第3505話 王立学院で講義をしよう。(新たに隣接するブリアーニ王国とは。)
王立学院、3年生の教室。
武雄が教壇に到着するといつの間にか3年生たちが真面目に席に着いて話を聞く体勢を取っていた。
ジーナは、空いていた端の席に座り、ノートを出して書記をするようだ。
エイミーの隣にはドネリーも座り、準備万端です。
「先日、侯爵になったキタミザトです。
王立学院には何度か訪問しているので、顔を見た事が有る人も多いかな?
まぁ、『そういう貴族が居るんだ』程度の認識で構いません。」
武雄は、そう言いながら3年生達の顔を見回して、少し間を置く。
「諸君、ようこそ。
結果が保証されていない社会へ。」
武雄が、少し低めの声で語りかけると皆が姿勢を正す。
「ふふっ♪
脅しているようにも聞こえますが、事実なのでね。」
武雄が笑いながら言う。
「要は、『今までとは学び方も結果の出し方も違いますよ』という事です。
これを理解しているかどうかで、受けるショックが違いますからね。
頭の片隅に入れて置いてください。
さて、皆さんは、様々な部署で仕事に就く事になります。そこで見聞きし体験する事は、今まで経験した事が無い物ばかりとなるでしょう。
挫折する事もあるでしょうし、悩む事もあるでしょう。
もちろん楽しい事もね。
その全てが、貴方達の糧になります。
まぁ、多少の失敗で腐ったりせず、仕事に励みなさい。
時に派手な成果も良いものですが、普段からコツコツと積み上げた地道な成果も大事ですからね。」
武雄が言う。
「そうですね・・・言える事、言えない事もありますけど・・・現状を正しく認識して貰いましょうか。
題材は周辺国。
ボールド殿、大丈夫ですかね?」
「平気です。
キタミザト殿が説明するのが妥当だと思います。」
ボールドが言う。
「どうやら、学院長の許可は貰えた様です。
ご存じの通り、アズパール王国は複数の国家と国境を接しています。
ウィリプ連合国、カトランダ帝国、ドワーフ王国、魔王国、そして、つい最近ブリアーニ王国が加わりました。
皆さんには殆ど馴染みのない国でしょう。
概要としては、魔王国傘下の同盟国であり、エルフが運営する国家です。
魔王国の方で領地異動が実施され、アズパール王国のゴドウィン伯爵領の隣に魔王国、エルヴィス侯爵領の隣にブリアーニ王国となりました。
この情報は・・・王城には、1月9日に領地異動の親書が届いていた筈です。
今日が1月15日なので、1週間前の出来事ですね。」
武雄がサラリと説明するが、生徒達からすれば超最新の情報だった。
生徒達の表情に緊張が走る。
「あれ?・・・ボールド殿、この情報はダメだったのですか?」
武雄が、教室内の空気を感じてボールドに確認する。
「まぁ・・・未だ、生徒達のレベルにまで具体的な情報が降りてきていなかったかと。
各貴族には、次の日には速達で報告されていたようです。
私の所にも、報告は来ましたが、エルフの国が隣接したとありましたね。」
ボールドが言う。
「そうですね。
ついでに、簡潔にブリアーニ王国の成り立ちを説明しましょうか。
550年くらい前のアズパール帝国時代、我が国の東にコラットル王国というエルフの国がありました。
当時の我が国の攻勢が強く、国家存続が危ぶまれる状況下に置かれたコラットル王国は、自ら国家を解体。
王家を新興国家である魔王国に移住させ、国土を魔王国に併呑させました。
そして、森を隔てた場所に領地を与えられ、アズパール帝国からの侵攻に備えて戦闘部隊を組織して新たな国家を作った。
その国家がブリアーニ王国です。」
武雄の説明に、生徒達が息を呑む。
「つまりは・・・遺恨のある国家が隣に来たと言う事ですか?」
ボールドが武雄に確認する。
「そうなりますかね。
領地が異動になる前に、私は陛下の命令で魔王国とブリアーニ王国に赴いて、打ち合わせ等をしてきました。
その中で、ブリアーニ王国の農家の方と話をする機会もあったのですが、当時の戦役に参加された方に会いましてね。
当時のブリアーニ王国の精鋭部隊に居たそうなんですけど、『アズパール王国に思う事はありますか?』と聞いたら。
『戦争をしている時なら有ったかもしれないが、今となっては何も無い。
戦争は友や兄弟が殺されるが、こちらも向こうの兵士を殺す行為であり、そんなやりとりに個人の感情なんて入れてはいけない。
代替わりをした彼らの子や孫に何を言っても、彼らからしたら遠い昔の事を今更言われてもと言うだろうな』という感じで答えられ、笑われましてね。
懐が深い方でした。」
武雄が言う。
「そんなことが。」
「ええ、その農家の方や文官達と話をした感じでは、現在もアズパール王国に悪感情を抱いている方は少数だと感じましたね。
交渉においては対等に出来るだろうという期待を持ちました。
教訓としては、長寿種と相対するという事は、こちらは代を重ねて忘れてしまう事もあるでしょうが、ブリアーニ王国は存命されている可能性があり、詳細なやり取りを覚えているかもしれないという事でしょう。
なので、我が方は歴史的経緯を含めて情報の伝達を正確にし、交渉において、不利にならないようにしないといけないですね。」
武雄は、生徒達に語りかけるのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




