第480話 アリスVSクラリッサ。(武雄はおまけ)
アリス達が居る一室の扉を武雄はノックする。
中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
「失礼します。
アリスお嬢様、アシュトン嬢、お茶を持ってきました。」
「タケオ様、ありがとうございます。」
「キタミザト卿、私はクラリッサ・ブリース・アシュトンと申します。
この度は祖父が多大なご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」
クラリッサが先ほどのアリスとの和気藹々感を無くし、誠実に頭を下げる。
「・・・クラリッサ、いきなりどうしたのですか?」
アリスは訝しがりながら言ってくる。
「・・・」
クラリッサは何も言わずにただただ頭を下げ続ける。
武雄は「この子は真面目なんだね」と思うに留まる。
「アシュトン嬢、頭をお上げください。
お気になさらずに。」
「し・・・しかし。」
クラリッサが頭を上げるが若干不安がっている。
「先の件については私とアシュトン子爵との話ですので、アシュトン嬢が気にされるような事ではございません。」
「あの・・・私の事は名前で結構です。」
「わかりました。
では、私も名前で結構ですよ。」
「タケオ様、それはちょっとダメです。」
アリスが指摘してくる。
「そうなのですか?」
「はい。格上の王家や公爵等の者から下位の者への名前呼びはモラルの範囲内で良しとされていますが、アシュトン家とタケオ様は子爵家ですので同格の家になります。
相手の家の息女からの名前呼びは特に親しい間柄でないとしないことになっています。」
「なるほど・・・」
武雄はそう答えるが頭の中で「殿下達を私は『さん』付けで呼んでいるのだけど・・・」と内心ビビッていたりする。
「では、クラリッサ殿、申し訳ありませんが私は名字の方でお願いします。」
「畏まりました、キタミザト殿。」
と、武雄も席に座る。
「で、どんな話をしていたのですか?」
武雄がアリスに聞いてくる。
「他愛もない話です。」
「そうですね。私とアリスがお互いに名前を知る切っ掛けの話をしていました。」
アリスとクラリッサが同時に答える。
「お互いにもう名前呼びを?」
「はい。同い年ですし、お互いに名前は知っていましたので。
公式な場ではしないとは思いますが、今は特に必要は感じませんので。」
アリスが説明をする。
「そうですか。
本題はどうですか?」
「クラリッサが鈍感で今知った様です。」
「アリス、私は鈍感ではないわよ?
ちょっと考えが足りなかっただけです。」
クラリッサが顔を明後日の方向に向けて言ってくる。
「会ったばっかりなのに仲が良いですね。」
武雄はクスクス笑う。
「「どこが?」」
アリスとクラリッサが同時に答える。
「キタミザト殿、さっきから私達罵声一歩手前で語っていたのです。
それを仲が良いとは言いません!」
クラリッサが武雄に言ってくる。
「ん?そうですか?
アリスお嬢様が毒を吐くのはあまりないので新鮮ですし、そういう相手はエルヴィス領ではいませんでしたからね。
いつも周りの貴族の息女は年上で弟のスミス坊ちゃんの手前毒も吐かずに溜めていたのでしょう。
良い機会だからいろいろ罵声を浴びせておけば良いのではないですか?お互いに。」
「「お互いに!?」」
2人して驚く。
「ええ。クラリッサ殿、周りの誰かに鬱憤を言える機会がありますか?」
「私は・・・いえ、ありません。」
「アリスお嬢様もありませんね?」
「それは・・・まぁ、ありませんが。」
「どうせ、この場だけでの話ですのでお互い言いたい事を言ったらどうです?
身内の恥も言っても構いませんよ。
ただし、ここでの会話は外には出さない。
どんなに腹が立っても席を立たないし、部屋から一歩出れば気にしない。
これが最低条件です。」
「「・・・」」
2人は考え込む。
「タケオ様、その・・・平気なのでしょうか?」
「ええ、ちゃんと隣の部屋の状況も見てきましたので問題はないです・・・あと少しなら平気でしょう。
それ以外だと予約が入っているみたいですので。」
武雄はアリスに笑顔を返す。
「そうなのですか・・・
わかりました、私は平気です。」
「なら・・・私も。」
アリスとクラリッサが武雄に向かって言う。
「そうですか。
わかりました。あぁ、私は別に何も言いませんからお好きにどうぞ。
頃合いを見て話を終わらせますから。」
武雄は気にもしないで持ってきたお茶とお菓子をアリスとクラリッサの所に配膳していく。
「いきなり言えと言われても・・・」
アリスが困るが。
「アリス、貴女が入って来た時のすまし顔は何なの?
私よりも先に婚約した事を前面に出して私に対する当てつけなの?」
「な!?そんなわけないでしょう!?」
「ん?アリスお嬢様のすまし顔はいつもですよ?クラリッサ殿。
あれが良いのですよ。」
「な!?タケオ様まで!」
「じゃあ何?アレで男性の視線を釘付けにしているの?嫌味な女ね。」
「何を言っているの!?貴族の娘として当然の姿勢でしょう!
貴女はどうしているの?まさか笑顔だけ振り撒いておけば良いとでも?
金持ち貴族は対応が違うわね?
私達エルヴィス家は常に領民の先頭に立たないといけない!
貴女みたいに領民に良い顔をするだけでは纏まらないわ!」
「何言ってるのよ!私だっていろいろ考えているわよ!
貴女みたいに貴族面を前面には出したりしないわ!
物の流通は民がする物!それにあれこれ口出しをするのは貴族の悪い習慣よ!
それよりも領民が安寧に生活できるために商売等々は民に任せ私達は兵士の育成を熱心にすることが貴族の正しい姿でしょう!」
アリスとクラリッサの『貴族とは?』の議論が始まるのだった。
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