第481話 アリスVSクラリッサ。(そろそろ本題を話そう。)
アリス達の隣の隣室にて。
「なんて言うか・・・これ、貴族の息女同士の会話なのか?」
ニールが苦笑している。
「・・・私はもっと穏便に行くと思っていたのだが・・・」
クリフもため息をついている。
ローナを始めとした妃達は真面目に聞いている。
アン達子供は寝ていた。
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武雄は終始何も言わずに、アリスとクラリッサの議論を聞いていた。
要約すると
アリスは、貴族が領民を先導し、より良い領地運営を考えるべき。クラリッサは、領民の商売には積極的に関わらず、後押しする形を取るべき。とのどちらも正論を展開していた。
「アリス、貴女はわからず屋ね!」
「それはクラリッサもでしょう!」
アリスとクラリッサがお互いに睨み合う。
「はい、そこまで。」
武雄は声も荒げずに言う。
「「え?」」
アリスとクラリッサが武雄を見る。
「2人ともそこまでです。」
「タケオ様!まだ結論が出ていません!」
「そうです!キタミザト殿!」
「いいえ、この議論に決着はありません。
アリスお嬢さまは『経世論』という考えですし、クラリッサ殿は『市場経済』という考え方ですね。
どちらも正しい物とは私は思います。」
「経世論?」
「市場経済?」
アリスとクラリッサが頭を捻る。
「アリスお嬢様の考えは詰まる所、施政者における統治の仕方や産業の育成をどうやるのかの話です。
施政者側から発展の切っ掛けを与え、領民が実践するという考え方ですね。
対してクラリッサ殿は、施政者は軍事や公共福祉などの限定された事業のみを行い、商売は領民が各々で行うことによって富を作り出すという考えです。
この議論に正解はありません。
それに、その領地でどんな政策をすれば富むのかというのは、1人の考えで進める物でもありません。
施政者達で良く話し合い考えを統一し、皆が動くことによって実践して行く物です。」
「・・・はい。」
「・・・その通りです。」
アリスとクラリッサが武雄の言葉に鎮火していく。
「さてと、多少は日頃の鬱憤を晴らせられましたか?」
「まぁ。」
「それなりに。」
2人はまだ言い足りなそうな顔をさせながら渋々頷く。
「この議論は終わりです。外での言い争いはしない。
良いですね?2人とも。」
「「はぃ・・・」」
「では、本題にいきましょう。
私達が依頼されている事は、クラリッサ殿が結婚する気があるのかを確認する事です。」
「私の結婚願望ですか?」
「はい、そう言われています。」
「結婚自体はしたいとは思いますが・・・
お相手は・・・どなたでしょうか?」
「・・・私からは言えませんね。」
「かなり上位の貴族なのでしょうか?」
クラリッサは真面目な顔付きで聞いてくる。
「・・・少なくとも、新規の子爵と伯爵家の息女を動かせる権限はあるのではないですかね?
まぁ私達が旅の途中だったので、依頼するのに楽だったとも言えますが。」
「その・・・断ったらどうなりますか?」
クラリッサは急にオドオドしながら聞いてくる。
「どうもなりません。
アシュトン子爵や息子さんに影響はありません。
この話自体が無かった事になるだけです。」
「そうですか・・・ちなみに会ってから決めるというのはあり得るでしょうか?」
「・・・有り無しで言えば有りでしょう。」
「相手の方の性格とかは」
「クラリッサ殿、お相手の情報は出せません。」
「クラリッサ、私達は貴女がそもそも結婚する気があるのかの確認だけを依頼されているの。
お相手を私達は知ってはいるけど、情報は出せないわ。
それに受ける受けない、会う会わないは私達に言っても意味はないし。」
「わかったわ。
・・・アリス、キタミザト殿と婚約してからはどうなの?」
「・・・毎日楽しいわね。」
アリスは考えながら言う。
「・・・キタミザト殿はどうですか?」
「クラリッサ殿が聞きたいのは、婚約した時の気持ちとかを聞きたいのではないですか?」
「はい!」
「ですけど・・・私達の場合はどうなのでしょうか?」
アリスが微妙な顔をする。
「え?恋愛じゃないの?」
「実はね・・・」
アリスは武雄との婚約までの大まかな話(もちろん武雄が異邦人とか指輪の事は言わずに)をするのだった。
・・
・
「な・・・なにそれ?
出会って3、4日で求婚なんてかなり早いじゃない?
ほぼお見合いじゃない!?」
クラリッサが驚きながらアリスと武雄の顔を見る。
「まぁ唐突よね。」
アリスが苦笑をする。
「じゃあ、アリスはキタミザト殿のどこが良かったの?」
「え?・・・それは・・・その・・・」
アリスは隣に座る武雄をちらちら見る。
「『顔も知らない貴族に嫁ぐよりかはマシ』・・・でしたかね?」
武雄が考えながら言う。
「・・・アリス、いくら私でもそれは言わない方が良いとわかるわよ?」
「せ・・・正確には『顔も知らないどこかの貴族に嫁ぐなんて嫌ですし、タケオ様と一緒にいると私は楽しいです』と言いました。」
アリスは弁明を始める。
「まぁどちらにしても、キタミザト殿がそれで良いなら良いのか・・・
アリスとキタミザト殿が出会えたのは運命だったというのね?」
「ええ!当然です!
