第435話 37日目 ヴィクター親子に説明を。
「・・・面倒だなぁ。」
武雄が騎乗で呟く。
武雄達はアシュトンの息子を見送ってから自分たちの隊に戻って、今は移動中。
武雄、マイヤー、ヴィクター親子で武雄隊の先頭をのんびりと行く。
「キタミザト殿、今度はどうしましたか?」
マイヤーが聞いてくる。
「いや、既存の貴族達からは私は成り上がり者と見られているんだなぁと認識しましてね。
アシュトン子爵の息子さんと挨拶をした際の目が・・・まぁ見下していたんですよ。」
「なるほど。まぁ客観的に見ると、王家に取り入ったように見えるかもしれませんね。」
「ええ、なので私の事を訝しむ人もいるでしょう。アレみたいに。
それが面倒だなぁと。」
「キタミザト殿は付随する功績がありますから、まだ周りは大人しいとは思いますよ・・・
他の新任貴族方の方がいろいろ言われているのではないですか?」
「私と比較してですか?」
「ええ。
流石に400体のオーガとゴブリン相手に500名の兵士を指揮して死傷者なしの上に殲滅させ、お一人での戦果もオーガ32体、ゴブリン30体以上ですからね。
それもお忍びとは言え、陛下を守る為なのですから・・・これ以上の戦果は上げられないでしょう。」
「ちょ・・・ちょっと待ってください!?
マイヤー殿、なんですその戦果は!?」
ヴィクターがマイヤーの発言に驚きながら聞いてくる。
「キタミザト殿のこの間の初陣の話です。
ヴィクター殿、やっぱり異常ですよね?」
「人間種が叩き出せる戦果ではありません!
我々獣人の高位でなければ出来ないと思います!」
「おや?ヴィクター。
残念ですが、私が叩き出した戦果ですから人間種でも可能だという事ですよ。
ただ遠距離での成果ですから・・・接近戦ではここまでの戦果は出なかったでしょうね。」
武雄は苦笑しながら言う。
「?主の魔力量は無尽蔵ですが、1回につき25までしか使えないのでは?」
「ええ、その通りですね。」
「どうやってオーガを遠距離で倒せたのでしょうか?」
「簡単ですよ。私専用の魔法具を作っただけです。」
「相当強力な物なのですね。」
「ええ、そうですよ。
王都への旅の途中で私の婚約者が合流して来ますから、その際に持ってくるので見れますよ。」
「ご主人様の婚約者が来るのですか?」
ジーナが聞いてくる。
「今は王都でお留守番しているのでね。
クリフ殿下の要請でこっちに向かう予定なんです。
ブルックさん達が迎えに行ってくれています。」
「そうなのですか・・・ちなみに奥方様のお名前は何と?」
「アリスと言います。」
武雄の返答にヴィクター親子が固まる。
「・・・アリス・・・エルヴィス領・・・アリス?
ちなみにアズパール王国では、アリスという名前は珍しいのですか?」
ヴィクターが聞いてくる。
「さて・・・マイヤーさん、別に変ではないですよね?」
「はい、普通ですね。
街中でも1日歩けば1人くらいはアリスという名前の人には出会えると思いますね。」
「そうですか。
いや、エルヴィス領でアリスと言われたので、もしかしたらと思ったのですが。」
「もしかしたら?」
武雄がヴィクターに聞き返す。
「鮮紅のアリスかと。」
「あぁ、ソレです。」
武雄の返答に再びヴィクター親子が固まる。
マイヤーは「普通はこういう反応だよね?」と頷いていたりする。
「・・・ご主人様?・・・ご主人様の婚約者が鮮紅のアリスなのですか?
あの2年前の戦争中にゴブリン達に街を強襲され、見事守り抜いた?」
「はい。私の婚約者の名前はアリス・ヘンリー・エルヴィスです。
そう言えば、あれはヴィクター達が仕組んだのですか?」
「いえ。主、あの時は私達も戦場にいました。
・・・慣例の戦争だと思っていたので、別動隊を出したり等の本格侵攻は考えていませんでした。」
「そうですか、別口ですか。」
「ご主人様!それよりも鮮紅のアリスと言えばアズパール王国が誇る生きる英雄!
すぐに童話にもなり国民から絶大な人気があると聞いています!
なぜそんな方と!?」
「人気らしいですね。
ですが、鮮紅だから婚約したわけではないので・・・
私もアリスお嬢様も、別に二つ名の事について何とも思っていませんからね。
なので、なぜと言われても・・・」
「・・・主、ミア殿が主のご一家から家族のように扱って貰っていると言われていましたが・・・」
「ええ。エルヴィス伯爵やその孫のスミス坊ちゃん達からもミアは可愛がられていると思いますね。
ちなみに、私もエルヴィス伯爵邸に住んでいますよ。」
「てっきり主はエルヴィス領の上級文官かと思っていましたが・・・伯爵家の者だったのですか・・・」
「ええ、言いませんでしたっけ?」
「全く聞いていません!
国王の命を救い、街への襲撃を兵士を1兵も損なわずに殲滅し、個人でオーガ32体、ゴブリン30体を倒す武力を有して今度爵位を授与されて、伴侶がアズパール王国の英雄。
主、相当の権力を持っていることになりますけど・・・」
「それだけ並べると凄いですね。」
武雄がため息をつく。
マイヤーは口には出さないが「キタミザト殿にも二つ名を与えるか、今頃議論がなされているはずなのですけどね」と思っていたりする。
「まぁ、私や私の家族たちは自分の地位よりも街の皆が笑っていることが大事なので、爵位の有無や政争とか出来るだけ面倒事は避けたいですよね。
街や領地の発展が全てです。
で、残りの時間で周りの貴族と友好関係が結べれば良いでしょう。」
「主は無欲なのか欲深いのか・・・判断が難しいですね。」
「え?私は欲深いですよ?
ビセンテさん達のような技術者を囲い込みたい、ミアやヴィクターやマイヤーさん達のような優秀な部下が欲しい。
エルヴィス伯爵やアリスお嬢様、街の人達には笑顔で毎日を過ごして欲しいですし、私も毎日楽しんで過ごしたい。
こんなに願い事があるのです。欲深いですよ。」
と武雄が楽しそうに言う。
「はぁ・・・その辺は今日の宿で夕飯がてら聞かせて貰います。
主は私達に言っていないことが多すぎると思います。」
「その通りです!ご主人様、鮮紅のアリスが婚約者だとは思いもしませんでした!」
ヴィクターがため息をジーナがふくれっ面を見せながら抗議してくる。
「・・・あぁ、わかりました。
質問形式であれば、答えられる物については答えます。」
「「はい。」」
とヴィクター親子が頷く。
そして、遠目に今日の宿泊する町が見えるのだった。
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