第468話 もうすぐ町だ。
6時課の鐘を過ぎ、昼食も取り終えた武雄隊一行とクリフ達一行はもうすぐ目的の町近くまで来ていた。
「・・・」
そんな中、浮かない顔をマイヤーはさせていた。
「マイヤーさん、どうしましたか?」
「いえ・・・キタミザト殿、若干の不安がありまして。」
「不安ですか?旅は順調だと思いますが・・・」
武雄は思案するが思い当たる節がない。
「いえ・・・ブルック達がアリス殿を呼びに行っていますが。」
「あの3人に不安はないと思いますけど・・・」
「ええ、旅は問題ないでしょう。
ですが、ブルック達が王都に帰還したら総長には簡単に報告していると思います。」
「そうですね。
経過報告は必要でしょうね。」
「この旅の目的上、陛下にも報告が上げられると思います。」
「はい。何も問題ないと・・・ヴィクター達ですか?」
「いえ、それは王都に着いた後の話になるので今は問題はないかと。
私が不安になるのはエリカ殿の存在です。」
「旅を満喫していますね。」
「ええ、本人達は楽しんでいますね。
ですが、私はアリス殿の反応が気がかりです。」
「さて、それは私ではわかりませんね。」
「キタミザト殿でもわかりかねますか?」
マイヤーは「大丈夫ですよ」と武雄が言うと思っていたので少し驚く。
「ええ、あのアリスお嬢様ですから。」
武雄は微笑を返す。
「キタミザト殿はどう反応をすると考えますか?」
「そもそもエリカさん達を気にせずに対応する。
エリカさん達に魔眼を使って威嚇する。
とりあえず襲いかかる。
・・・他にありますかね?」
「特には・・・ですが、最初以外はもう盗賊ですね。」
「まぁ初対面で襲いかかる事もないでしょう・・・たぶん。
ですが、アリスお嬢様は私が絡むと暴走気味になりますよね。」
「確かに・・・」
「愛されている証拠と考えましょうか。」
「随分と前向きですね。」
「まぁ私も逆の立場ならどういう手段を取るかわかりませんしね。」
武雄は苦笑をする。
「・・・ご主人様とマイヤー殿の会話を聞いているとご主人様も奥方様も激情型なのでしょうか?」
ジーナが他2名が言えない事を聞いてくる。
「ええ、そうですよ。」
武雄は朗らかに言う。
「というよりかは誰でも大なり小なり持つ感情の起伏だと思いますけどね。
それにジーナ、相手の表面や他人からの評価だけを基準に考えては危ないと思いますから気を付けましょうね。」
「危ないのですか?」
「例えばですが・・・ジーナの近くに『いつも怒っている人』と『いつも温厚な人』がいたとして、ジーナが2人に少し嫌味を言ったとします。」
「はい。」
「で、『いつも怒っている人』はすぐに反論をしてきて口論になり、『いつも温厚な人』はにこやかに対応してその場では何もなかったとします。
この時のジーナの気持ちはどうでしょうか。」
「『いつも怒っている人』はイライラしますし、『いつも温厚な人』は優しい人だなぁと思います。」
ジーナが考えながら言う。
「はい、そうですね。
そしてジーナだけでなく、いろんな人が二人に対して同じ感想を持ったとしましょう。
つまりは怒っている人は周りから面倒くさい人と思われ、温厚な人は何を言っても怒らない人と思われます。」
「はい。」
「ですが、これは周りからの評価でしかありません。
実際の2人の気持ちはどうでしょうか。」
「・・・わかりません。」
ジーナが素直に答える。
「はい。わからなくて当たり前ですね。
では、2人とも同じ嫌味を言われ、そして2人とも意味を理解していたとします。
そうすると他者からの評価とは関係なく2人とも同じぐらいの不快感をジーナに抱いているという可能性があります。」
「同じくらいの不快感ですか?」
「はい。ですが、『いつも怒っている人』と『いつも温厚な人』ではジーナに対しての対応が違っていましたよね。
これは相手の性格的な所ではありますが、それとは別として同じような不快感を与えているという事実があります。
ここで大事な事は、相手の性格に関わらずに相手の気持ちをある程度考えて話をしましょうという事です。
誰しもが怒られれば嫌な気持ちになりますし、理不尽な事を言われれば不愉快な気持ちになるでしょう。
そして、反対に相手がどうしてそういう発言をしてきたのかを考えてあげる事が重要なのです。
なので私や私の婚約者が激情型だとかはあまり関係がないのです。
相手がどう思うかを考えて話を丁寧にすれば問題はありません。」
「はぁ・・・そういう物なのでしょうか?」
ジーナが首を傾げる。
「だと思いますよ。
これは共感的理解という行動をかじったやり方なのですが・・・」
「「「共感的理解??」」」
マイヤーとヴィクター、ジーナが聞き返してくる。
「基本的には相手の言ってることに注意深く耳を傾けてあげて、相手の感情やその感情を持つに至った背景を理解する事なんですけど・・・」
武雄が思案する。
「主、それは会話の基本なのではないですか?」
ヴィクターが聞いてくる。マイヤーとジーナが頷く。
「ええ。ですが、これの難しさはその話を聞いている時に自分の考えや相手を評価せずに受け止めるということをしてあげないといけないのです。」
「えーっと・・・つまりは?」
ジーナが首を傾げながら言ってくる。
「そうですね・・・
新人の文官が来て『上司に仕事が遅いと言われて仕事が嫌になりました。』と相談してきたらどう答えますか?
確かにその文官の仕事の進め方は遅かったとします。」
「え・・・んー・・・『それはご自身の努力が足りなかったからかもしれません。もう少し頑張ってみたらどうでしょう』とかでしょうか。」
「ジーナ、それでは共感的理解とはならないんですよ。
模範解答としては『なるほど、嫌になってしまいましたか。努力をしていても遅れてしまう事はあります。
どうすれば上司の方が認めてくれるのか・・・私と仕事の流れをもう一度考えてみましょうか』でしょうかね。」
「キタミザト殿それは優しすぎるのではないですか?
皆が出来ているのにその文官だけ出来ないのは努力が足らないからだと普通は考えると思いますが。」
マイヤーが聞いてくる。
「ふふ。
マイヤーさんは厳しいですね。
ですが・・・新人が遅いのは当たり前です。なら頭ごなしで怒っても仕方ありません。
どうせなら新人に作業の無駄を見つけて貰うように仕向けるのが良いでしょう。
新人にしか発見できない作業の無駄もあるでしょうし、それで作業が早くなるのであれば他の方にも教えるべきですよ。
全体的に仕事が早くなれば良いのですからね。
まぁこの話は新人教育はどこも大変だという事に落ち着きそうですね。」
武雄は笑いながら言う。と遠目に目的の町が見えてくる。
「さて、着きましたね。
マイヤーさん、予定通りですか?」
「はい、キタミザト殿。予定通りです。」
マイヤーが頷く。
「ヴィクター、ジーナ、アリスお嬢様と話してみなさい。
前評判ではなく自分が感じたままを大切にしなさいね。」
「「はい。」」
ヴィクターとジーナが頷くのだった。
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