・・・あれ?タケオ様?」
アリスが何も言わない武雄を見る。
「どうしました?」
「何で反応しないのです?」
「いや、運命という単語が出ましたけど特に今思う事もなかったので。」
「・・・私が運命の人ではないと?」
アリスの目の端が上がりかける。
「いえ、私はアリスお嬢様が運命の人だとわかるわけではないので反応しなかっただけですよ。」
「むぅ・・・タケオ様はどう思うのですか?」
「運命の人論ですか?
そうですね・・・アリスお嬢様、私からのプロポーズの言葉は覚えていますか?」
「当然です!一言一句間違いなく今言えますよ!
言いましょうか?」
「結構で」
「聞きたいです!」
クラリッサが食い付く。
「ふふん、2人ともちゃんと聞きなさいよ」
アリスは立ち上がって2人を指さす。
「『アリス・ヘンリー・エルヴィスさん。
私は、財力も権力もありません。
なんの不自由もなく、好きな事を好きなだけさせるからとは言えません。
そんな私ですが、一緒の景色をみて、一緒に食事をして、共に笑って、時には喧嘩もして、一緒に歳を取って・・・
私の横で一緒に幸せを探せるのは貴女しかいないと感じています。
私と結婚を前提に付き合って頂けますか?』です!」
「と、言ったのですが、その時の私自身の覚悟を言いましょうか。」
「ちょっと、タケオ様!?」
武雄が間髪いれずに説明を入れてきてアリスが慌てる。
「覚悟をしたのですか?」
クラリッサが聞いてくる。
「はい。
じゃあ言いますよ。
『アリスお嬢様が運命の人かどうかはわからない。
でも時には笑いあい、時には喧嘩もし、色々な事を経験して10年後、20年後にアリスお嬢様こそ運命の人だったんだと言えるように過ごして行こう。』そう覚悟をしたんです。
なので、今『アリスお嬢様こそ運命の人だ』と言うよりも、これからの人生をアリスお嬢様と過ごす事によって20年後に『アリスお嬢様が運命の人だったんだ』と呟けるようにする事が、私にとっては大切な事だと思っています。」
「タケオ様!」
アリスがクラリッサの前なのに武雄に抱きついてくる。
「私も10年後、20年後にタケオ様が運命の人だと言ってみせます!」
「はいはい。」
武雄はアリスの頭を撫でてあげる。
「な・・・なるほど。」
クラリッサが頷く。
「私的には、お見合いか恋愛かは出会いの種類であって大した問題ではないと思います。
要はクラリッサ殿の気持ちが重要だと思います。
1回では決められないなら数回会ってみて、それでもダメだと思うならそれまでです。
まぁクラリッサ殿も貴族ですから、そう数回も会えるとは限りませんが、お見合いをしてみて相手に確認してはどうでしょうか?」
「数回会ってみたいと?」
「ええ。相手が1回で決めてほしいと言うなら決めれば良いですし、数回会ってみて考えて良いと言うならそうすれば良いでしょう。」
「私の方から言うのでしょうか?
その・・・緊張から言えないかも知れないですし。」
「・・・確かに女性への気遣いは大切ですが、クラリッサ殿が緊張しているように、相手だって緊張しているのを忘れてはいけません。
ですので相手もいろいろこう・・・慌ただしいと思うのです。」
「あ・・・」
クラリッサはこの時、初めて相手の事を考えたのだった。
「まぁ、どう進めるかはクラリッサ殿が考えた方が良いですよ。
お見合いは結婚が前提ですから、結構突っ込んだことも聞けますしね。」
「はぃ。」
クラリッサが頷く。
「では、クラリッサ・ブリース・アシュトン殿。
とりあえず結婚の意思はあり、お見合いの話を進めて良いと先方に伝えてよろしいですか?」
「はい、お見合いを受けさせていただきます。
よろしくお願いします。」
クラリッサが武雄達に頭を下げる。
「アリスお嬢様、クラリッサ殿をお部屋までお連れしてください。」
「タケオ様はどうしますか?」
「この場に居ます。
パイプも吸いたいですしね。」
と武雄はキセルを見せる。
「わかりました。クラリッサ。」
「ええ。キタミザト殿、今日はありがとうございました。」
「いえいえ。お見合いがどうなるか・・・私は立ち会わないでしょうが、良い出会いになる事を願っております。」
武雄が朗らかに言い、クラリッサも朗らかに頷く。
アリスとクラリッサは退出していくのだった。
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