第3502話 439日目 エリカ達と雑談。2(コショウとドラゴンの革は高粗利商品です。)
「通常、国同士の貿易は輸入と輸出がほぼ同額になるのが理想的なのです。
重要なのは、相手の国から買い入れる輸入額と、自国の物を相手に売る輸出額が、何方か一方に偏ってしまうと大変不都合な事態を招く可能性があります。
小麦を例に考えてみましょう。
安い小麦を他国から大量に買い付けて、金貨で支払ったとします。これには二つの意味があります。先ず、国内で流通している金(金貨)の総量が目減りします。次に、貿易赤字に大きく傾けば邦貨(自国通貨)の流出が拡大します。
これらは、アズパール王国の国際的な信用の下落と、経済競争力の低下を招きます。また、小麦の大量輸入を続ける限り国内で流通する金(金貨)がどんどん国外に流出していきますね。
なので、国内に金(金貨)が少ないという事は、大きい買い物をするのに金(金貨)を掻き集めないといけない、誰かが金(金貨)を掻き集めると流通している金(金貨)がさらに減り、金貨の取り合いになる・・・国内の物価が下がるでしょうね。
でも、そもそも相手側から金(金貨)を回収しようにも、此方の国の物を相手に買って貰えていない。つまり、需要がない状況では輸入超過を是正出来ず、アズパール王国が弱体化していく状況を甘受するしかありません。」
「「ふむふむ。」」
エリカとジーナが頷く。
「更に悪い事に、安い輸入小麦が流通するという事は、自国産の小麦が売れなくなるという事です。
先ほども言いましたが、消費者は品質が同じであるのなら安い物を買い求めますからね。
なので、小麦農家の収入は、どんどん下がります。
小麦農家を止めて、野菜農家をする方も出てくるかもしれませんし、離農される方も現れるかもしれませんね。
なので、他国産の方が安いからといって、安易に主要穀物の輸入を拡大するのは危険なのです。
輸入するにしても、国内もしくは領内の生産量や消費量を勘案して悪影響の出ない範囲に輸入量を制限していくか、輸入品の流通価格を調整するのが望ましいですね。」
武雄が言う。
「タケオさん、エルヴィス家はどうなのですか?」
エリカが聞いてくる。
「災害等の緊急時を除き、魔王国およびブリアーニ王国からの小麦の輸入は、両家で消費する量の範囲としています。
今は、品質の良いパン用の小麦とスイーツ向けの小麦の、2種類の種麦を魔王国から取り寄せ、エルヴィス領内で栽培して普及させるように政策を進めていますね。
ゆくゆくは、2品種の小麦の作付面積を拡大して、領内だけでなく領外への販売を増やしていこうと目論んでいます。
とはいえ、それは随分と先の話ですね。
エルヴィス家では、目先の利益よりも将来的な領地の発展を主眼に置いています。」
武雄が言う。
「・・・ご主人様、ご主人様もやる気になれば、安い小麦の輸入でボロ儲けが出来ると考えているのですよね?」
ジーナが聞いてくる。
「ウィリプ連合国の小麦程の安値ではないでしょうが・・・魔王国の小麦を使えば、キタミザト家に多大な利益を齎す事は可能でしょうね。
ですが、弊害として、エルヴィス侯爵領内の小麦農家はボロボロになってしまいますけどね。」
「・・・タケオさん、それを踏まえて実行出来ますか?」
「出来ますよ。
単純に言えば『輸出で外貨を稼ぎ、その外貨で食い物を輸入すれば良い。』と考えれば国としての貿易収支はある程度拮抗するでしょう。国の貿易収支を無視すれば、小麦の転売だけでキタミザト家はボロ儲けですしね。」
「それは・・・極端ですね。
農家の反発は?」
「建前上、国は農家を見捨てる事が出来ませんから、小麦の生産を後押ししていますけど・・・
他国から穀物を輸入した方が国内で作るよりも安く、利益が大きいとなれば、そっちで金を稼ぎたくなるのが人情ですよ。農家だって楽な方へ転びますよ。
長距離輸送が増えれば、運送業からの税収も増えそうですしね。」
武雄が言う。
「うーん・・・身につまされる思いです。」
エリカが考えながら言う。
「まぁ、誰が見ても、カトランダ帝国は輸入で他国に依存していますからね。
一方が多額の利益を得る様な輸出入は色々と問題が発生しますので、両国間での貿易収支は出来ればトントンになる位が望ましいのですよ。」
武雄が言う。
「魔王国やブリアーニ王国との輸出入額は、どうなのですか?」
ジーナが聞いてくる。
「・・・小麦の輸入に関しては、飲食店数軒程度ですね。
エルヴィス家は南町の村を使い、魔王国の小麦が作付け出来るか、検証を始めました。
ゆくゆくは、領外に向けて高品質のパン用小麦を販売出来ればと考えています。
他の輸入品は、領内の既存産業を圧迫する様な物はありません。
また、コショウに関しては、アズパール王国内に無いことから、高粗利商品としてキタミザト家の収入に貢献してくれていますね。
今の価格を今後10年間は維持しますが、その後、魔王国だけなくブリアーニ王国からもコショウを輸入出来る様にするので、仕入価格と販売価格の改定を行います。
幾らにするかは・・・両国とも協議をしますが、今の半額ぐらいになるでしょうか?」
「半額ですか・・・ご主人様、それでも魔王国で流通している価格より高めの仕入価格ですよ。」
「はい。
魔王国産の黒コショウ1kgが銅貨80枚で、魔王国で仕入れられます。
これを、11年間に渡って月々40kgを出荷する事を条件に、1kgを銀貨2枚として契約しています。
エルヴィス家には1kgあたり銀貨4枚で10kg、王城には1kgあたり金貨1枚で30kg卸します。これで毎月40kgになります。」
「・・・あこぎな商売ですね。」
エリカが言う。
「ふふーん、ドラゴンの革とコショウは良い商品ですよ。
で、10年後にはブリアーニ王国からも買い付けるので、単価としては1kgあたり銀貨1枚で取引したいですね。
この金額なら普通に輸入している金額と変わりないでしょう。
あとは、売値を徐々に下げて行くという事ですかね。」
「ご主人様、それでは収入が下がってしまうのは致し方ないという事ですか?」
ジーナが聞く。
「違いますよ。
例えば、粗利を半分にして売るのなら、3倍の量を輸入して完売したとすれば、以前の1.5倍の粗利額が稼げる計算です。
なので、将来は量を買い込み、国内に広く流通させる段階に入ります。
この方針をブリアーニ王国と魔王国にも伝えて、10年後を見据えた作付けを依頼しなくてはいけませんが、ブリアーニ王国は領地替えをしたばかりですし、もう少し落ち着いたら相談してみますかね。」
武雄が言うのだが、ジーナとエリカは「これは・・・当分、競合してくる人は現れないな?」と思うのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




