第3496話 ラックと商談だ。(白き妖精を卸させて。)
王都のラックのお店。
開店前の店内、武雄とラックがカウンターで打ち合わせをしていた。
「これが『白き妖精』ですか。」
ラックは、武雄が持ち込んだワインボトルを眺めている。
「はい、ブリアーニ王国から私のみに輸入が許され、エルヴィス侯爵領でのみ少量が流通しているワインです。
これを、ラックさんの店限定で卸そうと考えているのですが?」
武雄が言う。
「うちの店の場合、先程の説明ではウォルトウィスキーについては販売促進の為に低価格で販売をし、この白き妖精には付加価値を乗せて幾らでも高く売って良いという事ですね?」
「はい、1本銀貨2枚で卸させて貰います。」
「かなり強気の価格設定ですね・・・まぁ、王都での取り扱いがこの店のみで、毎月限定した本数しか供給しないとすれば、卸値も強気になりますか。」
「希少性を前面に出し、ここでしか味わえないワインとして売るんです。
私達は、他から引き合いがあっても、ラックさんの店にしか卸しませんよ。
もちろん、ブリアーニ王国も私以外には輸出しません。
なので、他店で取り扱われた場合、ほぼ確定で偽物です。
エルヴィス侯爵領で若干量が流通しますので、そのうちの数本が王都に入って来るかもしれませんが、それは一時的な物です。。
今後、エルヴィス領では瓶での提供を止めれば良いだけですね。
その辺の対策は、エルヴィス侯爵領で考えます。」
「ふむ・・・これをいくらで売るか・・・ですか。
付加価値とはいえ、高額にして客が手に取りますかね?」
ラックが悩まし気な顔をする。
「ある一定の客層には効果的でしょうね。
人という生き物は、皆が品質や味を基準にして高い物を買っている訳ではありません。
価格が高ければ美味しい物と思い込んで買う人も居ます。」
「・・・うーん・・・」
ラックが考える。
「ラックさん・・・・・・例えば、このお酒の仕入れ値は幾らですか?」
武雄が席を立ち、カウンター内の酒瓶を持つ。
「そのブランデーは・・・確か、銅貨15枚前後だったと。」
「そうですか。
グラスをお借りしますね。」
武雄がブランデーとグラスを持って、席に戻ってくる。
「仕入れ値が銅貨15枚のブランデー・・・ふむ、控えめな香りですが、普通に美味しい。」
武雄が少しグラスに注いで、軽く揺らしてから飲む。
「店頭価格は銅貨40枚くらいですかね。
飲みやすく良い酒ですよ。」
ラックもグラスに注いで飲む。
「このブランデーを、店頭で銅貨70枚と謳ったらどうなるでしょうか?」
「それは・・・流石に気付くのでは?」
「わかる人にはわかるでしょうが、わからない人にはわからない。
私は、ラックさんに安い酒を高い値段で店に出せとは言いません。
王城の資金が入っている店なのです、あこぎな商売は控えないといけないでしょうし、常識の範囲で利益を乗せて堅実な経営をするべきでしょう。
ですが、1個ぐらい値段設定が高い商品が混ざっても変ではないと思いますよ?
私が卸していると言えば、財政局辺りは諦めますって。
それに、そもそもの仕入れ値が割高な銀貨2枚なのですから。
仕入れ値に合わせて、ちょっと高めの利益を乗せても良いと思います。」
「・・・はぁ、キタミザト殿の言い分は、わかりました。
この白き妖精を卸してください。
口づてに、この店でしか飲めない珍しい酒の話が広まれば、今まで来なかった裕福な方も来るでしょうから、仕事の役にも立つでしょうしね。」
ラックが言う。
「はい、お願いします。」
武雄が頷く。
「「「失礼します。」」」
店の扉が開き、女性陣が入ってくる。
「あれ?キタミザト殿、もう来てたんですね。」
「え!?遅かったですか?」
「連絡された時間通りに来たよね?」
武雄を見て女性陣が騒いでいる。
「キタミザト殿とは商談中だ。
早く着替えて、開店の準備をしろ。
今日は予定通り、キタミザト殿の同期方が来るから気を引き締めろ!」
「「「はーい、お父さん。」」」
女性陣は、武雄に会釈しながら店の奥に入って行く。
「慕われていますねぇ。」
武雄が笑う。
「はぁ・・・舐められているのか、ふざけているのか・・・
隊で仕事をする時はしっかりしている者達なので、隊員としての実力は十分なんですけどね。」
ラックがため息をつく。
「失礼します。」
「よろしくお願いします。」
フォレットとブルックが入って来る。
「所長、早すぎです。」
ブルックが、武雄に文句を言う。
「はい・・・すみません。」
武雄が返事をするが、心の中では「私が来る時は、やっぱり、この2人も召集されるんだね」と若干、落胆していたりする。
「ブルックが居てくれて助かった。
今日は人手が足りなくてな。」
ラックが言う。
「さっきまで、そっちの隊の仕事を手伝っていたんですよ。
報告はアンダーセン隊長から聞いてください。」
「あぁ、今頃聞きに行っているだろう。」
ラックがブルックに言う。
「キタミザト殿、もう始めているんですか?」
フォレットが武雄に聞く。
「ええ、コレ店頭で銅貨70枚のブランデーなんですけど、ラックさんと試飲をね。
飲んでみて、感想を聞かせてください。」
そう言って武雄が新しいグラスに注ぎ、ブランデーを勧める。
「失礼しまーす・・・香りもちょうど良くて美味しいですね。
やっぱり、良いお酒は良い香りがしますね。」
フォレットが言う。
「所長、私にもください。」
「はいはい。」
武雄が、ブルックの分もグラスを用意する。
「・・・美味しいですけど、銅貨70枚の物にしては、香りが少し薄くないですか?
・・・んー・・・銅貨50枚くらいで同じ感じのがありそうですけど・・・」
ブルックは、戸惑いながら感想を口にする。
「えー、この薄いのが値段が高い所以では?」
「高いともう少し香りが強くなると思うけど?」
フォレットとブルックが、各々の考えを主張し合う。
「・・・」
武雄がラックを見る。
「ちゃんと教育します。」
ラックが言うのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




