第418話 鈴音と武雄の話し合い。
武雄と鈴音は話し合っていた。
「・・・鈴音、アナタはこの世界に小銃という概念をもたらしました。
そこまでに至る経緯をさっき聞きましたが、鈴音はこの世界をどうしようと思っているのですか?」
「え・・・この世界を?
・・・すみません、そこまでは何も考えていないです。
ただステノ工房が発展する為に新しい武器を作るべきだと思っただけで・・・」
「ふむ・・・無自覚ですか・・・
鈴音、私達の持っている知識はこの世界では使い方によってはかなりの脅威になります。
それはわかっていますか?」
「はい。随分この世界は知識を溜める事や研究をするという事をしていないとは感じています。
それに相当知識が偏っているようには思いますけど・・・」
「そう思いますか・・・ですが、この世界の人達はそれで良いと考えていますね?」
「はい。少しずつは知識を溜めているでしょうが・・・魔法が先行しているので魔法頼りの生活になっています。」
「そうですね。
私達が居た世界は魔法はなかった。
だから自分たちの技術や物事を数値化する事を選んだ世界なのです。
逆にこの世界は数値化するよりも魔法で何とかなってしまっている世界なのです。
鈴音、わかりますか?」
「はい、感覚的に処理している世界なのかと・・・えーっと・・・産業革命以前のヨーロッパなのかな?とは。」
「なるほど。」
「武雄さんはどう思っているのですか?」
「初期の中世ヨーロッパ程度の技術と文化ですかね。
まぁカトランダ帝国は近代ヨーロッパでアズパール王国が中世ヨーロッパなのかもしれませんが。」
武雄が少し考える。
「武雄さんはどういった経緯でこの世界に?」
鈴音が聞いてくる。
「私ですか?
会社の飲み会の帰りにこっちにね。
鈴音はこっちに来て5年でしたか?」
「はい。」
「私は1か月ですよ。
鈴音の方が先輩ですね。」
「え?来たばかりですね・・・大丈夫ですか?」
「全然。
ですが・・・拾ってくれた方がアズパール王国の地方の伯爵でしてね。
その方とそのご一家の為に知識を使おうと思っています。
それにアズパール王国自体が対外戦争をする気がないんですよ。」
「はぁ。」
鈴音は生返事をする。
「ハッキリ言って住みやすいのです。
そしてその伯爵が治める街の住人達は優しいんですよ。
なので伯爵の為、街の為に地域を発展させたいのです。
鈴音、私と一緒に来て街作りをしてみませんか?」
「え?・・・私を?・・・何も出来ないかもしれませんが・・・
それに親方を残してまで・・・」
鈴音はいきなりのスカウトに困惑する。
「確かに何も出来ないかもしれませんね。
ですが、私と同等以上の知識があるのです。私の助けをしてくれますか?
たぶん楽しい事半分、辛い事半分くらいになるとは思いますけどね。」
「・・・ですが・・・」
「鈴音。
この世界で精一杯生きないといけませんよ?」
「・・・やはり日本には帰れないのですか?」
「少なくとも私は帰り方を知りません。
ですが、私達は生きています。仕事をして賃金を得ないと生きてはいけません。
そこはわかりますね?」
「・・・はい。」
「なら・・・どうやれば生き残って行けるのか。
そして人生を楽しめるのか・・・それを考えないと勿体ないですよ?」
「それはそうですが・・・武雄さんは楽しんでいますか?」
「ええ、楽しんでいますよ。
折角、私達が居た世界とは違う概念の所に来ているのです。
そして私の知識を使うと私を拾ってくれた人達が幸せになってくれる。
こんなに楽しい事はないですよ。
鈴音、一言さしあげましょうか?」
「は・・・はい。」
「ヤダヤダと駄々を捏ねただけで世の中が変わるなら一晩中でも叫べば良いでしょう。
もしくは完全に世の中を無視していれば勝手に自分の都合が良いように変わるなら引きこもりになれば良いでしょう。
ですが、現実は駄々を捏ねても引きこもっても何にもなりません。
世の中を変えたいなら・・・生きたいなら自分で行動をするしかないのです。」
「確かにそうです・・・でもやり方が・・・」
「そんなの場当たり的にするしかないんですよ。
ここをこうすれば上手くいくなんていう教本はありません。
なら到達したい目標をまず先に考えてからそこまでに必要な事を割り出すのが一番です。
例えば掲げた目標に多額のお金が必要ならどうやって工面するかを考え、それの返済方法を考えて借り先に提案する。
そうやって考えて行けば良いのですよ。」
「はい。」
「鈴音の今の目標はステノ工房・・・いや。フリップさんが鍛冶職人として仕事を得る事ですね?」
「はい、そうです。」
「それは私にフリップさん自体が先ほど言いましたね?
再起をかけさせてほしいと。」
「はい。」
「私と行けばほぼ達成されます。
なのでこの目標は終わりです。
なら次はどうするのですか?」
「次?・・・え?」
鈴音は困惑する。次の事なんて考えてもいなかった。
「・・・鈴音、やはりアナタは私の下で働きませんか?
鍛冶職人を続けたいという事もあるでしょうが・・・
私が住んでいる街に着くまで時間はあります。
少し考えてくれますか?」
武雄が苦笑する。
「・・・はい。」
鈴音は生返事をするしかなかった。
「さて・・・皆の所に戻りましょうか。
あ、私達の出自は秘密でお願いします。
つまらない詮索をされてもアレですからね?」
「その辺はわかっています。」
武雄の言葉に鈴音は頷くのだった。
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