第427話 クリフ時計を知る。クリフからの頼み事。
「さて、タケオ、カトランダ帝国はどうであった?」
クリフが聞いてくる。
「良い職人が手に入りました。」
「連れてきた者達だな?」
「はい。あ、お土産です。」
と武雄はクリフに懐中時計を渡す。
「うん?見慣れない物だな・・・
タケオ、これはどういった物なんだ?」
「はい、これはですね。」
武雄はクリフに懐中時計の説明をするのだった。
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「凄い技術だし、素晴らしい概念だな・・・」
クリフが腕を組んで唸る。
「カトランダ帝国では全く売れなかったそうです。」
「・・・カトランダ帝国はコレの価値がわからないのか?
この懐中時計の概念を広められたら軍事面から経済面まで一気に変わるのだが・・・」
「その通りです。
なので、うちに引き込む事にしました。」
「タケオに爵位を・・・いや子爵を与えるのは正解だな。
他の者達なら引き抜きまでの即決は出来なかっただろう。」
「そうでしょうか?」
「あぁ、引き込むのは出来るとしてもその即断が出来る者は少ない。
斯く言う私も即断出来るとは言えないが・・・」
「緊急時以外で即断をする必要がクリフ殿下にございますか?」
「私は必要だと思っている。
それに出来るようになろうとは常々思っていはいるが・・・まだまだだな。
即断するには経験が必要だ。だが・・・私には経験が少ないと思う。」
「問題点を認識されている時点で十分かとは思います。
それに無理に経験してもあまり意味があるとは思えません。」
「そうだな、その通りだ。
と、話が逸れてしまったな。
実はな、武雄と一緒に王都に戻ろうとは思うのだが構わないか?」
「はい。」
武雄は頷く。
「そうか・・・で、タケオに頼みがあるのだが・・・
アリスをこっちに呼んでくれないか?」
「それは構いませんが・・・
場所はどこにしましょうか。」
「そうだな・・・ここから王都までは緊急伝令で3日。
我々は馬車だから私のいる屋敷まで3日だな。」
「キタミザト殿。
王都からクリフ殿下邸が街までは馬で4日、馬車で6日かかるのが普通です。」
マイヤーが武雄に助言をする。
「うむ、マイヤーの言う通りだな。
・・・アリスには我が領地を越えた王領にある町で待機して貰えるか?
王都から馬で2日の位置にある町だ。
あそこなら宿が2つだけだからわかりやすいだろう。
またニール達ともそこで待ち合わせとなっている。」
「わかりました。
マイヤーさん、ブルックさんとフォレットさんにアリスお嬢様の随行をお願いしたいのですが問題ないですか?」
「平気です。
陛下よりキタミザト殿が王都に戻るまでは我らの指揮はキタミザト殿が有していると言われています。」
「わかりました。
では、クリフ殿下の言う通りに手配をしてください。」
「はい、畏まりました。
クリフ殿下、手配して参ります。」
「うむ、頼む。」
クリフが頷くとマイヤーが席を立ち詰所を退出していく。
「で?アリスお嬢様を呼ばれて何をされますか?」
「・・・実はな、この度アシュトン子爵の孫娘を私の側室に入れようかと考えている。
さっきの娘なのだが・・・」
「はい。」
「年齢が19歳と若くてな。」
「アリスお嬢様と同じ年齢ですね。」
「あぁ。本人の意思を確認してからこの話をしようと考えているのだが・・・事前にアリスから確認をしてもらいたいのだ。
私の家族だと命令になってしまう恐れがあるからな・・・
すまんが引き受けて欲しい。」
クリフが頭を下げる。
「わかりました。
ちなみにアシュトン子爵には?」
「言ってあるがな・・・本人に任せると返事を貰っている。」
「『自分の孫娘を是非に』と言わないのですか?」
「アシュトン子爵は言わないな。
家族を政争には使わない家風だ。」
「エルヴィス伯爵と同じ考えですね。」
「そうだな、だからこそ王家は信頼を寄せる。」
「・・・王家に近寄らずに虎視眈々と画策する者や逆に姉妹を使いコネを作る者・・・考えれば色々いると思いますが?」
「そうだな。
だが、アシュトン家は私が異動してくるまでの辺境伯をしていた。
爵位は子爵だが戦争が起こる際は臨時で辺境伯という役職を用意して対応していた家なんだ。」
「なるほど。今の魔王国に面している所の3貴族と同じという事ですか。」
「そうだな。あっちはゴドウィン伯爵が臨時では辺境伯だな。
アシュトン家はこの辺では一番そういうことを考えない家風なのだ。
そして割とまともだ。」
「割と?」
「あぁ、割とな。」
クリフが苦笑して武雄に答える。
「まぁ、誰しも思惑はありますか・・・」
「タケオにもあるだろう?」
「ええ。私はエルヴィス家が繁栄することが望みですので。」
「王国は何番だ?」
「ふむ・・・4番手くらいですかね?」
武雄は軽く考えてから答える。
「ハッキリ言うな・・・だが事実その順番が正しいのかもしれないな。
エルヴィス伯爵領、魔王国に面する3伯爵領・・・違うか。ゴドウィン伯爵領とウィリアムの次か・・・」
クリフが腕を組んだまま考える。
「私の知識は地域の発展ぐらいにしか使えないと思います。
あとは私がすることを見て王都で判断すれば良いかと。
王国が抱える優秀な頭脳集団が居るんでしょうから。」
「さてな・・・私はまだ向こうに住んでいないから実際の所はわからないが居るんだろうな。」
「王都はそういった者達の集まりだとは思いますが・・・クリフ殿下の周りはどうでしょうか?」
「うちか・・・地方ならではの現実主義が多いと思うが・・・優秀な者は多いとは思っている。今後は出来るだけ王国全土から優秀な者を集めたいな。」
「王都に優秀な者を集めますか・・・」
「タケオは違う考えを持っているのか?」
「違う考えという訳ではありませんが・・・中央に優秀な者を集めると地方自治に口を出しかねません・・・
現状ではアズパール王国は緩い地方分権制度です。国の特権は外交政策と地方貴族の取りまとめでしょう。
実質的な地方自治は貴族にお任せだと考えておりますが?」
「そうだな・・・」
「クリフ殿下は自分の下に権力を集中させたいと考えておいでなのですか?
