第3557話 王都守備隊総長と話をしよう。(カトランダ帝国との慣例の戦争は、何か心に引っ掛かります。)
武雄達は諸々の打ち合わせを終えて、第八兵舎に戻って来ており、王都守備隊総長に挨拶に来ていた。
「キタミザト殿、連日の行事と各所との打ち合わせお疲れ様でした。」
総長が言う。
「無事に終えました。
まぁ、少々のお小遣いは貰いましたが。」
「はは、そうでしたね。
概ね、無事に終わったという所でしょうか。」
「そうですね。」
武雄が頷く。
「さて、雑談でもと思いますが、キタミザト殿、西側の今後の経過はどうなると思いますか?」
総長が聞いてくる。
「面倒な事にしかなりません。」
「そこはわかっております。
王都守備隊は行動が陛下からの命令のみとなっていて、総長という役職は他の武官より客観性を持って評価出来る・・・と思われています。」
「実際にそうでしょうね。
陛下からの命令以外は拒否が出来るのですから、他家からの干渉はないとみられるでしょう。
西側の各種懸念事項についても意見が求められるでしょうね。」
武雄が言う。
「・・・今後予定されているカトランダ帝国との慣例の戦争、そしてウィリプ連合国との戦争。
陛下に近い位置に居る事で、陛下がしたい事、国家としてしなくてはならない事、何が足らなく、何を準備しなくてはいけないか。
色々と情報が入ってきます。
ですが、カトランダ帝国との慣例の戦争は、どうしても心に引っ掛かりがあります。」
総長が言う。
「ふむ、それは・・・負けを前提としているという事ですね?」
武雄が言う。
「・・・戦争というのは浮き沈みがありますし、その場の天候等の環境にもよる物です。
言うなれば、『やってみなければ、勝敗はわからない』物です。
もちろん、勝つ為に入念に準備をするのは当然です。
そういう・・・全力で戦ったのちの敗北ならば、悔しくとも次を考える事が出来るでしょう。
ですが、カトランダ帝国との慣例の戦争は『負ける事』が前提にあります。
もちろん、そうせざるをえない理由もわかります。
ウィリプ連合国との事を考えれば、今、しておかないといけない事はあるともわかります。
なのですが・・・何か、心に引っ掛かるのです。
それが何かわからなくて・・・という相談をキタミザト殿に言ってみたのですが。」
総長が言う。
「・・・別に良いのでは?」
武雄が首を傾げながら言う。
「タケオさん、良いのですか?」
エリカが聞いてくる。
「むしろそこを蔑ろにしてはいけない気がしますけど。
そもそも『カトランダ帝国に負けるのが前提』というのは陛下と軍務局の方針でしょう?
当人達に言っていませんよね。
その方針は、現段階の王城から見た西側の状況と評価を元にしていて『負けもやむなし』という結論があるからです。
なので、当人達がどう臨むのかという所の話ではありません。」
「まぁ、そうですね。」
エリカが頷く。
「総長が気にしているのは・・・たぶん、王城が勝利を諦めている事の方です。
慣例の戦争とはいえ、戦争は戦争。
兵士に死傷者は出るでしょうし、戦場の雰囲気は最悪になるでしょう。
西側の領主達の評判は良くもなく、慣例の戦争を実施した経験も危うい感じだというではないですか。
そんな中、王城が勝利を目指さないという方針が出た事が総長は心に引っ掛かりがあるのではないでしょうか。」
「うーん・・・わかるような気もしますが・・・」
エリカが考えながら言う。
「総長も人間だという事です。
『他人の所業を見て、自身を律する』と言う事を実施するのが真っ当な人間です。
それは『相手の悪い所を見て、自身に反映させよう』という事ですが、裏を返せば、『誰かが失敗をし、上司に叱られているのを見て、自分はそういう失敗はしないでおこう』と考え、その線上に『相手が上司に叱られている事は自身にも起きる可能性がある』と飛躍する考え方に陥る事があるでしょう。
要は、総長は陛下から『こいつらでは勝てない』と言われる不安があって、そして、それを言われている西側に同情しているのでしょう。
それと端から諦めている王城に思う事があるとも思いますけど。
それを踏まえて、私は別に問題はないと思います。
総長は立場上、客観性で戦場等を見る事もできるでしょう。
そして、一個人としての意見も言えば良い程度なので、その引っ掛かりを無理に押し込めたりせずに陛下に話せば終わりです。」
「・・・ふむ・・・総長殿、どうなのですか?」
「ふむ・・言われてみるとそうなのかもしれません。
職務としての意見と一兵士としての意見。
これを忌憚なく言えば良いと。」
「はい、陛下相手に言うくらいなら大丈夫でしょう。
他局が居る場面では、立場があるでしょうから言わないでおいて、後で陛下にだけ言えば良いだけです。
それで総長殿の気分がスッキリするのならするべきことです。」
武雄が言うのだった。
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