第496話 現状の説明をしないとね。
武雄はさっきの話し合いの内容をアニータとミルコに説明していた。
正確には武雄の出自に関わる事は言わずにコラットル王国が今は存在しない国家だと伝えた。
「・・・という事は・・・もう僕たちの国は無くなっていると?」
ミルコが驚愕の瞳をヴィクターに向けながら言ってくる。
「少なくとも現状ではコラットル王国という国家は存在しておりません。
丁度今のアズパール王国と魔王国との国境線がほぼ固定されたのが100年程度前になりますので、存在していたのは最低でも200年~500年以前となります。」
ヴィクターが補足する。
「アニータ、ミルコ、再確認ですが、アズパール王国も魔王国も知らないのですね?」
「はい。
敵対していた国は・・・アズパール帝国だったかなぁ・・・
お姉ちゃんはどう?」
「私もアズパール帝国と言われていたと思う・・・確かではないかも」
アニータとミルコの言葉にマイヤー達王都守備隊員の全員が驚きの表情をさせる。
「アズパール帝国って・・・アズパール王国の建国前の名前でしたよね。」
アリスが考えながら言ってくる。
「はぁ・・・これはほぼ確定かもしれませんね。」
武雄がため息をつきながら言う。
「「確定?」」
アニータとミルコが武雄に顔を向ける。
「アニータ、ミルコ。
2人ともちゃんと聞きなさい。」
「「はい!」」
「少なくとも現状ではアナタ達の故郷はこの世界にはないと考えられます。
アナタ達が過去から来たという仮定をしたとして、そこに帰る方法は私達は知りません。
もしかしたら魔王国やその近辺の国でアナタ達の系譜・・・子孫や同種族の方たちには出会えるかもしれませんが、アズパール王国に所属している私達は現状では手助けは出来ません。」
「難しいのですか?」
「ええ。
まず、アズパール王国から魔王国への入国が難しいですね。
国を越えるには越境許可証が必要ですが、許可証を持っている時点で我が国の国民となりますので・・・向こうに行っても戻ってくる必要が出てきます。」
マイヤーが説明する。
「そうなんですね。」
アニータが頷く。
「それに関を通らずに国境を越えて行き、警備兵に呼び止められた場合に身分を提示出来なかったら最悪は逮捕ですから・・・普通に捕まります。
現状では所属している国家がないので誰も擁護はしてくれません。」
武雄が難しい顔をさせながら言う。
「ん~・・・エルフでもですか?」
ミルコが聞いてくる。
「さて・・・同種族だから認めるという安易な考えは少々危険だと思いますね。
私達は人間種ですが、だからと言って人間種の審査が緩いわけではありません。
それにエルフはどちらかと言うと他種族に対して排他的と聞いています。
自分達の国に所属していない外から来た同種族を認めるのか・・・それにアナタ達は見た目がまだまだ若いです。
その身なりで旅をしているのは大人達は不審がると思いますね。」
「んん~・・・確かにキタミザト様の言うとおりです。
でもこの国に居ても同じではないでしょうか?」
アニータが聞いてくる。
「ええ。ですけど、
例えば私の下で働いて国民になる事は出来ますかね。」
「「え!?」」
アニータとミルコが驚く。
「ヴィクターやジーナのように25年の雇用契約をするとして任期満了とともに退官しても良いとするとか・・・やり方は色々あるでしょうね。
まぁねじ込んでみせます。」
武雄が考えながら言う。
「あの・・・キタミザト様の下で働くというのは・・・何をするのですか?」
「余っているのは研究所の試験小隊枠がありますね。」
「研究所の試験小隊?」
「まぁ、武具を試作したり戦術を考えたりする所ですかね。
ただ研究所がある地域が魔王国の隣なのです。
なので、戦争に参加しないといけない可能性はありますね。
今の所、この国の王様は領土拡張をする気はないので防衛戦のみではありますが・・・獣人やオーガが相手だそうです。」
「あの!エルフと戦う可能性はありますか!?」
「あるなしで言えばあり得ますね。
ですが、エルフの国も魔王国内のエルフ領も遠くて対峙は普通ならしません。」
「そうですか・・・」
ミルコは複雑な表情をさせる。
「ちなみに私の試験小隊に入って戦争に参加しても相手兵士への接触は厳禁ですからね。」
「え?」
アニータが声を出す。
「ふむ。
国を守る兵士が率先して戦闘中の相手と話してはダメですね。
それに私達はたぶん戦闘には参加しません。
人数が少ないので偵察が主な任務になるはずです。
そういう意味では相手に近寄るのが仕事ではありますが、相手に見つかってはいけませんね。
もし敵地で相手に見つかってしまうと・・・」
「と?」
ミルコが聞いてくる。
「問答無用で殺される可能性があります。」
「え?」
「私の想像では相手の領地深くへの潜入はしないでしょう。
するとしたら相手の陣地後方か側面からの配置等の偵察が主任務だと思います。
敵方の兵士から見れば敵国の兵士が後方や側面に居て何やら嗅ぎまわっていたとなると捕虜にはしないでしょう。」
「あの・・・どうすると思いますか?」
「相手の兵士の士気を落とす為に兵士達の前で公開処刑でしょうかね。」
「「ひぃ!」」
アニータとミルコが震え上がる。
「と思いますから勝手に接触してはいけませんという話です。
まぁそこまで本格的な戦争はそうそう起きませんよ。」
「本当ですか?」
「ええ。数年に1度程度でしょう。
それに接触を禁止するのには別の理由があります。」
「それは何ですか?」
「仲間を守る為です。」
「守る為?」
「そうです。
偵察任務は普通に考えて1人では行わずに3人くらいで行うと思います。
1人の軽率な行動によって残りの2人も命を落とす危険性があります。
アニータ、ミルコ、勝手に行動した結果、苦楽を共にした仲間の命を散らす事に繋がるのです。
なので、私の小隊にくるなら勝手な行動はしないと心に誓う必要があります。
話を聞いた限りアナタ達は兵士の訓練を受けていませんので、新兵扱いです。
来るのでしたら上司を用意しますからちゃんと兵士として訓練に励めばその辺の知識も手に入り問題はないとは思いますけどね。」
「「はぁ。」」
2人は曖昧に頷くのだった。
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