第500話 どちらも報告会
王家の一家が居る宿のクラリッサと面談をした部屋の扉の前で武雄は深呼吸をしていた。
連れているメンバーはアリスとマイヤーとヴィクター親子とアニータとミルコであった。
町に着いて早々に兵士達は解散して各々残務処理をしていた。
また町には王都の第2騎士団から2小隊が派遣されていたが、戦闘が終わったと聞くと「周辺の調査と討伐をしてきます」と町を出て行った。
コラ一家は町の入り口の横辺りでゴロゴロ過ごし、アーキン達は宿に戻りのんびりする事になって武雄達は「さっさと報告して飲酒と昼寝だと」わき目もふらずに王家一家が居る宿に来ていた。
「・・・さて、行きますか。」
武雄はそう呟いてから扉をノックする。
中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
中には王家一家とアシュトン子爵とクラリッサが居た。
「失礼します。
クリフ殿下、ニール殿下、こちらは終わりましたのでご報告に参りました。」
「うむ。タケオ、ご苦労だったな。」
「お疲れさん。
タケオに頼むと早くて助かるな。」
クリフとニールが武雄に労いの言葉をかける。
「さ、皆疲れたでしょう?
入って、入って。」
ローナが皆を席に座るように言ってくる。
「では失礼します。
アニータ、ミルコは私の横に座りなさい。」
「「はい。」」
武雄達は各々席に着くのだった。
・・
・
「さてと、改めて・・・タケオ、魔物の討伐を終えたようだな。」
クリフが武雄に聞いてくる。
「はい。
簡単に説明すると、監視に行ったら魔物達が居る周辺の木の上に人影が見えましたので、討伐の任務から救出の任務に切り替えました。そして救出を最優先に行動させ、結果的に魔物の討伐も終えた次第になります。
またオークを1体ほどコラ達に与えています。
あと持ち帰った魔物達の亡骸は冒険者組合の方で引き取りをして貰いました。」
「ふむ、その判断で私は良いと思う。
ニール、何かあるか?」
「そうですね。
救出した2名についてはこの後でしょうから討伐のみで言うのなら・・・
タケオ、リザードドラゴンの皮は高値になるはずだが、それも冒険者組合に?」
「はい。相場はわかりませんので向こうの言い値で引き取ってもらいました。
私としては別に安く買われても今回はあまり気にしておりませんので問題はないかと。
今回の討伐任務の報酬とリザードドラゴンの皮の買い取り費用は振り込んでおいてくれると言われています。」
「そうか、タケオが良いと言うならそれで良い。
で、その2人だな。」
ニールの言葉にその場の全員の目線がアニータとミルコに注がれる。
「はい。
女の子の方がアニータ・チーゴリ、男の子の方がミルコ・チーゴリと言います。」
武雄の説明に2人して会釈をする。
「2人に聞き取りはしました。
2人の親は不在、周囲にも確認出来ておりません。
所持品も無く・・・貨幣も所持しておりませんでした。
また本人達は『住み家の近くで遊んでいたらいきなり魔物の中に居た』と証言したのですが・・・正直、確証が高い情報という訳ではありません。
私個人としては信用はしてあげられます。ですが大人としての判断をするなら・・・まぁ、子供の証言にどれだけ信用を乗せるのかは人それぞれでしょう。
私としては救出しただけで後はおさらばというのはしたくないので、当面は私が預かろうかと思います。」
「なるほどな。
タケオ、アズパール王国はエルフであろうが獣人であろうが法を順守してくれるならば国民と認めている。
その子らを無理やりに働かせるのでないのなら私は賛成だ。」
「俺も異議はない。
すでにタケオは異種族を執事に迎えている。
そういった意味ではエルフの子供が増えても問題ないだろう。
タケオは2人をどうするつもりだ?」
ニールが武雄に質問してくる。
「まずは1年くらい研究所の試験小隊に組み込みます。
この子らにはまず人間社会での規律や道徳を教える事から始めれば良いかと考え、私達よりも小隊員の方が教えるのに適していると思われます。
戦闘には極力参加はさせる気はありませんし、兵士の適性があるかもわかりませんので勉学の為ですかね。あとは経過を見ながらでしょうか。
雇用契約期間はヴィクター達と同じ25年としておきます。
そうすれば少なからず貯金も出来るでしょうし、25年経てば人間社会の事もわかるでしょう。
