第3484話 交渉をしよう。(うーん・・・その金額で妥協するか。)
「賠償・・・ですか?
それは・・・理由をお聞かせいただけますか?」
アドラムが武雄に聞く。
「アドラム殿に適切な教育が施されていなかったので、今回の異種族への差別発言が行われました。
私やゴドウィン伯爵殿は、異種族雇用の先駆けとして執事やメイドの雇用で実績を作り、アルダーソン男爵殿も研究所の室長という高位の役職に異種族を採用するという実績を作った。
これは、王城が実施したくても未だ出来ていない、画期的な事例なんですよ?
今回、ゴドウィン伯爵殿がお付きとして異種族の子供達を連れてきたのは、王城に異種族雇用の実績を見せる目的もあったでしょう。
なのに・・・『アズパール王国は、法を順守して納税をきちんと行えば、種族に依らず国民と見なす』として、今後の異種族雇用拡大を国が推進しているのを真っ向から否定しましたよね?」
「・・・そ、そうですね。」
武雄の言葉に、アドラムが頷く。
「私達3人が苦労して異種族雇用の実績を作ったのに、アドラム殿のお付きが余計な事を言って、アズパール王国の雇用制度は『異種族に排他的だ』という印象を与えました。
それも王城で。
・・・なので、私達は『アズパール王国はその様な排他的な国ではない』という事を、異種族のお付き達に示さねばなりません。
その為には、少なくない経費が掛かるんです。
各々のやり方によってね。
それを金銭で賠償してくれるなら、御子息の起こした不始末は『謝罪を受け取ったので示談にしてあげますよ?』という提案です。
この一件は、陛下の耳にも入るでしょう。
ですが、私達3人が『個人間の揉め事ですし、既に示談済みです。』と言えば終わる話です。
アドラム殿、今回の件はすぐ終わらせるべきだと思いませんか?」
武雄が言う。
「ふむ・・・それで、賠償の金額ですが・・・」
アドラムが、武雄の顔色を伺う。
「そうですね・・・各々に、貴族報酬10年分を支払って貰いましょうか?」
武雄がにこやかに言う。
「じゅ、10年分・・・」
「アドラム殿の御子息は、それだけの事をしでかしたと私は思いますが?
コツコツ募集等をして、やっと異種族の採用にこぎつけたのに、誤解を解くために各家で余計な仕事をする羽目になりました。
そして、雇用条件や労働環境の改善は、それを見ている周囲の人間種の方へも実施しないといけない。
経費が嵩むばかりですよ。」
「お三方の貴族報酬10年分など・・・我が領にその様な蓄えは・・・」
「そんなの関係ありませんよ!
私は、アドラム殿の御子息がやらかした不始末に対する金銭賠償を、管理監督者である貴殿に請求しただけです。
示談が嫌なら、私達は王家と王城に正式に、貴家に対しての抗議を申し立てるだけです。
陛下や王城が、貴家に対してどの様な処分を下されるか・・・金銭では済まされないかもしれませんがね。
私はどちらでも構いません。」
「う゛ぅ・・・」
アドラムが難しい顔をする。
「・・・ですが、そうですね・・・私達は賠償金を一括で支払って欲しいところですが、アドラム殿が分割払いをお望みというのであれば・・・王城に立替払いをして貰いましょうか?
間に財政局を挟んで、私達は財政局から一括で支払いをして貰い、アドラム殿は財政局に分割で返済するという事にすれば良いでしょう。
借金が1か所なら、返還期限と金利の交渉も可能でしょうからね。」
武雄が言う。
「うぅぅ・・・・・・キタミザト殿!申し訳ない!
息子の再教育の徹底を約束する!だから貴族報酬5年分・・・いや7年分に値下げして貰えないだろうか!」
アドラム殿が頭を下げる。
「・・・・・・」
武雄がゴドウィンとアルダーソンを見ると、2人から「やり過ぎだ」と目線で返される。
「そうですか・・・では、8年分でどうでしょう?
お支払いは直接ですか?」
「うぅ・・・・王城を通して頂けると・・・」
「わかりました。
・・・財政局長を呼んでください。」
武雄が、目の合ったメイドに頼む。
「畏まりました。
すぐにお呼びいたします。」
メイドが退出していくのだった。
その頃、精霊達はというと、精霊通信で井戸端会議をしていた。
(なぁ・・・貴族報酬とはどのくらいだったか?)
ムンムが聞いてくる。
(ムンム、知らないの?)
アトロポスが聞き返す。
(アトロポスは知っているのか?)
(しらなーい、誰か知っている?)
(はぁ・・・ムンムもアトロポスもその辺知った方が良いですよ。
貴族報酬は一律で金貨300枚が毎年支払われます、そこに個々の爵位報酬が加算されます。
男爵は+0、子爵は+金貨100枚といった形ですね。
タケオが貴族報酬ベースにしたのはアルダーソンが居るからでしょう。
アルダーソンは現時点で男爵、この後子爵ですが、爵位報酬では旨味がないでしょう。)
パナが言う。
((なるほどねー。))
ムンムとアトロポスが言う。
(3人に8年分となると・・・金貨7200枚かぁ。
これって多いの?)
パラスが聞く。
(『領地持ち貴族なら払えない金額ではない』とエイミーが言っていますよ。)
アルが言ってくる。
(そうなんだね。
パナ、タケオは何に使うのかな?)
パラスが聞いてくる。
(福利厚生でしょうね。
銭湯を作ろうと企画していますので、その足しにするでしょう。)
パナが言う。
(ほぉ、銭湯とは。
仕事終わりに風呂に入って、一杯飲むのが良いだろう。)
マリが言ってくる。
(あ、マリも銭湯に入りたいんだ。)
(うむ、銭湯は良い物だ。
だが、スミスの立場では銭湯通いは出来ないだろう。)
(スミス、当主だもんね。
なかなか行けないか。
私は、ジーナを銭湯に行く気にさせないとね。)
パラスが言う。
精霊達は、その後も井戸端会議をしているのだった。
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