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第505話 王都の西の町の例の宿。(黒豚発見!)

王都の西の町に一行は時間通りに到着し、武雄達もクリフ達を見送る為に例の高級宿屋に来ていたのだが、

「え?ここに泊っても良いのですか?」

武雄はクリフ達に聞く。

「ええ。タケオさん、前回はここで料理だけ食べたそうね。

 アリスは食べたの?」

ローナが聞いてくる。

「はい。ローナ殿下、王都から向かう途中で頂きました。」

「そう、じゃああのスープを食べたのね。

 でね、私達が前回ここから出立する時にお願いしておいたのよ。

 タケオさん達も泊めて貰えるようにね。

 皆で食べましょう♪」

「ローナ殿下、ありがとうございます。」

武雄が感謝を込めて頭を下げる。

「良いのよ~。

 アン達に辛かったら牛乳を用意するようにニールに言ってくれて助かったわ。」

と、宿の中から支配人達がやって来る。

「第1皇子殿下ご一行様、第2皇子殿下ご一行様、長旅ご苦労様でした。

 今回も当宿をご指名下さりありがとうございます。」

支配人が恭しく礼をする。

「はい。支配人、久しぶりですね。

 で、この者が前回話した者です。」

「支配人様、キタミザトと申します。

 以前は宿泊しなければ食べれない夕飯をご無理を言って特別に食べさせて頂き感謝しております。」

武雄が深々と挨拶をする。

「いえ!殿下方そして当宿の料理長にも話を聞いております。

 王城の料理長にも認められている方とは存じておらず誠に申し訳ございませんでした。

 今回は当宿をご満喫して頂ければ幸いです。」

「支配人様、ありがとうございます。」

武雄と支配人がお互いに感謝の礼をする。

「でね、タケオさん。」

セリーナが武雄に聞いてくる。

「はい、何でしょうか。」

「実はローナと私からの依頼があるのですけど・・・聞いてくれますか?」

「・・・出来る事でしたら。」

「前にあの新種のソースを使ったサンドイッチを頂いたでしょう?」

「はい、アン殿下に人数分をお出ししましたね。」

「あれを作ってくれないかしら、さっきそのソースが樽で私達に追い付いてね。」

「わかりました。

 宿をご手配頂いた感謝を込めてお作りします。」

武雄が頷く。

「支配人、タケオさんに料理を作って貰うのは構わないでしょう?」

「はい。殿下、私共も勉強をさせて頂きます。

 キタミザト様、何卒よろしくお願いいたします。

 おい!料理長を連れて来てくれ!」

支配人が傍にいた従業員を使い料理長を呼びに行かせるのだった。

・・・

・・

高級宿の厨房に武雄とサリタと鈴音が来ていた。

他の者達は宿でまったりとする事になっていた。

ちなみにアリスは皇子妃達のティータイムにお呼ばれ中。

「・・・んー・・・」

鈴音が眉間に皺を寄せながら鍋を見ていた。

「鈴音、どうしましたか?」

「た・・・武雄さん・・・これはまさか・・・カレーですか?」

「ええ。」

武雄が朗らかに言う。

「カレー・・・やった・・・カレーだ・・・もう二度と食べれないと思っていたのに・・・」

鈴音がしゃがみこみ涙を流しながら喜ぶ。

「あの・・・キタミザト様、そちらの女性が泣かれていますが・・・」

「それだけこのカレーは壮絶な威力があるのですよ。」

「はぁ。」

武雄達と一緒に来ていた支配人がぎこちなく頷く。

「さて、今回お教えするのはトンカツと言います。

 料理長殿、オーク肉はありますか?」

「実はですね、今回、皆様をお迎えするに当たりオークと祖先が同じとされるポクポクの肉をご用意いたしました。」

「ポクポク??」

「はい。一般には流通はされていない肉なのですが・・・実物を見て貰いましょうか。

 丁度裏に2頭居ますので。」

料理長と武雄は勝手口から裏に出てポクポクという動物を見に行く。

・・

「な!」

武雄は目の前のポクポクを見て絶句する・・・武雄の目の前に居たのは黒豚だった。

「キタミザト様、見た目もオークと比べると4足歩行をしており小ぶりではありますが、放牧されながら育ったこのポクポクは木の実と甘い芋をいっぱい食べ、適度に運動もされており、肉質と脂がとても美味しいと評されている肉になります。」

「こ・・・これはどこで・・・いや、魔物なのですか?」

「はは、驚かれるのも無理はありません。

 これはニール殿下領とゴドウィン伯爵領の一部の村でしか飼育されていないのです。

 魔物と言われてしまうとそうなのかもしれませんが、個体数が少ないので魔物と言うよりも牛や鶏のような家畜という分類だとは思います。

 ちなみに今回はニール殿下領の方から入手いたしました。」

「肉質が良いのでしょう?どうして流行らないのですか?」

「端的に言えば流通価格ですね。

 オークに比べてポクポクは5倍の値段が付いています。」

「5倍・・・」

「オークは2日くらい森の中を行けば出会える食材ですが、ポクポクは個体の体躯も小さくエサ代もかかるのでどうしても市場価格が高くなります。」

「そ・・・そうなのですか・・・」

武雄は「これはゴドウィン伯爵と交渉するか」と思いを馳せるのだった。

・・

「これは!!何という美味しさなのですか!」

料理長が武雄の試作したポクポクのトンカツを食べて叫び声をあげる。

宿の支配人も目を見張って驚きを隠せない。

「はは。宿の料理としていけますか?」

「はい!これは絶品です!

