第436話 38日目 鈴音と話そう。
昨日は宿に入ってからヴィクター親子に武雄自身の出自やコートの事、エルヴィス領内で行おうとしてる3案件の大まかな話、そして小銃の概要(大まかな歴史と小銃の仕組み)や今回のカトランダ帝国への視察目的を話したのだが・・・
ヴィクター達は武雄の出自よりも政策の話に食いついてきた。
結局、夜遅くまでヴィクター親子に質問攻めをされていたので列席者のミアもマイヤーもお疲れモードです。
「眠いですな。」
マイヤーが欠伸をしながら言ってくる。
「ええ、眠いですね。」
「ミア殿は?」
「内ポケットで朝寝です。
昼には起きて来るでしょうね。」
武雄は苦笑しながら隣を見ると「何の事?」とヴィクター親子が素知らぬ顔をしている。
「そうだ、少し鈴音と話をしてきます。」
「わかりました。」
武雄は鈴音がいる幌馬車に向かう。
・・
・
「武雄さん、寝不足なのですか?
欠伸をさっきからしていますが。」
鈴音は荷台の端に座りながら言ってくる。
武雄は荷台のすぐ後ろを行きながら話している。
「ええ、昨日ヴィクター達とついつい話し込んでしまいましてね。」
「そうなんですか・・・どんな話を?」
「私の出自や街で行っている活性化案とかですね。」
「出自を話したのですか?」
「ええ、あの2人は私の執事をしますからね。
私の事や私がやりたい事を知っておかないと仕事が出来ないでしょうから。
ただ・・・出自の話はあの2人は『そうなんだ』程度ですね。
興味はないようでしたよ。
まぁだからと言って誰にでも話して良い訳ではないですけどね。」
「そうですね。」
鈴音が頷く。
「ちなみに街の活性化案とはどんな物なのですか?」
鈴音に武雄は今やっている活性化案を説明するのだった。
・・
・
「そんな手があったのですね。」
「切っ掛けが私だっただけですよ。
鈴音もやっていたでしょう?」
「いえ!私は目に入ったものを説明しただけです・・・武雄さんはちゃんと周りを動かしていて凄いです。」
鈴音は「流石、大人だぁ」と感心しながら言ってくる。
「私もコート以外は説明しただけですよ。
私の拙い説明を実現できる技術と実施できる資金と運営できる人が近くにいただけです。」
武雄は苦笑する。
「そういう人達を動かすのは楽しいのですよ。
鈴音、私の下で研究をしてみませんか?」
「研究ですか?」
「はい。
私から研究テーマを与えますからしてもらえませんかね?」
「はぁ・・・でも私なんかで良いのですか?
あまり役に立たないと思いますけど。」
「ふふ、人の価値を決めるのは他人です。
鈴音は私にとっては役に立つ人間ですよ。
それでですね、実は困ったことがあるんです。」
「武雄さんが困る事などあるのですか?」
「いっぱいありますよ。
そう見えないのは、ただ単に見えないようにしているだけです。
往々にして問題が発生した時に声高々に喚いても事態は好転する物ではないですからね。
それに問題が発覚したなら発覚した時に対応した方が後で対応するよりかはマシな対応が出来ます。
『これは怒られるかな?』とか『これは嫌味を言われるかな?』とか考えて後回しにしていると最初小さかった問題が大問題に発展したり、物事の修正が不可能になることがありますからね。
それに問題が小さい時の方が他の人への負担が小さいですから。
鈴音ももう大人でしょう?問題が発覚したら即対応を心掛けないと信用を失いますよ?」
「はい・・・ですが・・・」
「鈴音、すぐに即対応出来るようになりなさいとは言いません。
ですが、自分の受け持っている仕事で問題が発生した時に何が問題なのか、その解決策の考察とかかる費用等を考えた上で解決策を上司に相談する努力をしなさい。
問題が発覚したら何も考えずに『どうしましょう?』と聞けるのは新人だけですよ。
良いですか、そうやって物事を考える努力をしないといつまでたっても使える人材にはなりません。
問題の提議だけなら小学生でもできます。
大人を大人足らしめるのは発生した問題の的確な考察と解決策の提案が出来るからです。
鈴音、少しずつで良い、ちゃんと使える人材になりなさい。」
「はい、わかりました。
で、武雄さんの言うやって欲しい事は何ですか?」
「おっと、説教臭くなってしまいましたね。
私が鈴音にして欲しいのはズバリ!小銃の研究とモーターの開発です。」
「小銃はわかりますが・・・モーターとは?」
「ふむ、実はですね、川を使った貨物輸送体制を作ろうと思っています。」
「輸送ですか?」
「そうです。
鈴音は運送業というのはわかりますか?」
「クロ●コですよね?」
「そうですね、宅配業は運送業の1種ですね。
・・・まぁほとんど一緒でしょうね。
実はアズパール王国の街間ではほとんどが陸送・・・幌馬車で物の移動をしているのです。
なので、物を送るのに4、5日かかるのが当たり前です。」
「はい。」
「私が住んでいる貴族領には他の近隣3貴族領にも流れる大きな川があって水深も4m~25mと船を浮かべられる深さがあると考えています。
なので、まずはこの3貴族領向けに商品を迅速に売る為に船での輸送網を構築しようと思います。
そうすれば3日かかっていたのを2日とか4日かかっていたのを3日とか短縮出来ると思うのです。
そのためには幌馬車2台分の品物を乗せられる小型輸送船の開発が急務なのです。」
「はぁ・・・」
「船自体は既存の物を使って行いますが・・・聞くとどうも風頼りの船しかない様なのです。
風が吹かなかったら魔法師が風を起こし船を進めるのだそうですよ。
なので私はこの小型輸送船の動力部を作ろうと思ったのですが・・・」
「ですが?」
「いや・・・実はこれ以外でも盾だったり温泉の視察だったり米を作らないといけなくてですね。
さらにはコートの続編のダウンジャケットを考えたり、料理をいろいろ作ったりとやることが目白押しなのです。」
「・・・なんでそんなにポンポン発案するのですか?」
「いや、話の流れで・・・
なので、鈴音に小銃の改良と船の開発をお願いしたいのです。」
「あの・・・したことがないのですが。」
「あぁ、私もありませんよ。
でも見た事があるのです。漠然的にでも知識はあるのです。
なら自分が出来ないなら出来る人を探す事に注力するべきなのです。
・・・鈴音。」
「は・・・はい。」
「私は鈴音が物を作ることを求めていません。
鈴音が自らの意思で作るのは勝手ですがね。
私は鈴音が自らの手で物を作る事よりも職人達と打ち合わせをして物を製作するようなマネージメントを求めています。
小型輸送船の計画、設計、試作、試験、量産の全てを考えながら物を産み出して欲しいのです。」
「マネージメントですか・・・
やったことはないので不安なのですが・・・」
「誰しも初めてはありますよ。
ですが、鈴音は私と違ってフリップさんやビセンテさん達職人の知り合いがいます。
知り合いを頼りながら物造りをしてみてはどうでしょう。
それに急務とは言いましたが・・・そこまで急いで考える必要はないでしょう。
小型輸送船はとりあえず帆船で考えておけば当面は済むかもしれませんね。 なので、失敗が可能で納期は長いので割りと楽ですよ。」
「・・・親方と話し合ってみます。」
「ええ、それで良いでしょう。」
鈴音は何やら考えながら頷くのだった。
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