第3591話 ステンレス鋼が納品されたらしいです。(領外はSUS、領内はSL-05液としようかな?)
研究所の3階 所長室。
「ふむ・・・予算が結構かかるんですね。
この予算で見ると売り上げを立てないといけないと思ってしまいそうですね。
・・・まぁ、何とでもなるでしょう。」
武雄がアスセナの企画書を見ながら言う。
「失礼します。
ご主人様、エルヴィス家より王都の専売局から『ステンレス鋼』というのが納入されたと連絡がありました。」
ジーナが所長室にやってくる。
「・・・早いですね。
これは・・・在庫があったのかな?」
武雄が企画書から顔を上げて言う。
「ご主人様、受け取ってきましょうか?」
「いや、早く言えば鉄板なので、持ち歩くのは大変でしょう。
明日か明後日か・・・急いでいないので、他の用事でエルヴィス家の馬車が出るのに相乗りさせて持って来て貰ってください。
2階の研究室の端っこにおいておけば良いでしょう。」
「わかりました。
連絡を入れておきます。
失礼します。」
ジーナが去っていく。
「・・・ま、展示即売会は良いか。
いくら出費するかは結果を聞いて判断しましょう。
さて、ステンレスが来たかぁ・・・」
武雄がアスセナの企画書を閉じて横に置いて背もたれに体を預ける。
「うーん・・・近代的なキッチンか、浴槽か・・・まずは折り曲げ技術を身に付かせる工房を必要としますが・・・
ステノ技研、サテラ製作所、ローチ工房・・・うーん、どこも忙しいかぁ。
ハワース商会の事もあるから他の工房を探す必要がありますかね?」
「タケオ、ステンレスのプレス加工は、タケオが思うように出来るでしょうか?」
チビパナが現れて聞く。
「銅や鉄を一体成形でのプレス加工というのはこの世界では一般的ではありません。
小銃の弾丸を作っているステノ技研が小さいながらも出来ているプレス加工の一種の絞り加工ですが・・・ステンレスは相当難度が高かったはずです。
プレス加工が普及しなければ、出来ないのでは?」
武雄が言う。
「ふむ・・・では、タケオはステンレス鋼を何に?」
「とりあえず昭和の高度経済成長期のキッチンの模倣でしょうか。」
「・・・確か初期のシステムキッチンでも絞り加工がされているはずですが・・・」
チビパナが考えながら言う。
「・・・基本的には木の上・・・木造のキッチンの上に貼り付ける事で対処し、流しの部分は陶器で作っても良いかもしれませんね。
もしくはSL-05液で用意しても良いですが、薄く作ると耐久性に不安があります。」
武雄が考えながら言う。
「全体的にSL-05液で一体成型で良いと思いますが?」
「・・・確かに。
ですが、流しは結構、衝撃が加わるものです。
なので、SL-05液で薄く作っても割れてしまうかもしれません。
この部分はしっかりと作らないといけないと思います。
なので、SL-05液で板状のキッチン台を製作しますが、流し部分には穴を開けた物を用意し、流しには陶器を配置するという手法が良いかもしれませんね。
・・・ステンレスでも同じ事が出来るでしょうね。」
「ふむ・・・タケオはステンレス鋼を普及させたいのですか?」
「SL-05液は原材料を秘匿する関係上、大々的な商売ができません。
そこで普及している鋼材とは違う鋼材を使い、同等な物を作って売り込めば、国内に普及しやすいです。
となると、消費者はステンレス鋼とSL-05液の板で比べられる。
他領においてはステンレス鋼の普及をしていき、エルヴィス侯爵領はSL-05液を普及していく。
これが、王国内で目立たなく、SL液を使っていける事だと思っています。」
「・・・いち早く製品化させて、国内全域に売ると?」
チビパナが聞く。
「ええ、コンテナ搭載馬車の注文が王家を中心に来ているようですが、もう少し増やしたいです。
王家相手なら私の意向で特殊な材料で口を封じれますけど、一般に売るとなると原材料が明確でないといけません。
ステンレス鋼は王城の専売局で作っています。
なので、皆が買える原材料です。
なので、すぐに模倣品が販売されるでしょうね。
ま、ステンレス鋼の普及が目的なので、これは良い事なのですが。」
武雄が言う。
「ふむ・・・普及が目的ですか・・・
SL液はエルヴィス侯爵領のみで普及を目指すのですか?」
「そういう訳ではありませんが、主にそうなりますかね?
輸送船に使いますからね。
こっちが上手く行くと、SL-05液が不足気味になるでしょう。」
「なるほど、SL液の生産量は決まっていますね。
将来需要が高まると思えば、今のうちから代替品を他領用に用意しておくという事ですね。」
チビパナが言う。
「まぁ・・・ステンレス鋼の加工品を最初に作って、売りまくる気でいますけど。」
「新しい工房を探した方が良いかもしれませんが、既存の協力工房が、どう考えるかですね。」
チビパナが言うのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