簡単に言えば中央集権制度を採用しているカトランダ帝国を目指すと?」
「いや・・・そこまでは思っていないな。
現状のまま地方貴族に自治を任せ領地の発展に尽くしてくれたらと思っているが、地方行政が圧政か善政かのどちらをしているのかの判断が中央で出来ていない感じはするのは確かだな。
エルヴィス伯爵みたいに善政を敷いてくれて納税もしっかりしてくれているとこんな事を考えなくて楽なんだが・・・
現実は抜け道を使ってる者が居るのも確かでな。
その辺を何とかしたいので優秀な者を集めて対応させたいとは思っている。」
「さて・・・クリフ殿下がどうやるのか見ものですね。」
武雄が苦笑する。
「タケオは失敗すると思うか?」
「まともにやれば失敗するかもしれません。
やり方としては貴族に対して臨時監査をするという事が考えられますが・・・それは本当に監査をしているのでしょうか・・・買収されていないでしょうか。
賄賂の方法として採用されるかもしれません。」
「確かに不安要素を挙げればキリがないな。
タケオだったらどうやる?」
「私なら監査を実施する案は一旦、置いておきます。
逆に各地方貴族の文官に信用の置ける王都の文官を派遣して地方の仕事をさせて数年で王都に戻します。」
「ふむ。するとどうなる?」
「地方に数年住んで向こうの文官の仕事をしたのなら向こうの仕事の方法を学んできます。
それを王都で発揮する為には自身で学んできたことをするでしょう。
その仕事の方法や内容を観察していれば多少はわかるのではないでしょうか?
抜け道を使っていると判断したなら強制監査で査察に行けば取り締まれるかもしれません。
ですが、これも事前に内通はされるかもしれないので完璧ではありません。」
「なるほどな。しかしタケオでも対処が難しいか。」
クリフが悩む。
「クリフ殿下、私はそこまで出来た人間ではありませんよ。
それに脱税や賄賂は撲滅は出来ない物と考えた方がよろしいかと思います。」
「そうか・・・だが何とかしたいとは思っているんだが・・・」
「急激な変化は反発を招きます。
まずは信頼できる文官、武官、貴族を多く抱えてからそう言った議論を始める事が肝要です。」
「そうだな、まずは信頼作りが必要だな。」
「はい。最初から強権を発動しても上手くは行かないでしょう。もしかしたら誰も相手にしないかもしれません。
王家が独りよがりをしても権威を失墜させるだけです。
なら準備をしっかりとして対象貴族の周りを固めて臨む必要があります。」
「私は少し急いでいるのかもしれないな。
タケオが言っているのは基本だな。
その基本を忘れて考えていたのだろうな。」
クリフがため息をつく。
「まぁ、王都に異動して初回から手腕を発揮するというのは傍目から見ればカッコいいかもしれませんが・・・
いろいろとゴタゴタに繋がると思います。」
「あぁ、わかった。
もう一度、側近たちと話し合おうと思う。
あまり急すぎるのもマズいとな。」
「はい。それがよろしいかと思います。」
「さて・・・タケオ、今日は隣の町まで移動だ。
私とアシュトンと一緒に馬車で歓談してくれないか?」
「重そうな歓談ですが・・・議題は何でしょうか?」
「そうだな・・・カトランダ帝国の今後の動きについて・・・かな?」
「わかりました。行ってきた感想を述べれば良いのですね。」
「うむ、そうしてくれ。」
そう言いクリフが席を立ち武雄も一緒に詰め所を出るのだった。
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