第458話 エルヴィス伯爵邸がある街の日常。(テイラーと仁王の雑談。)
テイラーの説明を聞いていた仁王が首を傾げながら呟く。
「それは何と言うか・・・」
「技術力的にかなりの痛手だよね。
まぁ、近年の話ではないからね。
もう100年くらい前の話だね。」
「復活させなかったのか?」
「他国へ引き抜きには行っていたみたいだけど・・・
『こっちの刻印工房が全滅した』なんて言えなかったんじゃないかな?
それに良い条件を提示出来なかったんだろうね。
そんな多額を提示するなら宝石の仕入れ価格を低く抑え、宝石を組み込んだ方が相対的に安いだろうしね。
魔法刻印は宝石には敵わないからね。安上がりではあるけど・・・」
「面倒な物だな。」
「まったくだね。
ん?キタミザト様の荷物が来ているのは伝票にあったけど、剣を買ったんだね。」
テイラーが荷物を確認し、小太刀を持ちながら言う。
「・・・テイラー、その剣を鞘から抜いてくれるかな?」
仁王が何かを感じ取りテイラーに頼む。
「キタミザト様のを勝手に?」
「我が責任を持つ。
切れとか言わんよ。鞘から抜いて見せてくれ。」
「わかったよ。」
テイラーは小太刀を鞘から抜く。
「「・・・」」
テイラーも仁王も言葉は発しないで刀身を見ている。
「ふむ・・・テイラー、どう思う。」
「刀身が薄く、長さも若干短い、さらには片刃・・・
剣その物だけなら下の上かな?
だけど強化をかけているのか・・・魔法具となるなら中の中か。」
テイラーは近くにあった布を床に敷き、大事に剣を置くと柄を小太刀から取る。
「え?・・・魔法刻印?」
柄の中には刀身に刻印がされ小さい宝石が1個付いていた。
「ふむ。小さい宝石と刻印があるだけで下の上から中の中・・・2段階も上がるのか。」
ニオが腕を組みながら呟く。
「この大きさで剣全体の強化をしているのか・・・んー・・・」
テイラーも腕を組んで悩みだす。
「ちなみにテイラーは同じことが出来るのか?」
「出来るね。
ただ宝石を後2回り大きい物を使わないといけないかなぁ?」
「なるほどな。
これを作った工房は腕が良いのだな?」
「そうだね・・・作ったのはステノ工房?」
「ん?小銃と一緒だな。」
テイラーは仁王の言葉に眉間に皺を寄せながら何も言わずに考えている。
仁王は「なるほどな。」と納得するのだった。
・・
・
「またのお越しを~。」
テイラーが入口で男性を送り出していた。
店の扉を閉めテイラーがカウンターに戻ってくる。
「久々に物を買う客が来たな。
あれは騎士団員なのか?」
仁王がカウンターの端に座りながらため息をつく。
「そうだね。
って・・・出てくるの早いね。ちゃんと見つからないようにしてくれよ?」
「テイラー、わかっている。」
「そう・・・それにしても最近来る客はナイフが多いなぁ。」
テイラーが首を傾げながら言う。
「何かそのナイフは特別製なのか?」
「いや・・・普通のなんの付加もないただのナイフなんだけど・・・
魔法物を扱っている店に買いに来る商品ではないよね。」
「なのに売れるのか?」
「そうだね。
先週は3人、今週は2人・・・同じ物を買っていったね。
ナイフなんて剣とは違ってあまり消耗はしないと思うんだけどね。」
「・・・そのナイフは本当に何も付加がないのか?」
「ないね。ただのナイフだし・・・もっと言えば武器として見れば下の中。
なんでうちのを買うんだろうね?」
「ふむ・・・それはどういった物なのだ?」
「片刃のナイフだね。
そうそうキタミザト様が買った物と同じだね。」
「それじゃないか・・・」
「ん?キタミザト様が使っているから?」
「うむ。
人は大成していたり、成功している者を羨む傾向があるだろう?
だとしたら、ここ最近で急激に頭角を現してきたタケオと同じ装備を持つ事で自身も出世にあやかりたいと思ったのではないか?」
「武器を同じにしたぐらいで出世するかなぁ?」
テイラーが頭を傾げながら答える。
「だから、あやかりたいのだ。
自身での努力はもちろんだが、出世には運が必要だ。
成功を収めている人と同じ物を持つことによって自身の運気を上げたいと思ったのではないか?」
「そういう物かな?
私にはわからないけどね。」
「ふむ、テイラーは天才だが、客商売としてはまだまだだな。
タケオが帰ってきたら相談すると良い。」
「他人の武器を使って自身の運気を上げるために持つというのはなぁ・・・あまり良いとは思わないけどね。
キタミザト様はそういう事はしないと思うけど?」
「さて・・・タケオなら相談には乗ってくれそうだがな。」
「そうかな?」
「タケオは相談には乗ってくれるだろう。
それにそこまで武器にこだわりはないのではないか?
我的にはむしろ売れる時に売るという考えは必要だと思うけどな。」
「他人の威を借りている気がしてならないね。」
「商売とはそういう物なのではないのか?」
仁王は首を傾げて聞いてくる。
「そういう側面もあるだろうけど・・・
武具はその人にあった物を買い揃えるのが基本だと思うよ?」
「ふむ・・・だからナイフなのだろうな。」
「・・・なるほどね。あくまで予備の装備だから買ってみるのかぁ。」
テイラーが頷く。
「どちらにしても今後も売れそうだな。」
「まったくだね。
今の売れ筋がこれっていうのも問題なのかもね。」
テイラーが苦笑する。
「ふむ・・・それにしてもここの魔法師達がこの店にあまり買いにこないよな?
テイラー曰く良い商品があるのだろう?」
「まぁ、小隊ごとに古くからの馴染みの店が代々あるんだろうからね。
なかなか店を変えられないだろうね。」
「コネか。」
「コネとまでは言わないけど・・・見知った店の方が楽ではあるよね。」
「そうか・・・なかなか難しい物だな。」
「そうだね。
あ、いらっしゃいませ。」
テイラーが来店してきた客に応対を始めるのだった。
仁王は客が扉を開けた瞬間に姿を隠していた。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




