第491話 行動前の皆の様子。
武雄とアリスは草原に腹這いになり準備していた。
ちなみに武雄とアリスの居る場所は、魔物達から約250mで試射の時の半分だ。
武雄がこの距離に陣取ったのは、たまたま周りより少し小高かっただけで、見渡しやすそうと思ったからだった。
「アリスお嬢様、あとどのくらいですか?」
「もうすぐ・・・ん~・・・真ん中を過ぎました。」
「真ん中を過ぎる?」
武雄がアリスの手の中にある懐中時計を見る。
「ここです。」
「あと7分ぐらいですか。」
「・・・なんでわかるんですか?」
「そこは大まかで良いんですよ。」
武雄はアリスに苦笑を返す。
「むぅ。」
「はいはい。」
アリスは何か言いたそうだが、武雄が射撃体勢を取ったので黙る。
武雄はリザードドラゴンに狙いを定めている。
狙うは口・・・正確には歯を突き破る事をイメージする。
武雄は簡単な黙想を始めるのだった。
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武雄とアリスの位置から魔物を挟んだ反対側では、ヴィクター親子とコラ親子が談笑していた。
「お父さま、コラ殿とモモ殿が言っている事は本当ですか?」
「あぁ、正しいと思うぞ。
ただし、狩りにおいてはという注意文が付くかもしれないが。」
武雄やマイヤー達が居ないのでヴィクターが言葉を崩しながら話していた。
「「ニャ?」」
コラとモモが不思議そうな顔をヴィクターに向ける。
「ふむ。
確かに目標の首に噛み付くのは獣の最大攻撃なんだが・・・コラ殿が言うのは、そのまま首の骨を折って終わりということ。
これは狩りの仕方で、その場で食べるからそうしている。
こと戦闘ではと言うと少し変わっていて、敵の首に噛み付き飛び掛かった勢いを使って、そのまま敵の後方に放り投げるというのが必要なんだ。
まぁ騎士団達が良くやっているやり方だな。
放り投げるのは練習が必要なので、今日は首を折ったら別の獲物に飛び掛かるで良いだろう。
主が居る領地に行ったら、その辺の戦い方も考える必要がありそうではあるがな。」
「「ニャ。」」
コラとモモが頷く。
「ちなみにお父さま、私達は獣には?」
「オーク相手に獣になってもなぁ・・・
それに、これから主の隣にいる事を考えると、武器を使っての修練をしないといけないと思う。
あまり武器を使っての戦闘は練習をしてこなかったから・・・その練習台にはオークは持って来いだ。
ジーナはどちらもしてこなかったから、まずは武器を使っての戦闘から覚えて行けば良いだろう。
そして週に2回程度、コラ殿達に相手の首への突撃方法を教えて貰うのが良いと思うな。」
「お父さまは教えてくれないのですか?」
「私とジーナの2人とも主の近くから居なくなってはいけないだろう。」
「それもそうかぁ。
コラ殿、モモ殿、その際はご教授お願いしますね。」
「「ニャ。」」
ジーナのお願いに2体とも頷く。
「さて・・・アズパール王国の英雄がどれほどか・・・」
ヴィクターがアリスの方を見て呟く。
「お父さまはあの本を疑っているのですか?」
ジーナがコラとモモを撫でながら聞いてくる。
「半信半疑だな。
それにしても、人間でも魔眼が使える者が居たのには驚いたな。
あの時の魔眼はジーナとほぼ同じくらいか・・・
いやはや、人間もやるものだな。」
「魔眼って私達の血族が代々受け継いでいるのですけど・・・
アリス様も威圧系でしたね。先祖に魔眼使いが居たのですかね?」
「さて・・・血から来ているのか突然変異なのかはあまり関係はないな。
それよりも、主とアリス様の子供に伝わるのか・・・そこが肝心だな。」
「上手く遺伝すれば良いですね。」
「あぁ、魔眼使いは貴重だからな。」
ヴィクターとジーナはそんな事を話しながら、時が経つのを待っているのだった。
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中央の王都守備隊5名。
「・・・右を見ればイチャつくカップル、左を見れば親子の散歩・・・ちょっと連れているのが大きいですけど。」
ブルックが周囲を見ながらそう評していた。
「・・・的を射ているから怒れんな。」
マイヤーが苦笑する。
「アーキン殿。
今回の戦闘って・・・魔法師専門学校の模擬教本の演習課目とほぼ同じだと思うんですけど。」
バートがアーキンに聞く。
「あぁ、俺もキタミザト殿の概要を聞いてそう思った。」
「私もそう思いましたよ。
というより・・・あの課目って使えるんですね。」
フォレットが呆れながら言う。
「・・・魔法師専門学院での課目か?」
マイヤーが不思議そうに聞く。
「あれ?マイヤー殿の時はなかったのですか?」
ブルックが聞いてくる。
「・・・これに似た演習課目はなかったと思うな。」
マイヤーが考えながら言う。
「マイヤー殿、初めての演習課目がこれに似ているんです。
概要で言えば『戦闘中に木の上に敵大将格発見、即時殲滅せよ』です。」
「ほぉ、面白そうだな。
で、生徒達はどうするんだ?」
「大将役の教官と木を守る教官3名に向かって、6人一組でやるんですけど・・・
初めての演習で上手く行くはずはありません。
教官の砲撃で防戦一方になったり、木の下に到着できても仲間を明後日の方角に飛ばしたり・・・
まぁ、あれは出来ないのが前提の課目だったとは思うんですよね。」
アーキンが苦笑する。
「なるほどな。
確かに状況は似ているか。
木の下まではアーキンとバートの先導で突っ込み、そこで俺が爆風を下に打ち込んで、ブルックとフォレットが上にあがる手助け。」
「私とフォレットが身体強化をして木々を上がり、目標に対して『スリープ』をかけて保護する。
ですね?」
「あぁ。アーキンとバートは木の下に到着し、ブルック達が上にあがったら木の周囲をシールドで囲め。」
「戦闘には参加しないのですか?」
バートが聞いてくる。
「・・・下手したら、ブルック達が子供を保護して降りてきた時には終わってると思うぞ?」
マイヤーがため息をつく。
「マイヤー殿、アリス殿の戦闘力はそこまで?」
「あぁ、洒落になっていない。
第2騎士団は馬鹿な事をしたと・・・いや、アリス殿は第2騎士団相手にかなり手加減した事がこの戦闘を見ればわかると思うぞ。」
「そうなのですか。」
皆がマイヤーの言葉に半信半疑で頷くのだった。
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マイヤー達よりさらに後方の荷駄の上。
「クゥ、暇ですね。」
「きゅ。」
ミアとクゥが仲良く座りながらオレンジを頬張っている。
「きゅ?」
「どうやったら賭けになるのですか?
主の勝利以外はありませんよ。
リザードドラゴンでしたか?それって固いトカゲでしょ?
それとオーク十数体ですから勝負にすらなりません。」
「きゅ~。」
クゥも「だよね~」と相づちを打つ。
「それにしても主とアリス様の戦闘を初めて見ますね。」
「きゅ。」
「あの魔眼・・・嫌ですよね。」
「きゅ!」
「あぁ、そう言えばジーナ様も使えましたか。
両脇から魔眼・・・受けたくはないですね。」
「きゅ~・・・」
クゥが頷く。
「まぁ、すぐに終わるでしょう。
今日の朝ご飯は何が貰えるのでしょうかね?」
「きゅ♪」
チビッ子2名は朝ご飯を気にし始めるのだった。
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