第386話 カトランダ帝国 東町に到着。倒産寸前の工房の話・・・
「来たね。」
「来ましたね。」
町の門辺りで1組の男女が街道を見ながらボーっとしていた。
2人の名前は男性がフィル・アーキン、女性がヘザー・ブルック。共にアズパール王国 王都守備隊 第二情報分隊隊員なのだが・・・
道行く人は「仲の良い夫婦がのんびりしているよ」と感じながら通り過ぎていた。
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武雄達一行が東町の門が見える辺りまで来ていた。
「予定通りですね。」
武雄が時計を見ながら言う。
「はい。
少し早いとは思うのですが・・・予定通りです。
キタミザト殿がケアを小休憩の時に馬にかけていて驚きました。」
「アリスお嬢様にも言われましたが・・・そんなに変ですか?」
「「「はい!」」」
皆が返事をする。
「馬も生き物ですからかけても問題ないと思うのですけど・・・」
「緊急時以外はかけない事と私達は習っています。」
バートが言ってくる。
「何故ですか?」
「馬がケアに慣れてしまうと毎回しないと動かなくなる可能性があるのです。
ですので緊急時の走り通しの伝令時以外にはしない事となっています。」
「なるほど。では、今後は出来るだけしないようにしましょう。」
武雄は頷く。
「キタミザト殿、マイヤー殿、お待ちしておりました。」
と、旅をしている夫婦っぽい人達が近寄って来て男性が声をかけてくる。
「キタミザト殿、残りの2人です。」
マイヤーが2人に目線を送りながら言う。
「キタミザト殿、第二情報分隊のフィル・アーキンです。
旅路お疲れ様でした。」
「ヘザー・ブルックです。
キタミザト殿、お待ちしておりました。」
昨日の2人とは打って変わりこちらはにこやかに挨拶をこなす。
「はい。
初めまして、タケオ・キタミザトです。
これから王都帰還までの間、随行をお願いします。」
「「はい。」」
武雄も馬を降りて挨拶をする。
「さて、着いて早々なんですが・・・
キタミザト殿、これからどういたしますか?
目的の店に向かうのでしょうか。」
アーキンが武雄に聞いてくる。
「そうですね・・・
まずは宿に行って休もうかと思います。
店は明日行こうと思います。」
「わかりました。
宿につきましては、事前にこちらで手配を済ませています。
ただ・・・申し訳ございませんが、個室4部屋の確保が出来なくてですね。
部屋が3つとリビング、簡易な厨房と湯あみ場がある長期滞在型の部屋しかご用意できませんでした。」
ブルックが申し訳なさそうに言ってくる。
「いえいえ、全く構いませんよ。
こちらから要望したかった厨房があるのは良いですね。
湯あみ場もあるのもさらに良いですね。」
武雄は「3LDKくらいかな?」と楽しそうに部屋を思い浮かべるのだった。
「そう言って頂いてありがとうございます。
では宿に向かいましょう。
バート、フォレット、構いませんね?」
ブルックが2人に確認を取る。
「「はい。」」
と返事をする。
「では、キタミザト殿。とりあえず宿に行ってみましょう。」
マイヤーの言葉に皆が移動をするのだった。
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「はぁ・・・この店を立ち上げて30年・・・
短かったような長かったような・・・」
男性が店の中でお茶をしながら店内を見回す。
店内は所狭しと木箱が置かれ商品棚には後は終われるのを待つだけの商品が並んでいた。
「ステノさんと画期的な物を作って行けると思ったのだが・・・
はぁ・・・俺もつくづく運がないのか・・・」
この男、この工房の主でアレホ・ビセンテという。
元々大物の剣や盾、フルプレートを作るのは不得意としており、魔法の指輪や各工房からの依頼で大物の意匠を手掛けていた。
「明日でこの工房は閉める・・・
そう・・・閉めないと・・・う・・・うぅ・・・」
アレホは誰もいない店内でそう呟き涙を流している。
「父ちゃん・・・」
店の奥にある作業場からそんな父を見る青年がいた。
息子のバキトである。
アレホは息子がこっちを見ているのに気が付き涙を拭って息子の所に行く。
「なんだ・・・バキト・・・居たのか。」
「父ちゃん、ステノさんとこの商品を扱ったからこんなことになったの?」
「・・・それは・・・結果的にはそうだな・・・
だが、バキト、ステノさんが間違っているのではない。
この国の魔法師組合が・・・この国の政治そのものがおかしいのだよ。」
アレホはバキトに向かって自身の考えを言う。
「ステノさんは・・・鍛冶屋『ステノ』は間違いなくこの国一番の発想を持っている工房だった。
小銃の考えも時計の考えも間違ってはいない。
この国を強くさせるために、人々が規則正しく生活する為にステノさん達は全員が知恵を絞っていたのだ。
そして史上初めて魔法師以外が魔法師と同等の攻撃が出来る武器を作り出した。
これは画期的なのだよ。職人としてあの工房は尊敬に値する。
それに協力が出来たのは職人として誇りなのだよ。」
「でも・・・魔法師組合が・・・」
「それは・・・正直に言えばステノさんの所の考えは革新的過ぎたのだよ。
まだ時代が追い付いていないんだ・・・」
「父ちゃん・・・これからどうするのさ。」
「わからん・・・ほとぼりが冷めるまでは地方で鍛冶屋をするしかないだろう。
それに今店を畳まないと借金を作ってしまう。
今でさえ売れないのに借金を作ることなどできんよ。
お前には辛い思いをさせるが・・・今は耐えてくれ。
いつか私達の技術が認められる時が来る。
その時まで時計作りの腕を鈍らせるな。
作り続ける事こそが職人の証だ。」
「わかったよ・・・今は耐えるよ。」
バキトは唇を噛みながら父親の言葉に頷くのだった。
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「おぉーーー♪」
武雄達が部屋に入るなりミアがポケットから飛び出し室内を飛び回る。
「ニャ!」
ミアをタマが追いかけていく。
「はは。ミア、タマ、移動中は窮屈でしたからね。
物を壊さない程度に楽しんで良いですよ。」
武雄は苦笑しながら苦言を言う。
「はい!」
「ニャ!」
チビッ子達は各部屋を所狭しと飛んで確認していくのだった。
「ははは、ミア殿もタマ殿も楽しそうですね。」
「この旅路で大人しくしていましたからね。
エルヴィス領内や王城内ならのんびりと飛び回らせるのですけどね・・・
流石にそれ以外だと制限をかけるしかないでしょうね。」
「まぁ・・・そうでしょうね。
と、キタミザト殿、買ってきた食材はどうしますか?」
「あ、リビングの机の上にお願いします。」
そう武雄が言うとアーキンとバートが持っていた宿に来る途中に買ってきた食材の袋を置く。
「さてと・・・部屋割りはどうします?
