第442話 第1皇子の長女の出迎え。
クリフの屋敷がある街に武雄達が到着し、明日の何時に出立か聞いたのちに一旦解散になっていた。
武雄隊は宿に皆が入り各々の部屋に向かった。
そして武雄は自分にあてがわれた部屋の扉を開けたのだが・・・
「タケオさん!おかえりなさい!」
室内には第1皇子の長女アンがおり、元気に挨拶をし綺麗なお辞儀をする。
武雄は、しばし固まりミアはポケットの中で震えていた。
「アン殿下、お出迎え感謝いたします。」
武雄は持ち直すと深々と頭を下げる。
「で、どうしてこちらに?」
「廊下で待って居たのですが、タケオさんの部屋の位置が聞こえたので中で待っていました。」
「そうでしたか、ご足労をおかけして申し訳ありません。
ですが、アン殿下。殿方の部屋で先に待って居るのは少し外聞がよろしくありませんね。
この待ち方はアン殿下がご婚約をされた方にしかしてはダメですからね?」
武雄は優しくアンに言って聞かせる。
「そういう物なのですか?」
アンが首を傾げながら聞いてくる。
「はい。
もちろん、仕事などでしなければならない時もありますが、普通の生活をされているならば、基本的に女性が自身の婚約者に対してのみ許された特別な待ち方なのです。
誰にでもして良い物ではありませんね。」
「アリス様もタケオさんにはしますか?」
「はい。アリスお嬢様は私のみにしてくれますよ。」
「そうだったのですね。
じゃあ、私も婚約者が出来るまで殿方の部屋に先に入って待つのはやめます!」
「はい、それがよろしいでしょう。」
と、部屋の扉がノックされる。
「どうぞ。」
と武雄が返事をするとヴィクターとジーナが入って来る。
「主、お疲れ様です。
おや?お客様がいらっしゃいましたか。
お客様、気が付かず申し訳ございませんでした。」
「いえ、お構いなく。
私は第1皇子クリフの長女でアンと言います。」
アンは礼を2人にする。
「失礼いたしました、アン殿下。
私はヴィクター、こちらが娘のジーナです。
キタミザト様の家令兼執事をしております。」
「あれ?タケオさん、従者が居ましたっけ?
王都で見かけませんでしたが?」
「ええ、疑問はもっともですね。
カトランダ帝国で雇いました。」
「へぇ、タケオさんが見つけたのですか?」
「いえ、ミアが見つけました。」
「ミア殿が・・・ふーん・・・首輪かぁ。
奴隷ですか?」
「良くご存知ですね。」
「はい、豪商が連れているのを見たことがあります。
タケオさんも奴隷を買ったのですか?」
「はい、買いましたね。
25年私の下で働けば奴隷契約を解除する約束をしています。
給金も2人で金貨6枚にして貰っています。」
「ちゃんと給金が出るなら安心ですね!
それにしても、なぜ解除なんですか?せっかく買ったのに手放すのですか?」
「ええ、私は奴隷が欲しかったわけではなく優秀な部下が欲しかっただけですので。
それに、25年働けばいくらかこの2人にも貯蓄が出来るでしょうしね。
第3の人生はそれを元手に好きに過ごしてもらいたいです。」
「その後はタケオさんの下に優秀な部下がいなくなってしまいますよ?良いのですか?」
「良くはないですが・・・25年あればこの2人以外にも優秀な者に出会えるでしょうし・・・
まぁ、25年後に他に居なかったら、その時に考えれば良いでしょう。」
「はぁ。」
アンは生返事を返す。
「アン殿下、こちらにはお1人で?」
「はい、1人で来ました。」
「お母様方や屋敷の者にこちらに来る旨は言ってありますか?」
「いいえ、タケオさんに頼みたい事があったので・・・」
「そうですか。ジーナ。」
「はい、ご主人様。」
「マイヤーさんに『アン殿下が1人で遊びに来ている』と伝えてください。」
「わかりました。
アン殿下、失礼いたします。」
とジーナが部屋を退出していく。
「さて、待っている間に皆のお茶でも用意して・・・あれ?」
武雄がお茶の用意をしようとして棚の中を見て気がつく。
「主、どうされましたか?」
「マイヤーさん達の分がないですね。
ヴィクター、すみませんが受け付けに行って、3人分持ってきてください。」
「畏まりました、失礼いたします。」
とヴィクターが退出していった。
「タケオさん。」
「はい、何でしょうか?アン殿下。」
「タケオさんの執事・・・どこかの貴族ですか?それともどこかの貴族の家で働いていましたか?」
アンの一言に武雄が驚く。
「どうしてそう思いますか?」
「所作です・・・普通の民ではああいう動きは出来ないでしょう。」
「そういう物なのですか?」
「はい、ちょっとした事なんですが・・・
例えば、扉に向かう際に振り返る時の足の向け方ですかね?
あの2人は綺麗なんですよ。」
「なるほど。」
武雄は「アン殿下は見る目がある方なんだなぁ」と思うのだった。
・・
・
部屋の扉がノックされる。
「どうぞ。」
と武雄が返事をするとヴィクター親子とマイヤーが入って来る。
「失礼します。
マイヤー殿が来られました。」
ジーナが伝える。
「はい、ご苦労様です。
ヴィクター、貰ってきましたか?」
「はい。8名分の食器とお茶菓子とお茶を用意しております。」
と、ヴィクターが3人分を机に配膳する。
「はい。よろしく。
で、マイヤーさん以外の2人はどうしましたか?」
「周辺の警戒に着きました。」
マイヤーが答える。
「はい、わかりました。」
「アン殿下、この者は王都守備隊 第一近衛分隊長のマイヤーさんです。
他に2名おりますが、警戒をして頂きました。」
「はい。マイヤー殿、ご苦労様です。」
「アン殿下。
労いの言葉、ありがたく頂戴いたします。
それと私は呼び捨てで構いません。」
「わかりました。」
マイヤーが答えるとアンが頷く。
3人分の配膳が終わり武雄とマイヤーとアンが座る。
「さて、アン殿下。
今日はどうされたのですか?」
武雄が優しく聞く。
「はい!
