第465話 41日目 起床。昨日のスープの残りを朝食に。
「ほぉ。」
武雄はサリタが全員分の朝食を作っているのを見ながら感心していた。
「あの・・・キタミザト様、何を見ているのですか?
キタミザト様が見られるような物は何もしていないのですけど・・・」
サリタが困惑している。
「いえいえ。
昨日の夕飯はトマト系のスープで具材がジャガイモと干し肉でしたが、今日はその残りのスープにマカロニを入れて少し煮込み別の料理にしているのですね。」
「マカロニ??これはショートパスタです。」
サリタが首を傾げながら言う。
「ショートパスタ?・・・じゃあ麺のパスタは?」
「パスタです。」
サリタと武雄は2人して頭の上に「?」を浮かべていた。
「キタミザト殿、パスタであっています。
アズパール王国ではショートパスタの事をマカロニとも呼んでいるのです。
カトランダ帝国ではマカロニとは呼ばないですね。麺をパスタ、マカロニをショートパスタと言っています。
国ごとの呼び名の違いで商品は同じです。」
アーキンが補足してくれる。
「なるほど。
国ごとに呼び名が違う事があるのですね。」
「へぇ~。」
武雄とサリタが感心している。
「で、キタミザト殿、何を感心していたのですか?
普通にトマト系のマカロニ料理だと思いますけど。」
バートが聞いてくる。
「いえいえ、家庭の知恵だなぁと思ってですね。
前日の夕飯の残りを次の日の朝食の別の料理に使うというのは良い物だなぁと。」
「?当たり前なのではないのですか?」
バートが答える。
「ええ、当たり前です。
でもちゃんと料理が出来ないと変化させる事など出来ません。
私の知らない料理が目の前にあるので勉強をしています。」
「き・・・キタミザト様に教える事は何もないと思います!」
サリタが恐縮する。
「え?サリタさんが作っているのはカトランダ帝国の家庭料理でしょう?
それだけで知る理由になりますよ。
周りの人達はアズパール王国の者なのですからね。
他国の家庭料理という物を体験する良い機会です。
そもそも同じ物を作っても何か味が微妙に違うのが家庭料理の醍醐味ですからね。」
武雄は料理を見ながら語る。
「うぅ・・・そう言うのであれば・・・」
サリタは料理を再開する。
「そういう物なのですか?」
アーキンが聞いてくる。
「同じ料理を作っても塩加減だったりオリーブオイルが違ったりして味の濃さや風味が微妙に違った感じになります。
家庭の味とはそういう物です。」
「なるほど。」
アーキンが頷く。
「もう少し広範囲で言えば、街毎に味が違うはずなんですよね。
それが特色にもなるはずです。
ですが・・・ほら、料理人て何故だか同じ物を作りたがりますよね。」
「え?それこそ当たり前なのでは?
例えば王都で流行っている食べ物を食べた地方の料理人は自分が住む街で再現したいと躍起になっているのは当然だと思います。」
「ええ。間違いではないですが、施政者として見るとそれだけではダメですね。
施政者の使命は担当の街を発展させる事です。
王都と同じ物を提供するだけではいずれ廃れます。
ならそこに地域の特色を反映させ、街に根付くように促すのが施政者のお仕事ですね。」
「地域の特色・・・説明の意味はわかりますが・・・」
アーキンが悩む。
「じゃあ、例を挙げましょうか。
昨日の夕飯のトマトスープはどうでしたか?」
「美味しかったですが。」
「・・・聞き方を間違えましたね。
いつも食べている味でしたか?」
「はい。」
「では、サリタさんはどうでした?
昨日味見している時に首を傾げていましたが。」
「キタミザト様!?見ていたのですか!?」
「ええ。
私がお連れすると言った手前、皆さんが体調を崩したりしていないか軽く見ていますよ。」
「そ・・・そうでしたか。」
「皆さん、体調不良ではないでしょう?
まぁ3工房の主人達が集まって難しい顔をしていますけど大した事ではないでしょうし。」
「いや・・・あれはキタミザト様が要望している生産量をどうするかの話し合いです。」
「ふむ。
何とかなるでしょう。それに最初だけだと思います。」
「そうなのですか?