私とミア、タマがリビングで良いですかね?」
「「「いやいやいや」」」
皆がツッコミを入れる。
「何です?皆して。」
武雄が不思議がる。
「キタミザト殿がこの旅のリーダーなんです。
大きい部屋を使ってください。」
マイヤーがそう言い皆が頷く。
「え?だって・・・
アーキンさんとブルックさん組、バートさんとフォレットさん組、マイヤーさん・・・他に部屋がないでしょう?」
「それはそうですが・・・
いやキタミザト殿が一部屋使ってください。
私がリビングで寝ますので。」
マイヤーが苦笑する。
「・・・部屋割りがおかしくないですか?」
バートが異議を唱えるが・・・
「「おかしくないでしょう?」」
武雄とマイヤーがニヤリと笑いながら却下する。
アーキンとバートが「誰がこの2人に余計な事を教えたの?」と呆れる。
「主。」
部屋に入った時は楽しんでいたミアが静かに戻って来て武雄の肩に止まる。
タマも何も言わずにトコトコとリビングの机の下にやってくる。
「ミア、どうしました?」
「玄関横の部屋にたぶん魔法具があります。
あれはどういった意図でしょうか?」
ミアの言葉に武雄とマイヤーがアーキンとブルックを真顔で見る。
2人とも驚愕の顔を見せながら頭を振る。
「・・・どういった魔法具かわかりますか?」
「主、私では流石にそこまではわかりません。
ただ・・・他の部屋にはない感じがしたので・・・何かしらの魔法具があると思います。」
ミアが「んー・・・」と唸りながら言ってくる。
「マイヤーさん、何だと思いますか?」
「・・・ミア殿それはどこら辺にありましたか?」
「小さい絵から感じ取れました。」
「たぶん盗聴の類でしょうが・・・
宿屋の寝室に仕掛ける意図が難しいですね。
外交官が泊まるもう少し高い宿ではあり得るとは思いますが・・・」
マイヤーが悩む。
「ちなみに他の場所にはないのですね?」
「はい、違和感はその部屋の絵だけです。」
「キタミザト殿、どうしましょうか・・・」
バートが聞いてくる。
「ふむ・・・軽い話をしていても誰かに聞かれるのは気持ちが良い物ではないですね。
マイヤーさん、男性陣を使いこの部屋にある全ての絵画を外し受付に返してください。」
「全てですか?」
「ええ、全てです。
理由は・・・タマ。」
「ニャ。」
タマが返事をして頭を傾ける。
「タマが居るので絵画に傷を付ける訳にはいかないと言って引き取ってもらってください。タマ、一緒に行って顔を突き合わせておいてください。
その際の違和感がある者が居たら後で報告を。
あとその頭を傾ける仕草を受付でやってきてください。」
「ニャ。」
タマが頷く。
「わかりました。
アーキン、バート、すべての絵画を外せ。すぐに受付に持って行く。」
「「は!」」
2人は早速行動を開始する。
「キタミザト殿、私達はどうしましょうか。」
ブルックが聞いてくる。
「・・・盗聴があるなら食器類も怪しいでしょう。
短期間の滞在ですが・・・そちらも手を付けずに行きますか・・・
すみませんが、ブルックさんとフォレットさんは私と一緒に食器類を買いに行きましょう。」
「「はい。」」
「ミアはマイヤーさんと各部屋の確認をもう一度しなさい。
タマはミアとマイヤーさんの指示に従いなさい。」
「ニャ。」
「主、わかりました。」
「では、2人ともしばらく買い物に行きましょうか。
あ、マイヤーさん。アリスお嬢様には内緒で。」
「わかりました。
キタミザト殿が楽しそうに両手に花状態で買い物に行ったのは言わないでおきます。」
「ええ、この前の第2騎士団と同じ事を王都守備隊がしたくないなら言わない方が良いですよ。」
武雄が苦笑しながら言う。
残る5名が「絶対に言えないじゃん。」と心の中で突っ込むのだった。
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