第437話 フリップと武雄の考え。
鈴音は荷台に揺られながらさっきの武雄との会話を思い出していた。
「マネージメントかぁ。」
鈴音はこの世界に来て5年。
最初の1か月は泣いて暮らした「なぜ私が?なぜここに?」と。
親方は私の出自を聞いて、出来高払いで良いと部屋と毎日2食は提供してくれた。
いろいろ身の振り方は考えはしたが、結局はフリップの下で武器職人を目指していた。
いや、目指したのではない・・・選択肢がなかったと言うのが正解なのかもしれない。
「はぁ・・・武雄さんの所で働くと・・・管理職ってやつなのかな?私にできるかなぁ・・・」
鈴音は悩むが答えは自身では導き出せない。
「あとで親方と相談しよう。
親方・・・私が管理職になるのを認めてくれるかなぁ・・・」
そう結果を締めくくるのだった。
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「そうですか、スズネをキタミザト様の所で。」
フリップが目線は前の幌馬車を見ながら呟く。
「すみませんね、勝手に誘ってしまって。」
「いえ、構いません。スズネの知識はずば抜けているとは思います。
キタミザト様と同郷という事であれば、なおの事手元には置きたいでしょう。
それにこのまま俺・・・私の所に居ても職人として大成はしないと思っています。」
「鈴音はそこまでスジが悪いのですか?
それと私の前では特に畏まる必要もありません。
言いたい事を言って構いませんよ。他の人達にも言っておいてください。
言葉を選ばれて真意を見落としてもいけませんからね。
まぁある程度気を使ってくれるとありがたいとは思いますけど。」
武雄は苦笑しながら言ってくる。
「ありがとうございます。
話を戻しますが、スズネは知識がありすぎです。
ですが、腕がない。あと10年か20年くらい同じ物を作り続けないと自身の腕で良い物は作れないでしょう。」
「ふむ・・・確かに職人の世界で4、5年で一流になるのは難しそうですね。
でも私の小太刀も鈴音が作った様ですが?」
「ええ。40本打たせ出来が良い10本を市場には出しましたが・・・
ベテラン職人を2人付けてやっと出来ている程度です。
このままあと10年、いや20年は鉄を打ち込んでいかないといけないでしょう。
その間、スズネの知識を埋もれさせるのは勿体ないと思います。
ですので、スズネにはキタミザト様の誘いに乗って貰い俺たち職人を指揮する方に回って欲しいものです。」
フリップがそう言う。
「ふむ・・・私から言っておいてなんですけど、あの若さで職人を従えさせられると思いますか?」
「少なくとも俺やビセンテとシントロン爺さんは問題ないでしょう。」
「なるほど・・・ふむ、増々鈴音は私の下に置きたいですね。」
「と、言いますと?」
「アナタ達3人は私の命令では言う事を聞かなそうですから。」
武雄がクスクス笑う。
「ちゃんと聞きますよ?」
「本当に?・・・今はとりあえず懐中時計と小銃ですけどね・・・
もっと他に作ってくれと言って来たら私が言うのと鈴音が言うのとでは動きが違うのでは?」
「・・・何を考えているので?」
「ふむ・・・アナタ達に私の考える盾や防具等々の試作をして欲しいのです。」
「盾?・・・・木を加工するのですか?」
「今の所、鉄を加工して軽量であり強度が今の数倍を目指したいとは思いますが・・・
まぁ私は発案をするので、実質の研究は別の者にさせます。
その者の意見を職人が聞くかなぁ・・・と。
私がいつもアナタ達に依頼しには行けないでしょうからね。
鈴音に私の配下となって貰いフリップさん達と研究する者の中継をしてもらおうかと今思いました。」
「なるほど。キタミザト様かスズネに言われるのなら私達は従いますが・・・それ以外だとあまり印象が良くないかもしれませんね。」
「ええ、その者にも努力はさせますし、アナタ達にも努力はさせますが・・・
鈴音が同席した方が双方とも意見を和らげそうでしょう?
当面はそうやって行くのが一番かと。
それに実質的な交渉はその者にさせますので、鈴音が管理や研究を知る良い機会になるでしょう。
鈴音に2つほど研究テーマを与えますが・・・実質は1つです。
小銃の改良は別の者にさせますので。」
「そういえば、小銃の研究とは何をさせるのですか?
今のままではいけないのですか?」
「ふむ、まぁ他領へ売るならそうでしょうね。」
「・・・外には出さないのでは?」
「ええ、今は出す気はないですよ。
売り出すなら最低でもこっちの体制が整ってからでしょう。
それは他の領地に対してもですがね。
それにまずは量産化する前にあの小銃の弱点を1個解消させたいのですよね。」
「弱点ですか・・・いまいちわかりませんが。」
「連射性です。」
「え?アレを連射させるようにするのですか?」
「ええ、少なくとも数発は連射をさせた方が実用的でしょう。
わざわざ1発撃って弾丸を入れ替えてまた1発・・・入れ替えてる間に敵が近寄って来てしまいます。
なので、ある程度連射をさせられればもう少し運用の幅が増すでしょう。」
「・・・そんな考えが・・・流石にキタミザト様ですね。」
フリップが唸る。
「まぁ、あの小銃を運用させるならば考える事ですよ。
それに連射性を高めるのであれば弾丸の消費量も増えるでしょう。
今は弾丸の製造個数は月産どのくらいなのですかね?」
「さて・・・ビセンテに聞いてみないと・・・
キタミザト様はどのくらいが理想ですか?」
「そうですね・・・最初は月産2000発かな?」
「2000・・・」
フリップが驚愕の表情をするが武雄は気が付かない。
「まぁ・・・その辺もフリップさんが頭になって考えておいてください。
数年後にはもう少し多く必要かもしれませんから。」
「わ・・・わかりました。」
「じゃ、私はこれで。」
と、武雄が先頭に戻って行く。
「はぁ・・・製造体制をどうするか皆で考えないといけないな・・・」
フリップはため息をつきながらその後ろ姿を見送るしかなかった。
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