第477話 職人たちの奮起。
武雄達を見送って皆は自由にして良いと言われたのだが・・・
工房の面々はフリップの部屋に集合して武雄の小銃改1を見ていた。
「・・・で?スズネ、このスコープとは何だ?」
「武雄さんが言ったように狙った先の対象の大きさを何倍にも拡大して見せる物です。
小銃のこの辺に付けて狙う事を補助する機械ですね。
たぶんこのダイヤルとこのダイヤルで微調整をすると思います。」
鈴音が小銃とスコープを持って説明する。
「ふむ。
とりあえず爺さんの部屋から机を持って来てこの小銃を固定できるようにしよう。
その後は爺さんと俺とで幌馬車に工具を取りに行くか。
ビセンテ、そのスコープの『分析』をして図面に起こしておいてくれ。
キタミザト殿の言い方では後々研究する事になるだろう。」
「わかった。
こりゃ、夕食はこの部屋だな。
バキト、皆の分の夕飯を買ってきてくれ。」
「わかったよ。」
「サリタも行ってくるのじゃ。」
「わかったわ。」
各々が動き出すのだった。
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エリカとカサンドラは武雄を見送った後、宿の一室でお茶をしてのんびりとしている。
「ねぇ、カサンドラ。」
「エリカ様、何ですか?」
「暇ね。」
「今は暇ですね。
それに定住先に着いたらやりたい事を始めないといけませんからね。
エリカ様、やりたい事見つかりました?」
「・・・模索中。
それにしてもタケオさんの武器の仕様・・・異様よね?」
「射程が1200mでしたか?・・・まぁ当たれば脅威ですけど。
ご自身が言っていたように550mが人間の限界でしょう。
あとは大規模な魔法陣を作ればその距離も可能かもしれませんが、外に出ている魔法師は無縁そうですし・・・そもそもそういうのは国の中枢魔法師達がすると思います。」
「だよね~。
まぁ射程が長ければ威力は落ちる物だしね。
あの武器の大きさだとそこまでの威力はなさそうだよね。」
「はい。宝石もぱっと見あまり大きくはありませんでしたし、威力は低いと思います。
タケオ殿が言っていた射程ももしかしたら届くだけの距離かもしれません。」
「まぁどんな軽い攻撃も当たり所が悪ければ致命傷なのは確かだよね。」
エリカがため息をつく。
「はい。ですから護衛をする者は護衛者の周囲300mくらいを警戒しているのです。
それはたぶんどの国もそうだと思います。
魔法師の射程がどこも大体200mですからね。」
「確かその距離がかける魔力量の威力を落とさずに当てられる限界なんだっけ?」
「はい。ですけど、実際は150m辺りと言われています。」
「だから睨み合いの距離が決まっているんだよね。」
「ええ、双方の射程が決まっていますからね。」
「とりあえずタケオさんは考えが奇抜なのはわかったわね。」
「はい。」
エリカとカサンドラはのんびりとお茶をするのだった。
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再びフリップの部屋。
「・・・爺さん・・・ここはどう思う?」
ビセンテ親子が図面を描いている後ろでフリップとシントロンが小銃のレバーを引き中を見ていた。
「うむ・・・こういう風に宝石を配置するか・・・
わしらにはない発想じゃな。」
「あぁ、それにちょっと魔法刻印があるな・・・こことか。」
フリップが指を指す。
「荒削りじゃが・・・適切じゃの。
サリタより見込みはあるの。
これは水の膜を生成するのに使うのか・・・ん?これはシールド用か・・・2系統も?
・・・ふむ、なるほどの。」
シントロンが頷く。
「どう思う?」
「宝石の配置やそれを繋げる刻印の使い分けの柔軟さ。
総じていえば上手いの・・・もしかしたら天才系の職人じゃ。」
「爺さんがそういうのであれば腕は確かだな。」
「ビセンテにはすまんが、これも分析してもらおうかの。」
「これもするのですか?」
いつの間にかビセンテもフリップ達の隣に来ていた。
「ビセンテ、終わったのか?」
「ええ、大まかな所は終わりました。後はバキトが細かい所を書いていますよ。
分析はうちの専門だから早いもんですよ。
・・・この小銃は結構弄られているのですか?」
「あぁ。原型の外観は維持しているが、宝石が外に2個と中に4個入っている。」
「どんな改造をすれば6個も使うんだか・・・」
フリップの言葉にビセンテが頭を捻る。
「まぁ、キタミザト様の異常な仕様を宝石と魔法刻印で実現したんだろう。」
「・・・アズパール王国の武器で魔法刻印があるのは少なかったのでは?」
「うちらも数個ぐらいは取り寄せて見たことがあるが・・・値段の割に威力が低かったな。
その結果を見てアズパール王国の武器の品質は低いと思っていたが、キタミザト様の武器を手入れしている工房は腕が良いのは確かだな。」
「これは少し侮っていたかもしれぬの。」
「あぁ、それにしてもビセンテが居てくれて楽だったな。」
「うちの家系は分析しか出来ないですからね。
魔法師にはなれない魔力量しかないですし・・・まぁ工房ぐらいしかできないんですよ。」
「全く・・・ビセンテが分析を使った指輪工房。爺さんの所が宝石と魔法刻印を使った意匠工房。
で、うちが武具を製作する鍛冶工房・・・うまく住み分けているもんだ。」
フリップがため息を漏らす。
「当たり前だフリップ。わしらが同種の工房なら仲良くはせんよ。
違う事をしているから知り合っているのじゃ。」
「まったくです。」
シントロンとビセンテが答える。
「そうだな。
さてと・・・スズネ。」
「はい!親方。」
「このスコープを小銃に付ける段取りを考えろ。」
「え?私がですか?」
「あぁ、このスコープが付いた形を想像できるのはスズネだけだ。
キタミザト様の理想に近づける為にも適切な設置位置を考えろ。」
「わ!わかりました!」
鈴音は緊張しながら紙に何やら書き始めるのだった。
「ビセンテ、この小銃とスコープの固定なんだがな・・・どうやる?
俺ではネジ留めなんだが・・・」
「確かにあのスコープの台座を見ているとネジ留め用の穴らしきものはあるんですけど・・・
移動しているとズレないかと心配になりますね。
だから・・・接着でいこうと思うんですけど。
シントロンさん、確かキタミザト様の説明で最初に強化を入れているんでしたよね?」
「言っておったの。
だが、この宝石を見るとどうも担いでいる・・・触れているだけで強化するようになっているの。
つまりは常に強化をしているという事になる。
これをスコープにも回すかの?」
「ええ、スコープは遠くを見るという特性上ズレが一番怖いでしょうから。
出来そうですか?」
「ふむ・・・たぶん・・・だが、小銃の方を弄りたくはないな。
スコープ側に細工をするか・・・少し時間をくれ。
何とか考えようかの。」
「じゃあ、爺さんにその辺の改造をしてもらうか。
ビセンテも問題ないか?俺はネジ留めと接着系の2つをする方がより良いと思うんだが。」
「私もそれで良いと思います。」
「では、それで行こう。
キタミザト様が戻るまでにそれぞれの考えをまとめておこう。
で、帰ってきて了解が取れるなら付けるという事にしよう。」
フリップの言葉に全員が頷くのだった。
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