タケオさん!私にプリンの作り方を教えてください!」
アンが前のめりの体勢で言ってくる。
「プリンですか?」
「はい!もちろん無料でとは言いません!」
と、アンは鶏の陶器の貯金箱を出してくる。
「私のお小遣い全部です!どうか教えてください!」
「ちなみに、中にはいくら入っているのですか?」
「えーっと・・・」
アンは貯金箱の底の蓋を開けて中にある貨幣を出して並べ始める。
「・・・銀貨42枚と銅貨7枚です。」
「ふむ・・・プリンの作り方を知りたい理由は言えますか?」
「は・・・はい。
実は・・・父上が関に向かった辺りからなのですが・・
お母様方が何だか寂しそうな顔をされたり、頻繁にため息をついているのです。
『どうしたのですか?』と聞いても『何でもないわよ』としか言ってくれないのです!
それに私の前では無理に笑顔を作っている感じがあるのです!
なので!タケオさんのプリンを食べれば心からの笑顔になってくれると思ったのです!」
「ふむ、なるほど。
アン殿下の考えはわかりました。
ですが、このお金は受け取れません。貯金箱におしまい下さい。」
と武雄は真顔でアンに言う。
「え?・・・タケオさん・・・プリンの作り方を教えていただけないのですか?」
アンは武雄の態度に・・顔を伏せながら言ってくる。
「いえ・・・アン殿下からの金銭は要りません。
プリンの作り方を教える対価ですが、私が条件を挙げますので、それを呑んで頂ければお教えします。」
「え!?」
アンは驚きながら顔を上げる。
「私からの条件は4つ。
1つ。クリフ殿下、ローナ殿下、セリーナ殿下・・・家族仲良く過ごす事。
2つ。食べ物の好き嫌いを言わず何でも美味しく食べる事。
3つ。国民を愛し、国民から愛される人になる事。
4つ。王立学院に入学したならば、上位の成績で卒業する事。
以上です。
アン殿下、時間はあまりありませんが・・・少し考えて決断をしてください。」
と、武雄は席を立ちヴィクターの方に歩いて行く。マイヤーも席を立って武雄に続く。
・・
・
武雄はアンに聞こえないように打ち合わせを開始する。
「マイヤーさん、ヴィクター、今の話は聞きましたね?」
「はい、キタミザト殿。」
マイヤーが返事をしヴィクターも頷く。
「では、2人で今からクリフ殿下の屋敷に最速で向かってください。
向こうは長女が突然居なくなって混乱しているでしょうからね。なので、無事をお伝えください。
それと少し後で私とジーナ、そしてアーキンさん達と一緒に向かうと言っておいてください。」
「わかりました。
アン殿下はあの条件を呑むと思いますか?」
マイヤーが頷く。
「ええ、呑むでしょうね。
私のプリンで母親たちを笑顔にさせたいのですから・・・私が金銭では教えないとしたのです。呑むしかないでしょう。
それほど高い要求はしていないつもりです。」
「ええ。最初の2つは家族で仲良く過ごす事、後の2つは王家として国民に認められる事・・・そこまで難しくはないですね。」
マイヤーが頷く。
「屋敷に着いたら、先にクリフ殿下達にアン殿下の心情を伝えておいてください。
そして今回の件については『アン殿下を怒る必要はない事』と言っておいてください。
また、アン殿下が料理をするから料理長や執事に協力して欲しいと言っておいてください。」
「わかりました。
それにしてもアン殿下が作るのですか?」
「ええ。依頼はアン殿下に作り方を教える事です。私や料理人達が作る事ではないでしょう?」
「まぁ・・・そうですけども。」
「平気ですよ。最初から最後までやって貰おうとまでは考えていないですから。
火おこし等の危ない所は料理長にして貰います。」
「はぁ・・・一応、その旨も殿下達にお伝えします。」
「ええ、向こうで判断するでしょう。」
と武雄は顔をアンに向ける。
「アン殿下、どうしますか?」
「タケオさんが良いなら、その条件でお願いします!」
「はい、畏まりました。
では、マイヤーさん、ヴィクター、すぐに屋敷に向かいなさい。
あと、いろんな店を回りながら行くので、少し遅くなりますとも伝えておいてください。」
「はい。
ではアン殿下、我々はこれで。」
「は・・・はぁ、わかりました。」
アンは何でマイヤー達が先に行くのかわからず生返事を返す。
と、マイヤーとヴィクターが退出していった。
「さてと。アン殿下、ジーナ、クリフ殿下の屋敷に向かいましょうか。」
「はい、ご主人様。」
「あのタケオさん?どうせ行くなら一緒に行っても良かったのでは?」
「いきなり行っても準備が出来ていないでしょう?
先に行って、料理長に協力を要請して貰っています。」
「なるほど!」
アンが頷く。
「折角街中を歩くので、少し店も見たいのですが、よろしいですか?」
「はい!うちの街も物が多いですからね!」
とアンは誇らしげに言うのだった。
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