第444話 第1皇子一家の屋敷に到着。
武雄達はクリフの屋敷の門前に到着した。
「着きましたね。」
武雄が抱っこしているアンに言う。
ちなみにミアは武雄の懐から屋敷を眺めている。
「・・・はい。」
アンは緊張した面持ちで答える。
「ふふ、緊張していますね?」
「だって!タケオさんが『屋敷に着いたら怒られますよ』なんて言うから!」
「当たり前です。
親や屋敷の者に無断で屋敷を抜け出したのですから、怒られて当たり前です。
アン殿下はそこらの領民とは違うのですよ?
ちゃんと立場という物を考えましょう。」
「うぅ・・・はい・・・わかりました。」
アンは半ば諦めたのかガックリとする。
門を通って屋敷の玄関に着くと執事服を着た者2名が待っていた。
「アン殿下、おかえりなさいませ。
そしてキタミザト子爵殿、妖精のミア殿、ジーナ殿、王都守備隊のアーキン殿、バート殿ようこそお出で下さいました。」
と深々と礼をしてくる。
「た・・・ただいま戻りました!」
武雄から降りたアンが緊張しながら答える。
「出迎えありがとうございます。
突然ご訪問をしてしまい申し訳ございません。」
「いえ、アン殿下を保護していただき、私どもも安堵しております。」
と執事長が礼をする。
「ヴィクターもご苦労様です。
どうしてこちらに?」
「はい、主。クリフ殿下が私に『執事の仕事を見てみては?』とご提案をされまして、失礼とは思ったのですが、エルヴィス家に着く前に勉強をしようと、執事の仕事を見させて頂いております。」
「なるほど。王家の執事です、超が付くほど1流です。
見て学ぶことは多いでしょう。
執事殿、私の部下がご迷惑をかけて申し訳ございません。」
武雄が執事長に礼をする。
「いえ、こちらとしても気持ちを正す事が出来ますので、ありがたいと思っております。
また、料理長以下皆がキタミザト子爵殿の料理を見る為に準備をしておりますのでご安心ください。」
「そう言って頂きありがとうございます。」
「さ、屋敷の中にどうぞ。」
と、玄関を執事長が開け、武雄達は屋敷内に入るのだった。
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「すぅーはぁーすぅー・・・」
アンが客間の扉前で深呼吸をする。
武雄達は一歩下がってそんなアンを見守っている。
「行きます!」
アンは覚悟した表情をしながら呟くと。
「畏まりました。」
と執事長が扉をノックする。
中から「どうぞ」と許可が下りるのを確認し、扉を開け入室する。
中には第1皇子夫妻とマイヤーが居た。
「失礼いたします。
アン殿下がお戻りになりました。
また、キタミザト子爵殿と配下の方々もお見えです。」
「そうか。
タケオ、面倒をかけたな。」
クリフがアンよりもまずは武雄に声をかける。
「いえ、クリフ殿下。ご息女のアン殿下と散策を楽しませていただきました。
ローナ殿下、セリーナ殿下、お久しぶりでございます。」
武雄が両妃に礼をする。
「ええ。タケオさん、到着早々に面倒をかけて申し訳ありません。」
「パットの件と言い、関での件と言い・・・本当に申し訳ありません。」
両妃が立ち上がって深々と頭を下げる。
「いえ、頭をお上げください。
さてと、とりあえず挨拶もしましたから・・・クリフ殿下、私共は少し厨房を見させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない。」
「ありがとうございます。
では、クリフ殿下、30分後に再度こちらに参ります。」
「あぁ、わかった。
料理長には説明をしてある。
足らない物があるなら追加で買って来させるから気兼ねなく言ってくれ。」
クリフが懐中時計を見ながら言う。
「はい、畏まりました。
皆行きますよ。
クリフ殿下、ローナ殿下、セリーナ殿下、また後程に・・・失礼いたします。」
と武雄達と執事長が退出して行った。
アンは心の中で「タケオさん!一緒に居てくれないの!?」と泣き言を言うのだった。
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「さて、挨拶は終わりましたから厨房に行ってみますか。」
「キタミザト子爵殿、こちらになります。」
と執事長に先導され一行は移動をするのだった。
「キタミザト殿、アン殿下がお戻りになる前に打ち合わせを行いましたのでご報告を。」
マイヤーが武雄に今までの客間でのやりとりを報告するのだった。
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「・・・」
残されたアンは何も言えず、親の前で立ちすくんでいたが、意を決して声を発する。
「お・・・お父さま、お母様方、何も言わずに外出して申し訳ありませんでした。」
アンが深々と頭を下げる。
「とっても心配しました。」
セリーナがため息混じりに呟く。
「私達だけでなく、屋敷の者皆が心配しました。」
ローナも呟く。
「うぅ・・・」
アンが涙目になりながら顔を伏せてしまう。
「アン。」
「・・・はい。」
クリフに呼ばれアンが弱々しく返事をする。
「私も、帰って来たらアンが行方不明と聞いて心配したんだよ。」
「・・・ごめんなさい。」
「アン、次からはちゃんと事前に外出する旨を誰かに言いなさい。」
「はい・・・わかりました。」
クリフの言葉にアンが頷く。
「アン、別に咎めるつもりはないのだよ。街の様子を見るのも大事な事だしね。
だが、ちゃんと誰かに言わないと皆が心配するし、無用な人手をかけてしまう。
そのことに今後は注意することが必要だ。わかったね?」
「はい、お父さま。」
「で、タケオの所に行ったらしいが・・・何しに行ったんだい?」
「え?・・・マイヤーやヴィクターから何か言われてないのですか?」
「ん?私達が受けた報告は、アンがタケオさんの所に遊びに行ってお茶をしているという事と、タケオさんが夕飯を作りたいので厨房を貸して欲しいとの事だけですよ?」
セリーナが言うと2人が頷く。
「・・・えーっと・・・」
アンは悩む。
武雄からプリンの作り方を教えて貰う事を依頼し、親に無断で条件を飲んだ事を説明するべきか・・・
「タ・・・タケオさんがですね!
部下の方々の夕飯を作りたいと言ったので、う・・・うちで作って貰おうと提案しました!」
アンは汗をかきながら嘘をつく。
「ふむ・・・私は別に構わないが・・・
アン、いくらタケオの料理が最高級だとしても誰にも相談せずに決めてはいけないね?」
「うぅ・・・ごめんなさい。」
「そうね・・・次からはちゃんと私達か屋敷の者に相談してから決めなさい。
まぁ、今回はタケオさんの料理がこっちにも来そうですから大目に見ますけど。
基本的には他人に厨房を貸すことはしませんからね?」
「はい、ローナお母様。」
「で?タケオさんは何を作るの?
アンは何か言ったの?」
「え・・・それは・・・わかりません!」
アンは視線を泳がせながら答える。
「そう・・・もうすぐタケオさんが戻って来るからその時に聞きますか。」
セリーナが頷く・・・が、アンは「聞いちゃうの!?」と冷や汗が滝のように流れるのだった。
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