 この・・・衣でしたか?何というサクサク感ですか!

 そしてクリフ殿下の街でのソース・・・見事です!素晴らしい!」

支配人も絶賛する。

「では、これはどうでしょうか。」

武雄は事前に別の小鍋にカレーを分けて置き、ジャガイモを磨り潰した物を入れ、軽く煮込んでちょっととろみを増した物をトンカツにかける。

「さぁ、どうぞ。」

「「!!!」」

支配人と料理長が口に運び絶句する。

「キタミザト様!当宿でこのトンカツを提供することを許可願えませんでしょうか!?」

支配人が頭を深々と下げて懇願してくる。

「んー・・・では私からの要求としてカレーのレシピをお教えいただけますでしょうか。」

「カレーをですか・・・んー・・・」

支配人が悩む。

「もちろんカレーを提供する際にはこの宿が元祖であることを明記し、この宿のレシピを忠実に再現させていただきます。

 また、派生したカレーのレシピはこちらにお教えする事もお約束します。」

「このカレーに派生をさせるのですか?」

料理長が不思議そうに聞いてくる。

「ええ。ポクポク肉をミンチ状にした物をカレーと煮込みキーマカレーという物を私は今考えましたよ。

 これによってサンドイッチにもこの味が出せるでしょう。」

「なるほど。煮込んで水分を飛ばし、肉に味を染み込ませるのですね。」

「さらには海辺では産地の魚介類と煮込むともっとあっさりとしたカレーが出来ると踏んでいます。」

「な・・・なるほど。」

「もっと言えばナスのような水を多く含んでいる野菜にもこのカレーが染み込むのではないかと思っています。」

「ちょ・・・ちょっと待ってください!

 一体いくつ考案するのですか!」

料理長が驚きながら言ってくる。

「何を言っているのです。

 こんな素晴らしいカレーが手に入るなら領民食と言われるぐらいに広めるのは当たり前でしょう。

 それに私はエルヴィス領の者です。私は王都では何も出来ません。

 ですが、領民に美味しい物を提供したい。それは単一ではなくいろんな食材を使い、皆を笑顔にしたい。

 そう願うのは当たり前ですし、このカレーにはそれだけの魅力が詰まっています。」

「わかりました・・・キタミザト様にカレーのレシピをお譲りします。」

「支配人!良いのですか!?」

「ええ。料理長、私は決めました。

 確かにカレーは料理長が試行錯誤をして復活させた料理です。

 それは我々皆が知る所です。

 ですが、キタミザト様に教える事によって、この料理の価値が一気に高まるでしょう。

 さらにはカレーを使ったレシピを我々だけでなくキタミザト様・・・一流の料理人が考案し、私達に届けてくれる。

 これは価値としてはとんでもない効果があるでしょう。」

「・・・わかりました。支配人が決断されるのでしたら私共もこのカレーやトンカツを使っての料理方法を研鑽します。」

「すまない。でもこれはカレーを国中に広める良いチャンスであり、この宿に泊まりに来てくれる方が増えるという事でもあると思う。

 キタミザト様。」

「はい。では私とこの宿との取り決めは次の通りにします。

 ・このカレーを提供する場合はアズパールカレーという商品名でお出しします。

 ・このカレーは私やエルヴィス伯爵家もしくはその直営店のみで提供し、レシピを公表はいたしません。

 ・このカレーから派生するレシピは相互に教え合うとします。

 以上でどうでしょうか。」

「・・・宿名でなく国名にしたのはなぜなのでしょうか?」

「単純にエルヴィス領内でこの宿名が通用しないかもしくは同じ名前の宿がある可能性がある事。

 また、国名を冠する料理であれば印象が違います。

 それに残念ながら料理というのは完全に秘匿はできません。

 いつか・・・そういつか同じような味のカレーが、そしていろんな味のカレーが一般にも出回る時がきます。

 何年、何十年経ってもこの宿で作られたカレーは同じ名前で国中に伝わって欲しいのです。

 このアズパールカレーこそがこの国のカレーの元であると。今日以降に出てきたカレーは全てこのカレーの派生なのだと。

 私は料理長にそしてこの宿の従業員に敬意を表したい。

 それは完全にレシピを表に出さないという不可能な事ではなく、料理の名を我々が死してもなお国中に残るという形で貢献させて貰います。

 いかがでしょう。」

「キタミザト様!よろしくお願いいたします!」

支配人は涙ながらに礼を言ってくる。

料理長以下、その場の従業員が涙を流しながら頭を下げてくる。

「はは、まだ何もしていませんよ。

 それにいろいろとこのカレー風味の料理を私が流行らしてしまうかもしれませんしね。」

武雄は苦笑を向ける。

「いえ、キタミザト様が派生させるのであれば我々は何も言いません。」

「ふふ。ダメですよ。

 この味はもっと変えた方が良いとか言っていただいて良い商品を作る努力はするべきです。

 もちろん作ったらお送りしますし、送ってくださいね。

 お互いに良い商品を作っていきましょう。」

「はい!」

その場の皆が返事をするのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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[気になる点] >「支配人様、キタミザトと申します。 誤用だと分かっていながら、皆が使うからと正当化するサラリーマンの典型例 正しい呼び方は3通り。 ・支配人 ・〇〇支配人 ・支配人の〇〇様
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