第3506話 魔王国の事実をお教えしましょう。(魔王国への知識をアップデートだ。)
「そんな経緯を踏まえ、ブリアーニ王国と隣接する事になったエルヴィス家と、その補佐をするキタミザト家は、ブリアーニ王国と友好的な関係を構築すべく、交渉と交流を進めています。」
武雄が言う。
「・・・それって、外交局の仕事ではないんですか?」
少し考えてから、ボールドが武雄に聞いてくる。
「あー、そっか、皆さんはまだ知らされていないか・・・
えーっと・・・現在、外交局は西側のウィリプ連合国とカトランダ帝国に注力しているので、東側の魔王国とブリアーニ王国まで手が回りません。その為、エルヴィス家とキタミザト家に対応が任されています。」
武雄が言う。
「キタミザト殿、それはどういった理由からでしょうか?」
エイミーは、皆の疑問を代弁する事で、武雄が説明しやすいように水を向ける。
「簡単に言えば『カトランダ帝国とウィリプ連合国との雲行きが怪しいから、外交局はそっちの対応に全力で取り組みたい。
西側の状況が落ち着くまでの間、魔王国やブリアーニ王国との交渉や、東側の外交に関する情報収集はエルヴィス家とキタミザト家に任せたい』と陛下に言われています。
私は『越権行為になるから外交局がするべき仕事です』と言って、断ろうとしたんですけどね。
『諸々が落ち着いたら外交局に任せるから、それまでは穏便に付き合っておいてくれ』とね。
皆さんは幻滅するかもしれませんが、我が国としては魔王国、ブリアーニ王国と事を構える気は今の所ありません。
それに、魔王国とブリアーニ王国は領地異動をしたばかりなので、当面は国内整備に力を入れると考えられる為、こちらから何か仕掛けなければ、魔王国とブリアーニ王国は大きな動きを見せず停戦を維持出来るだろう。と考えての方針です。」
武雄が言う。
「つまりは・・・アズパール王国は東側は現状維持を図りつつ、西側での活動に人的資源を集中させるという事ですか?」
ボールドが聞いてくる。
「はい、陛下からそのように聞いています。
皆さん、『忙しいのは外交局だけ』と思うのは違いますからね?
ここで、少し想像力を働かせましょう。
万が一の事態として戦争が起きた場合、国内の食糧流通の安定化、避難民の受け入れや経済活動の安定化、日々の生活環境の維持等々、担当する各局にも対応が求められます。
その時、所属先の手足となって、現場で動くのは皆さんですよ!
局の意向を踏まえて動き、どういう結果を導かねばいけないのか、その結果が他局にどう影響を及ぼすのか考える必要があります。
まさに『結果が保証されていない社会』を肌で感じる事になるでしょう。」
武雄が言う。
「・・・キタミザト殿、その『万が一の事態』は起こり得ますか?」
此処でも、エイミーが皆の疑問を声にする。
「それを見極める為に、外交局等が全力で情報を集めています。
そうなるかは陛下と相手国がどう考えるかでしょう。
我が国が嫌と言っても、向こうが『戦争だ』と言えば戦わざるを得ないでしょうしね。
それに万が一というのは、調整期間が必要です、食べ物に武器に防具に輸送方法・・・外交局、軍務局だけで戦争をするのではなく、各局、各領主、全国民の協力が不可欠です。
なので、その情報の精度を高める為に外交局は精一杯努力している最中です。」
「・・・そうですね。」
ボールドが頷く。
「さて、魔王国側の話は、とりあえずこれで良いですかね。
先ほども言いましたが、外交局はウィリプ連合国とカトランダ帝国に注力していますが、
取り敢えず、カトランダ帝国とドワーフ王国については、差し当たって大きな問題があるとは聞いていません。
国交で不利益が出ないように、誠実且つ堅実に対応していけば問題はないでしょう。」
「すると・・・ウィリプ連合国に問題が?」
ボールドが武雄に聞く。
「えぇ・・・予断を許さないという感じですね。
簡単に説明すると、ウィリプ連合国は複数の国が中央政府の下に集まった連合国家です。
我が国との違いは、奴隷制度を採用している国だという事ですね。
奴隷の主な入手経路は、遥か遠方のデムーロ国です。デムーロ国は魔王国の南に位置する国家です。」
「ウィリプ連合国から見れば魔王国ですら遠いですが、更にその南に位置する国なんですね。」
ボールドが聞く。
「ええ、そのデムーロ国が、どこから奴隷を調達していたかというと、魔王国とブリアーニ王国の国民を拉致していたんですよ。」
「・・・」
皆が武雄の告白に押し黙る。
「その事実を知った魔王国とブリアーニ王国は激怒し、デムーロ国に侵攻して国土の半分を約1週間で攻め落としましたよ。」
「キ、キタミザト殿は、先ほど魔王国とブリアーニ王国に行ったと言っていましたが、その戦争を見に?」
ボールドが聞いてくる。
「ええ、魔王国から招待され、陛下の命を受けて観戦武官として赴きました。
陛下には報告書を提出しています。
未だ、ボールド殿達には報告書は回ってきてないでしょうね。
報告書を提出したのは王城に私が到着してからなので、4日前ですし。
内容の精査中でしょうからね。」
「・・・」
皆が武雄の告白に「内容が最新過ぎる」と愕然とする。
「・・・キタミザト殿、魔王国とブリアーニ王国連合とデムーロ国の戦争が1週間で終わったというのはわかりました。
キタミザト殿の私見で構いませんが、魔王国と戦って我が国は勝てますか?」
「勝てませんね。」
エイミーの問いに、武雄が即答する。
「そうですか・・・勝てませんか。」
「皆が一致団結して、兵士も国民も戦争に協力をして・・・国家の総力として魔王国と当たっても勝てないでしょう。
それ程までに強い国ですね。魔王国は!
そもそも、我が国の2倍から3倍の総兵力があります。
それに、我が国の精鋭であり王都に常駐する王都守備隊や第1第2騎士団のような、王城の意のままに動かせる即応部隊は22000名以上。
これだけでも我が国と兵数は同等ですし、魔王国の兵士は建国時の理念である『外敵から国民を守る』を体現する為に日夜、訓練している猛者達です。
残念ですが、勝つのは難しいでしょう。」
「なるほど・・・陛下が魔王国とは穏便に済ませたいというのは、そういう事実があるからなのですか。」
ボールドが頷くのだった。
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