第433話 37日目 マイヤーの役割。
武雄達一行はのんびりと街道を進む・・・今日は武雄は騎乗です。
「・・・面倒だなぁ」
武雄が騎乗で呟く。
「キタミザト殿、どうしましたか?」
「ん?あぁ・・・言葉に出してしまいましたか。
昨日寝る間際にクリフ殿下が来ましてね。」
武雄は苦笑する。
「ほぉ・・・確かに面倒そうですね。」
マイヤーも苦笑してくる。
「ええ、私とヴィクターに恩を売りに来ていました。」
「そうですか。
じゃあ、キタミザト殿の考え方を擁護してヴィクター殿達の待遇改善を約束でもしましたか?」
「もう少し逃げがありましたが概ねその通りですね。」
「あまり意味があるとは思えなさそうな恩ですね。
それにキタミザト殿は奴隷としてではなく部下待遇ですから。
そこまで待遇改善を迫られるとは思えませんけどね。」
「ええ。
それにクリフ殿下は基本的な所を見落としているんですよ・・・
私はそもそも貴族を特別視していないんですよね~。」
武雄がため息をつく。
「あぁ・・・アンダーセンが私に驚きを持って報告してきましたよ。
『キタミザト殿の考えはちょっと変ですが、ある意味正しいですね。
ああいう変人が多くなると楽しいと思いませんか?』とか言っていましたよ。」
「そうですか。
王都に戻ったらその辺の事は個人面談で聞きますかね。」
「あ・・・私がしゃべったとは内密に・・・」
「・・・まぁ、王都に戻ったらどうせ全員の面談があるのでしょうからその際に聞いてみましょう。
さて貴族についてですけど、アンダーセンさんにも言いましたけどね。
私はそもそもなりたいと思って貴族にはなっていないのですよね。
今すぐ返上しろと言うなら返上したって良いくらいです。」
武雄がため息をつく。
「「え!?」」
武雄の言葉にヴィクターとジーナが驚く。
「ん?どうしましたか?」
「いえ・・・その・・・マイヤー殿、アズパール王国では貴族は特権階級ではないのですか?」
「いえ、アズパール王国も魔王国同様に爵位持ちは特権階級です。」
「主は特権階級をいらないと?」
ヴィクターが驚愕の表情をさせながら聞いてくる。
「ええ。マイヤーさん、ヴィクター、ジーナ、この際ちゃんと言っておきますよ。
私にとっては貴族になる意味はほとんどないのです。
貴族でなくても研究は出来ますし、料理や衣服等々でお金も稼げるでしょう。
それでも陛下が私を貴族にしたのは、私が国外流出した場合に国が受ける損害と私への報酬額を見比べた場合、報酬の方が安いからでしょうし、研究所を私が運営することになれば私の知識を国で使えるという利益も見込んでなのです。
この時点で陛下と私の関係は国王と普通の貴族の主従関係ではなく陛下からは研究資金を、私からは知識をもたらす対等な関係なのです。
そもそも研究所の案は私が私的な研究をしたいと考えた事が始まりなのです。
それを陛下が国から資金を提供するから知識の一端を寄こせという話の発展なのですよ。
なので、私に関しては国からの束縛は緩いのです。」
「・・・主が特別なのはわかりました。
ですが、そんなことがあり得るのでしょうか?」
「さて・・・マイヤーさん。
王都守備隊の隊長としての意見を聞きたいですが・・・
私が他国から騎士団を率いてアズパール王国に攻め入ってきたらどうします?」
「・・・かなり面倒です。
負けはしないでしょうが、こちらの被害も甚大です。
ですので、陛下の考えは間違っていないと思います。
言葉は悪いですが、キタミザト殿に爵位を与えて国外流出を禁止し、多額の給金を払ってでも王国内で大人しくしてもらった方が安心です。」
マイヤーが難しい顔をする。
「王家からの首輪として王都守備隊を私の近場に配置させています。
マイヤーさん、ちゃんと私の首輪の役目をしてくださいね?」
「普通、自ら言いますか?」
マイヤーがため息をつく。
「言わなくても監視されるならする人にちゃんと先に言っておきます。
つつがなく陛下に報告をよろしく。」
武雄は楽しそうにマイヤーに言う。
「わかりました・・・はぁ・・・面倒が増えそうです。
優雅な隠居生活を夢見ていたのですが・・・」
「何を言っているのですか?
まだまだ働いて貰いますよ。
それに戦術考察だの、研究の進捗だの、予算の管理だのいろいろして貰う気でいますからね。
総監殿、覚悟しておいてくださいね。」
「うぅ・・・キタミザト所長は怖すぎます・・・」
「何言っているんですか。
一番大変そうなのは試験小隊の面々ですよ。
今まで行ってこなかったであろう訓練もさせる予定ですから。
反発もあるかなぁ?」
「え?・・・どういう事でしょうか・・・」
マイヤーが恐る恐る聞いてくる。
「とりあえずクゥの成獣状態と戦わせますかね。」
「え!?死んでしまいます。」
「死にはしませんよ。エルヴィス領の魔法師小隊全員でちゃんと回復させますし。
ただ死の淵ぐらいは見に行って貰いましょうかね。
王都守備隊のプライドを粉々にしてその後の訓練を真面目に受けさせないと今後がやり辛いでしょうからね。
私に盾突いても困りますし。」
「誰も盾突いたりなどしないと・・・」
「安易な言葉は信用しない方が良いでしょう。恐怖は身に染みてこそです。
私の命令に絶対服従、拒んだらクゥもしくはコラ組・・・どっちかで再教育ですかね?」
「んー・・・コラ殿の方が楽そうですが・・・いやキタミザト殿の事ですから・・・あの地域の魔物を統治させるのでしたか・・・もしかしてそれ全部と?」
「おや?わかってしまいましたか。
クゥ1体もしくはエルヴィス領の縄張りの主格数匹のどちらかを相手取って貰いましょうかね。
あ、でも王都守備隊員にはコラ程度では軽いかなぁ。
ならそれに私やヴィクターそしてジーナも参戦すれば良い感じになりますかね?」
「いやいやいや、止めてください。
本気で止めてあげてください。」
マイヤーが懇願してくる。
「マイヤーさん、気にしすぎです。
王都守備隊は少数精鋭なのでしょう?
大丈夫だと思いますし・・・まだまだ構想段階ですよ。」
と、武雄がクスクス笑う。
「キタミザト殿が発案すると実現しそうで怖いんですけど。」
マイヤーがガックリしながら言ってくる。
と、前を行くクリフとアシュトン一行の隊列が停止したので、武雄達も止まる。
「キタミザト殿、クリフ殿下がお呼びです。」
と、騎士団の兵が伝言を伝えてくる。
「わかりました。では、マイヤーさんも行きましょう。」
「はい。」
と武雄とマイヤーは皆を置いて列の先頭を目指すのだった。
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