第445話 第1皇子一家の屋敷の厨房。武雄の苦言。
「キタミザト子爵殿、こちらが当家の厨房になります。」
と執事長を先頭に厨房に入ると。
「「「いらっしゃいませ。」」」
と、全料理人が立って武雄達を出迎えた。
すると男性が1人近寄って来る。
「キタミザト殿、私がここの料理長をしております。
本日は、ご教授の程、お願いいたします。」
「いえ、こちらも無理を言ってしまって申し訳ありません。
ですが、今日のデザートをアン殿下が作ることが本題です。」
「はい。クリフ殿下よりそのように我々も指示を受けています。
まずは何を用意するのでしょうか。
食材に関してもこの町で手に入る全食材をご用意出来ていると思います。」
料理長が聞いてくる。
「使うのは、卵と牛乳、砂糖もしくはハチミツです。
陶器の器はどのくらいありますか?小口の物があると楽なのですが・・・
そしてフライパンとそれにふたが出来る板を用意してください。
あとは卵を混ぜたりするのでその容器等々を用意してください。」
「わかりました。
おい、今キタミザト殿が言った物がどのくらいあるのか確認しろ。」
料理長が部下に指示を出し始める。
武雄はその様子を見ながら隣の執事にしか聞こえないくらいの声量で呟く
「執事殿。」
「はい。」
「今回の事の顛末を知っていますか?」
「私も殿下達と一緒に、マイヤー殿とヴィクター殿の説明を聞いております。」
「そうですか。
殿下の・・・いや他家の内情についてアレコレ言いたくはないですが、一言言わせて貰っても構わないですか?」
「はい、謹んでお聞きいたします。」
「まぁ、事の経緯は簡単です。
殿下妃方の寂しそうな顔を見て笑顔になって欲しいとアン殿下が望み、真っ先に私の所に来ました。
これは第1皇子一家が抱える料理人達が作り出す物よりも、私が作る物の方が上だとアン殿下が思ったからです。」
「はい、その通りかと。」
「王家の料理人は王都に次ぐ料理を作っているのではないのですか?
その料理人達に何の相談もせずに私の所に来た・・・ここの料理人は主人達を満足させていないという事になりかねないと思いますが?」
「ご指摘の通りでございます。
これから皇子ご一家が王都にお出かけになりますが、お留守の間に使用人全員に叱咤激励をする所存です。」
「そうですか。執事の方がわかっているのであれば良いです。
少なくとも私はこの件を他の王家の方々以外に言うつもりはありません。」
「他の王家の方々には言うのでしょうか?」
「ええ、言わざるを得ないでしょう。
今までは王都とエルヴィス家のみで作っていたプリンを第1皇子一家に教えるのです。
他の王家に教えないなんて事があれば・・・エルヴィス伯爵にとばっちりが行きかねません。
大事な主達を私の一存で不遇にさせる訳にはいきませんよ。
そして、教える際にどうしてもこの件を話さないといけないと思います。」
「確かに・・・その通りでございますね。
ですが、何分、外聞があまりよろしくありませんので、あまり拡散されないようお願い申し上げます。」
「私としても大声で言うつもりはありませんが・・・どうしても噂程度は出てきてしまうでしょう。
ならば、アン殿下が家族思いであるという事を前面に出して、先んじて噂を作ることも必要かと思います。
王都とエルヴィス家にしかない秘蔵のお菓子を、アン殿下が家族への思いから必死に学んだと、誇張ありで伝えるしかないでしょう。」
「・・・そうですね。
あとで皇子ご一家と話をしてみます。」
「ええ、それがよろしいでしょう。
噂は早く出した方が効き目はありますので。」
「はい。」
執事長が恭しく礼をする。
と、料理長が近寄って来る。
「キタミザト殿、食器や食材を見ていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」
「はい、構いません。」
武雄は料理長と器材や食器、食材を確認するのだった。
・・
・
武雄達は料理長と軽い打ち合わせをしてから客間に戻ってきた。
執事長が扉をノックする。
中から「どうぞ」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
中には第1皇子一家がお茶をしていた。
「失礼いたします。
キタミザト子爵殿が料理長との打ち合わせからお戻りになられました。」
「そうか。
タケオ、うちの厨房はどうであった?」
「はい、クリフ殿下。
流石は王家の厨房ですね。
いろんな食材があって、いろいろ作りたいと思ってしまいます。」
「ふむ、タケオなら好きなだけ料理をしても良いぞ。
だが、私達の分も作ってくれるのならな。」
クリフが苦笑しながら言ってくる。
「タケオさん、アンから聞きましたが、今日は配下の者の為に夕飯を作りたいという事なのですってね?」
セリーナが武雄に聞いてくる。
その言葉にアンが背筋を伸ばして緊張する。
「・・・ええ、そうですね。
話の流れでそうなってしまいましたね。
あ・・・アン殿下のお誘いを真に受けて訪問してしまいましたが・・・ご迷惑でしたか?」
「いえいえ、タケオさんならいつ来ても厨房も貸すし、食材も好きなだけ使って良いわ。
でも、クリフが言う通り私達の分も作ってくれることが条件よ。」
ローナが答える。
「なるほど。
私の部下の分だけのつもりでしたが、多少多めに作る必要があるのですね。」
「ええ、頼めるかしら?」
「構いませんが、あくまで家庭料理ですのであまり豪勢ではないですが・・・よろしいですか?」
「ええ、十分よ。」
セリーナが答える。
「わかりました。
あ、そう言えばアン殿下が私の調理風景が見たいと言っていましたね?」
「え・・・
はい!そうです!タケオさんの料理している姿を見たかったのです!」
アンは汗をかきながら言ってくる。
「そうか、一流の料理人を見るのも勉強になるだろう。
タケオ、アンが邪魔をするかもしれないが、面倒を頼む。」
クリフが頭を下げる。
「いえ、クリフ殿下。好奇心は大切な事です。
アン殿下のお心は大切にするべきだと考えます。」
武雄もクリフに礼をする。
「では、アン殿下、参りましょうか。
殿下方、また後程参ります。」
と武雄達はアンを連れて退出していった。
・・
・
「はぁ・・・タケオさんに感謝ね。
あぁも話を合わせてくれて助かるわ。」
ローナがうな垂れながら言ってくる。
「全くだな。で、タケオは厨房で何か言っていたか?」
「はい、苦言を承っております。」
執事長はさっきの武雄の提案を夫妻に説明するのだった。
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