第457話 エルヴィス伯爵邸がある街の日常(ラルフとテイラーの場合。)
ここは各組合が良く使う公共の建物。
公民館的な建物の一室なのだが、今日は1日貸切となっていた。
今は仕立て屋組合の組合長とラルフ、更に3人が机を囲んで資料を読んでいた。
別の机では、工場内のレイアウトや改修方法を、他の組合員3名と専門業者と打ち合わせをしている。
ちなみに、今日来ている組合員は全員、仕立て屋の店長達ばかりだ。
「なぁ、ラルフ。」
「はい。組合長何でしょうか?」
「これ・・・従業員の募集要項は、こんなに厳密にする必要があるのか?」
募集要項を見ながら組合長が聞いてくる。
「・・・書き出して行ったり、エルヴィス家の総監部からの素案を元にしたところ、それだけの項目になったのですよね。」
ラルフがため息をつく。
「いや、書かれている事は当たり前の事ばかり何だが・・・
わざわざ『工場内の物を許可なく自宅に持っていってはいけない』なんて書く必要があるのか?
常識的に考えればしないだろ。」
「あぁ、そこら辺の項目は総監部からの指導ですね。
なんでも『20名を越える人員を抱えると監視が出来なくなる』らしいです。
なので『後々50名以上を雇用されるのなら、最初から細かい所まで規定しておかないと組織としてダメになります。』と言われましてね。」
「なるほどな。
エルヴィス家は不祥事や汚職、賄賂等が聞こえないが・・・
相当細かく規定されているのかね?」
「私も説明を受けましたが・・・20の規則や規定があるらしいです。」
「20?」
「なんでも就業規則が11規則あって、雇用規定、服務規程、勤務規定、給与規定等、それとは別に能力用件規則、出張規則、情報取扱規則等もあり、さらには内部管理規則まであるらしいです。」
「ガチガチに固めているんだな・・・」
「そして課長職以上には年に1回、汚職廃絶講習なる研修があると。」
「なんだそれは?」
「なんでも過去の他領の事例を元に、発覚から末路までを皆で芝居仕立てで演技するらしいです。
かなりの恐怖が刷り込まれると、担当課長は言っていましたね。」
「なるほどな。
相当な物なんだろう・・・」
組合長が苦笑する。
「ええ、怖くて内容は聞けませんよ。」
「そうだな。
さて、募集要項の確認をするかな。」
「「「はい。」」」
組合員達と一緒にラルフも確認をするのだった。
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「今日も良い日だな。」
ニオが魔法具商店のカウンターに端に座り、窓の外を見ながらながらほのぼのとしていた。
「ニオ・・・すぐに隠れられるようにし」
テイラーは荷ほどきをしながら言ってくるが。
「テイラー、わかっている。」
「・・・まぁ、わかっているなら良いけど・・・」
「で?さっき多めの荷物が来たが・・・この店だと売れ残り必至だな。
店を畳む気か?」
「事実だから言い返せない・・・」
テイラーはガックリとする。
「一番の固定客と言えばタケオぐらいで、あとは騎士団員の数名と、魔法師小隊員がちらほら武器を見に来るくらいか?
先週の客数は何人だったか・・・」
ニオは考えながら言う。
「最近は実入りも良いさ!」
「ほぼタケオの依頼だがな。」
「う・・・だが襟しょ」
「襟章もタケオのトレンチコート関連だな。
数百着分作ったら、あとは毎年新人分ぐらいしか収入がないな。
タケオに雇って貰ったらどうだ?」
「何だが今日はいつにも増して口うるさいな・・・」
テイラーが難しい顔をさせながら呟く。
「老婆心だな。」
「まぁ・・・ありが」
「で、いつ結婚するんだ?」
「ぐっ・・・」
「全く・・・いつになったら結婚するんだか・・・
そもそもテイラーは引きこもりだし、女性と出逢えないのか・・・」
仁王はやれやれというジェスチャーをする。
「引きこもりではないよ!
ちゃんと買い物も行くだろう?」
「・・・テイラーは王都の時から本の虫だったからなぁ。
まぁそのお陰で我が呼ばれたのだが・・・研究はテイラーには合っていたのだろうな。
タケオの小銃も楽しそうに改造しているし。」
仁王はしみじみいう。
「客商売よりもキタミザト様相手の方が面白いのは確かだね。」
「そうか・・・」
仁王は「仕事も結婚相手もタケオに相談するかなぁ」と親心を発揮するのだった。
「で、その大荷物は何なのだ?」
「これは王都から仕入れた武具だね。」
「また売れない物を・・・」
「いやいや、あそこの問屋は良い物を仕入れているよ。
鑑定で見ると値段の割りに高付加だね。」
「そうなのか?我はわからんが・・・」
「残念だけど、この街の工房が作る物より付与の技術が上手いんだよね。
毒や強化が高効果な付与がされている剣もあるし。」
「それでも付与されている魔法は、たかが知れているのだろう?」
「まぁね。
普通なら、強化を入れて刃こぼれや錆が出ないようにさせたり、簡易な毒を入れて相手を軽く痺れさせるぐらいしかしないね。
それに、色んな付与を入れても宝石が多くなるだけだから、消耗品としては価格に合わない効果でしかないかなぁ。
王家の宝物庫に収蔵されるなら別だろうけどね。」
「ん?・・・テイラー、魔法武具は宝石をゴテゴテさせるのが一般的なのだよな?」
「そうだね。」
「魔法刻印はどうなのだ?」
「ニオ、何で知っているの?」
「我だからな!」
仁王は胸を張る。
「アズパール王国で魔法刻印が出来る工房は、王都にしか居ないとされているね。」
「そうなのか?
テイラーもタケオの指輪でしていたろう?」
「私の場合は、王家の宝物庫にあった魔法刻印が施されている魔法具を鑑定して、効果が良い物があればその刻印を真似る練習をしていたんだよ。
そしたらいろいろ出来るようになっただけだね。」
「相変わらずの天才ぶりだな。」
「天才は努力をしないと思うけどね。
それに真似る練習はかなり地味だしね。」
仁王の言葉にテイラーが苦笑する。
「そうでもないだろう。
で、なんでこの国では流行らないんだ?」
「なんと言うか・・・一時期は流行ったらしいんだけど・・・
どうも歴史を見ると、かなり昔に王都の意向で魔法刻印が出来る工房を、ある村に集めて集中的に新しい刻印の研究をさせたらしい。」
「ふむ。」
「だけど、そこを魔物に襲われて、魔法刻印が出来る工房が全滅しかけたらしいよ。
その反省から、王都で魔法刻印が出来る工房を保護しているんだ。
なので、なかなか地方の工房ではお目にかかれないかなぁ。」
「そうなのだな。」
「まぁ、本職が見たら私の刻印はまだまだなんだろうね。」
テイラーの説明を仁王は真顔で聞いているのだった。
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