第506話 王都の西の町の例の宿。(カツカレーの威力。)
今日泊っている王家一同が食堂に会している。
「・・・んー・・・タケオ、意図が分からないんだが。」
クリフが皆の配膳を見ながら目の前の武雄に言ってくる。
「何がでしょうか?」
「スープ、サラダ・・・これはパンか?
それはわかるのだが・・・メイン料理用の皿が野菜が端に乗っているだけで・・・肉も魚もない・・・
わからない・・タケオ、何をするのだ?」
クリフが首を傾げる。
「ふふ、これは面白そうね。」
「そうね。」
ローナとセリーナが楽しそうにしている。
ニールは「美味しい物が出るのだろう?」と陽気に構えている。
リネットとクラリッサは何が行われるのかわからず緊張している。
王家の子供達は武雄が作ると聞いて「早く♪早く♪」とワクワク感を出している。
「えーっと、食事の前なのですが・・・この宿で出している噂のスープの名称が変わりましたのでその報告をします。」
「「ええ。」」
皆が頷く。
「このスープは『アズパールカレー』という名称に変わりました。」
「ほぉ、国名をつけたか・・・まぁ国の名前を付ける事に何か審査があるわけでは無いが・・・余程の自信だな。」
クリフが武雄を見る。
「ええ、私はこの料理は唯一無二と思っています。
あ、ちなみに先ほどここの支配人と料理長と私とで契約を結びましたので。」
「え?タケオさん、何の契約を結んだのですか?」
エイミーが聞いてくる。
「このアズパールカレーのレシピを譲ってもらいました。」
「「えぇ!??」」
妃達が驚く。
「ちょっと・・・タケオさん?
確か噂ではこの宿のスープレシピはどんなに著名な人でも聞き出せなかった極秘レシピよ?
それを聞き出したの?」
リネットが恐る恐る聞いてくる。
「ええ、聞きましたね。
極秘とは言っていませんでしたが・・・料理長が長年の研鑽を積んで復活させた努力の結晶としか伺っていませんね。」
「タケオ、宿側への見返りはなんだ?」
ニールが楽しそうに聞いてくる。
「それがこれから皆様に食べていただく料理です。
まぁ正確にはお互いに知識を出し合った料理なのでしょうか・・・ふふ、まぁ皆様の皿に乗っていないのは作りたてを食べて欲しいからです。
では料理長、作りましょうか。」
「はい、畏まりました。」
料理長がそう言うと扉が開き他の調理人達が油が入った鍋を乗せた移動式の簡易調理台と衣をつけたポクポク肉・・・油で揚げる前段階までしてある物を運び込んでくる。
ちなみに料理長は武雄達一行の分の揚げ物を殿下一家達の前練習として作っており、別室の武雄達一行は今食べていたりする。
・・
・
揚げ物の音と揚げたトンカツを切るサクサクっという音が室内に響き渡っている。
「はぁ・・・この音だけで美味しさが伝わって来そうね。」
「本当ね~、早く出来上がらないかしら。」
ローナとセリーナが楽しそうに言ってくる。
「まずは3枚です。
クリフ殿下、ニール殿下とローナ殿下から行きますか。」
「よし!頼む!」
クリフが頷くと簡易調理台から調理人が切ったトンカツを3人の前の皿に置き、武雄がアレンジしたウスターソースとカレーが入った小分け皿を一緒に置いてくる。
「色が黒めのソースはクリフ殿下の街で発見した物を私が手を入れさせて貰いました。
そして黄色い方はこの宿のカレーに少し手を入れさせて貰いました。
そしてパンは『ナン』という物を作ってみました。
少し柔らかい味にしたと思いますので、楽しんでください。
もちろん残ったソースをつけて食べても良し、肉を挟んで食べても良いです。」
「わかった!では、皆先に食べるぞ!」
ニールがそう答え食べ始める。クリフもローナも「では、温かい内に食べるか」と皆に言いながら食べ始める。
「「「はぁあ!?」」」
大人3人がこれでもかという感じに目を見開く。
「お父さま!?どうしたのですか!?」
アンが父親から聞いたこともない叫び声を聞き驚きながら聞いてくる。
「あ・・・いや平気だ・・・タケオ・・・これは凄いな。」
クリフは茫然と肉を見ながら武雄に言ってくる。
「ちょっと!タケオさん!本当にありがとうございます!
