開始する私達にとっては致命的な事と考えています。
では、速度を上げる以外で対応する方法は何か・・・私達は既存のアズパール王国の常識に囚われない意見を吸収し、迅速に精査する事でエルヴィス家に対応できるのではと考えています。」
アルマがレイラに続いて説明をする。
「それが私だと?」
「はい。私達夫婦はそう考えました。
実際の所、どこまで対応できるかはわかりません。
ですが、少なくとも現状よりは違う考えに触れる機会が増える事は確かだと考えています。
エリカさん、どうです?
一時でも構いません、私達の街づくりに協力して貰えませんか?」
レイラが真剣な眼差しでエリカを見る。
エリカは黙って思案を始める。
武雄はそんなやりとりを見ながら「私に対しての過剰評価だと思うんですけども・・・」と考えているし、アリスは「まぁタケオ様がやりたい事を列記した場合・・・危機感は周辺の領地にはありますかね」とレイラ達の説明に納得する。
「・・・わかりました。
このままではやりたいこと探しで結構な日数を要すると考えていました。
ウィリアムさんご一家の相談役を謹んでお受けいたします。
ですが・・・私達が本当にやりたい事が出来た場合、ご助力を頂けることを条件として良いでしょうか。」
エリカが条件を提示する。
「・・・アズパール王国の法律に違反しない範囲である事と私達一家の立ち位置を脅かさない範囲でという条件でのみその条件を飲ませていただけると思います。」
「はい。お三方の家にはご迷惑はかけない範囲でやりたい事を探したいと思います。」
エリカが了承する。
「うむ、決まったな。
エリカ・キロス、末永くウィリアム達を頼むぞ。」
「え?・・・はい、畏まりました。」
エリカはアズパール王の言い方に少し違和感を覚えるが返事をする。
「うむ。
では、詳細はウィリアム達が詰めるだろう。
我はこれでも忙しいのでな。すまんが、これで退出させて貰う。
オルコット、クラークも一緒に来い。
それとキタミザト卿。お主はその執事と各部下を宿に送り届けてこい。」
アズパール王の言葉に武雄は周囲に視線を送るとウィリアムとオルコットとクラークが武雄と目線を合わせ頷いていた。
と、武雄は立ち上がり、最敬礼を取る。
アリスも間髪入れずに武雄の横で最敬礼を取る。
「了解いたしました陛下。
この度はお時間を頂きありがとうございました。」
武雄の発した言葉にエリカ達やヴィクター達が座ったまま驚愕の表情で固まる。
「ふふ、なぁに気にするな。
これはこれで面白かったぞ。また何かあれば言ってくれ。
タケオ、アリス、ご苦労だった。」
「「はっ!」」
「ではな。」
アズパール王がオルコットとクラークを連れて退出していった。
「さてと。
アリスお嬢様はウィリアム殿下とエリカさん達の間に居てください。
ヴィクター達を宿に送り届けてから戻ってきますので。」
「はい、わかりました。」
「ヴィクター、ジーナ、アニータにミルコ行きますよ?」
「「「「は・・・はい!」」」」
ヴィクター達が起立して武雄と一緒に退出して行くのだった。
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