爺ちゃんは『無理じゃ~』と喚いていましたけど。」
「現状の人数では無理な量を発注しているという事でしょうね。
ですが、今頼んでいるのは最低数ですからね?
ゆくゆくはもっと増産体制を整えて貰ったり新商品を開発して貰わないと困りますね。」
「そうなのですか?」
サリタが目を見張って聞いてくる。
「ええ。王国全土に懐中時計を売り込むのですから倍以上は作れるようにして貰わないといけませんね。」
「うぅ・・・爺ちゃん達には言えないです。」
サリタが困り顔をする。
「ちなみにサリタさん、職人が弟子を育てる方法はどうやるんですか?
私の想像では『見て覚えろ』とか『繰り返して覚えろ』なんですが。」
「キタミザト様、大体その通りです。
なので一人前になるには最低10年はかかります。」
「10年かぁ・・・確かにその育成方法は時間がかかりますね。
まぁあの3人で話し合って結論が出ないなら私の所に相談に来るのでしょうかね。」
「キタミザト様には何か案があるのですか?」
「さて・・・上手く行くかはわかりませんが、話し合えば何か良い案が出ると思います。
と、そうそう地域の特色の話でしたね。
で、首を傾げていました理由は何ですか?」
「あ・・・たぶん気のせいなのですけど・・・
昨日トマトスープを作った際に薄く感じたのです。
たぶん旅で疲れていたから塩が少なかったんです。」
「なるほど。
アーキンさんはどうでしたか?」
「・・・いえ、特には・・・
塩加減で言えば若干塩辛かったですが、問題なく美味しかったですね。」
「サリタさん、カトランダ帝国では同じ塩加減でもっと濃かったのでしょう?」
「感覚的にはそうですが・・・何分、旅は初めてに近いので疲れていたから少し塩が足らなかったのかと・・・」
「・・・私の感想を言いましょうか。
サリタさんが首を傾げたのはたぶんトマトスープが薄かったからです。」
「え?だってカトランダ帝国の時と同じように作りましたが。」
「はい、そうでしょうね。手際が良かったです。
同じ方法でトマトスープを作ったのにカトランダ帝国で作った時とアズパール王国で作った時に味が違う。
さて、何が違うと思いますか?」
「あ!トマト!」
「ええ、私はその違いだと思います。」
「そうなのかぁ・・・確かに水気が多い気はしたけど・・・
だから味が薄いのですね?」
サリタが閃き答えると武雄は笑顔で頷く。
「ええ。
私はそもそも両国で一番普及しているトマトの種類が違うのではと考えました。
カトランダ帝国で取れるトマトは水分が少なく、アズパール王国で取れるのは水分が多かったと思いますね。」
「トマトに複数の種類が・・・いやあるのでしょうが、そこまでの差が出るのですか?」
アーキンが聞いてくる。
「水分量だけではなくて甘さも苦みもまちまちだと思いますよ。」
「トマトに甘味が?」
「ふふ、王都に戻ったら調べてみましょうか。
甘味があるトマトは私的にはサラダに合うと思っていますけど。
見つかると良いですね。
と、そうそう、この話の結論ですけどね。
町ごとに違うトマトを作ってそれを使ったスープを飲食店で出したら・・・町の特色になると思いませんか?」
「なるほど。
そこまでトマトで味が変わると言うのでしたら確かに地域の特色に繋がりますね。」
アーキンが頷く。
「ええ、普段見落としがちな事でも良く見ると強みになる可能性があります。」
「そういう物なのですね。」
「ええ。ですけどほとんどの場合、見落としてしまうんですよね。
今回はサリタさんの料理を見ながら考え付きましたが・・・街で食べていたら考え付かなかったかもしれませんね。」
武雄が苦笑する。
「キタミザト殿、もっといろんな食材があるのでしょうか?」
「あると思いますよ。
今は思いつかないですが、もしかしたらそこの畑にもあるのかも。
そう思うと食事が益々楽しくなりますね。」
「「はい。」」
武雄達は楽しく朝食の準備をするのだった。
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