こんなに美味しいなんて・・・想像もしていなかった・・・」
「これは凄いな!」
ニールは一気に平らげていく。
他の面々が「一体全体どんな料理なの!?」と興味半分不安半分で自分の分が運ばれるのを待つのだった。
・・
・
「・・・」
皆が一様に食卓でマッタリとお茶をしながら余韻に耽っている。
料理を終えた料理長と武雄はさっさと退出し、皆に配膳されていた皿等々も下げられて今はお茶しかない。
「何と言うか・・・セリーナ、タケオさんに依頼して正解だったわね。」
「ええ・・・あのサンドイッチのような物が出てくると思っていたのに・・・これは破格よ。」
ローナとセリーナが「完敗だわ」と苦笑し合う。
「なんだ?タケオに依頼したのはお前たちなのか?」
クリフがニコニコしながら聞いてくる。
「はい。あの時のソースで作ったサンドイッチでしたか?
あれを食べたいと言ったのですけど・・・想像以上の物が出てきて驚きました。」
セリーナが答える。
「はぁ幸せだなぁ・・・相変わらずタケオさんの作り出す料理は至高だよねぇ。」
エイミーがうっとりしながら言ってくる。
「はぁ・・・美味しかった・・・」
アンがため息をつく。
リネットとクラリッサは半ば放心状態でボーっとしている。
「えーっと・・・2人ともどうしたの?」
ローナが声をかける。
「いえ・・・今まで食べたことない素晴らしい物を頂けたと思っています・・・」
「はい・・・このような美味しい料理を頂戴出来て幸せです・・・」
2人して感情の起伏がない声が帰って来る。
ローナは内心「ちょっとこの子達大丈夫!?」と思う。
と、扉がノックされクリフが許可すると支配人と料理長が入って来る。
「クリフ殿下、ニール殿下、本日の夕飯はいかがでしたでしょうか。」
「見事!その一言に尽きると思う。
なぁ、ニール。」
「はい。タケオも凄いがやはりソースが良かったな。
カレーのソースは見事の一言だった。
スープの印象ではあのように肉に合うとは思いもしなかった。
国名が付く料理に恥じない物と思いました。」
ニールはウンウン頷く。
「ありがとうございます。
これもキタミザト様のおかげと思っております。」
「ふむ。時に夕飯の最初にタケオが言っていたが、契約をしたと?」
クリフが支配人に聞く。
「はい。アズパールカレーのレシピをお教えする代わりにキタミザト様が作り出すカレーの派生料理を私共にもお教えいただく事とこのトンカツの使用許可を頂いております。」
「なるほどな。
タケオはレシピの交換をお願いしたわけか。」
「はい。またキタミザト様はこのアズパールカレーはキタミザト様、エルヴィス伯爵家およびその息のかかった店以外には出さずにレシピの公開もしない旨のお約束もしています。」
「だが、タケオが言っている派生料理は出回らせる気ではいるのだろう?
良いのか?」
「はい。キタミザト様は私達の料理を無計画には広げないでしょうし、私達はキタミザト様が作り出す料理を教えて貰える・・・その価値の方が高いと判断しました。
それにキタミザト様から私達へかけがえのない言葉を頂いております。」
支配人が嬉しそうに言う。
「ほぉ、またタケオは良い言葉を言っていったか。」
「はい。『料理の名を我々が死してもなお国中に残るという形で貢献させて貰う』と・・・
長年研究した甲斐がありました。
料理人として私が復活させた料理が将来に渡って名前を変えずに残ると言われるとこれほど嬉しい事はありません。」
「相変わらず良い言葉を残すな。」
ニールが苦笑する。
「全くね。その内タケオさんの名言集を作ってみようかしら。」
ローナがニールに同調しながら言ってくるのだった。
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