そういった準備をして貰ってから25年後に旅にでも出れば人間とのイザコザもなくて良いのではないかと考えています。」
「わかった。
タケオの考える通りで問題ないと思う。
皆、それで良いな?」
クリフは頷きながら他の面々を見ると皆が頷いていた。
「皆さま、ありがとうございます。」
武雄は起立し、深々と頭を下げる。
「うむ。
それではこっち側からの報告としては。
アシュトン。」
「はっ!」
アシュトン子爵が起立する。
「タケオ、そしてアリス。
この度、私はアシュトン家の孫娘を側室に迎える事にした。」
「「クリフ殿下、おめでとうございます。」」
武雄とアリスが立って礼をする。
「うむ、2人とも面談ご苦労だったな。
クラリッサ。」
「はい!」
クラリッサが前へ出てくる。
「タ・・・タケオ・キタミザト子爵、アリス・ヘンリー・エルヴィス殿。
この度は私の為に面倒をおかけいたしました。
今後とも良しなにお願いいたします。」
「第1皇子妃アシュトン殿下、この度はおめでとうございます。
クリフ殿下からの要請とは言え、昨日は大変失礼な事をお聞きして申し訳ございませんでした。」
アリスが恭しく返礼する。
「・・・あの・・・アリス?」
クラリッサはアリスに恐る恐る声をかける。
「はい。アシュトン殿下、何事でございますか?」
アリスは真顔で言ってくる。
「その・・・お互いに名前で呼ばない?昨日みたいに。」
「そのような恐れ多い事は出来ません。」
「いや、そっちの方が私も楽なんですが。」
「昨日はお互いに貴族の孫娘という立場でしたが、ここではもうその立場ではございません。
私のような地方伯爵の孫娘が対等に話せる方ではございませんのでご遠慮させていただいます。」
アリスは真顔を崩さない。
「うぅ・・・ローナ殿下・・・セリーナ殿下・・・どうすれば・・・」
クラリッサが2人に助けを求める。
「あぁ!もう初々しいわね。」
ローナが楽しそうに言ってくる。
「アリス、もういいわよ。」
セリーナがアリスに言葉を言う。
「畏まりました。
クラリッサ殿下、こちらでよろしいでしょうか。」
「・・・殿下付きですか・・・」
クラリッサは若干ショボンとする。
その様子をリネットが見ながら「気持ちはわかるわ」と同情していた。
「タケオさんもクラリッサの事は名前の方で良いかしら?」
ローナが武雄に聞いてくる。
「よろしいのでしょうか?」
「クラリッサ、どうなの?」
セリーナがクラリッサを見る。
「はい!私は構いません!」
「畏まりました。
クラリッサ殿下、これからよろしくお願いいたします。
お見合いが順調にいかれたようで安堵しております。」
武雄が恭しく礼をする。
「はい。キタミザト殿、昨日はありがとうございました。」
「クラリッサ殿下、クラリッサ殿下の呼びやすい呼び方で結構でございますが、他の殿下方からは私の事を名前の方で呼んで頂いております。
私の事は名前でも構いません。」
「そ・・・そうですか。
タケオ・・・さん。」
「何でございましょうか、クラリッサ殿下。」
「昨日は本当にありがとうございました。
タケオさんの言っていた事を胸に過ごして参ります。」
「私のような者の言葉を胸にお留め頂きありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。」
武雄も恭しく頭を下げる。
「うむ、以上だ。
正式には王都で父上に報告したのちに公表される。」
「「はっ!」」
武雄とアリスが立ち上がり返事をする。
「タケオ達はこの後どうするのだ?」
ニールが聞いてくる。
「本日は移動はされないのでしょうか?」
「うむ。明日、王都の西の町に向かう。
出立は3時課の鐘を予定している。」
「畏まりました。
私どももその様に調整いたします。
本日はマイヤーさん達や私とアリスお嬢様も戦闘をしているのでこのまま宿に戻り就寝しようかと考えています。」
「その2名はどうする?」
「はい、宿に1部屋用意しようかと。馬の支度等も必要だと思っております。」
「そうか。馬はこちらで用意しておこう。
今回の面談のタケオに対しての礼だ。」
「ご厚意ありがたく。」
「構わん。
ではタケオ、今日はご苦労だった。」
「はっ!皆さま、失礼いたします。」
武雄達は一斉に立ち上がり礼をするのだった。
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